技術を開発・保有する英Evoveに出資
栗田工業株式会社(以下、クリタ)は、塩水から直接リチウムを分離・回収する「DLE(Direct Lithium Extract:直接リチウム抽出)」注1技術を開発・保有する英Evove Ltd.(以下、Evove)に対し、2025年10月7日に出資を完了して筆頭株主となった。これにより、クリタは同社DLE技術の世界的独占使用権を取得し、戦略的な協業を推進する。2025年10月15日に発表した。
2027年度目標にDLEプラントの拡販体制を立ち上げ
EV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)などエコカーへのシフトや、再生可能エネルギー普及に伴うエネルギー貯蔵用途で、リチウムイオン電池の需要が世界で拡大している。一方で、リチウムの安定供給が不安視されており、従来のリチウム鉱石や南米の塩湖かん水からの抽出以外の手法が模索されている。DLE技術は、従来の原料とは異なる地熱水など帯水層中の塩水からリチウムを抽出するのに加え、抽出時の水使用量やCO2排出が少ないという特徴がある。
クリタは、水処理分野で蓄積した技術や知見を活かせると同時に、バッテリーのサプライチェーンや関連産業の環境負荷低減に寄与できると考え、DLEに係る新規事業の可能性を調査していた。 その中で、Evoveが独自に開発したDLE技術に着目した。同社の技術は、水処理分野と親和性の高いナノろ過膜(NF膜)注2とイオン交換樹脂を用い、高濃度かつ高純度のリチウム抽出プロセスを実現する点に特徴がある。
クリタは2024年からEvoveと共同でDLE技術の評価と市場調査を実施。さらに2025年1月からは、Evoveが実際の原水を用いたパイロットプラントによる実証を行い、リチウムの回収率や純度において経済性が見込めることを確認した。 これらの結果を踏まえ、クリタが保有するプラントのエンジニアリング力が活かせる分野であると判断し、今回の出資、独占使用権の取得、戦略的協業の合意に至った。
今後、両社でEvoveのDLE技術のさらなる最適化と、DLEプラントのスケールアップ化を目指す。クリタは、電子産業で培ってきたEP+モジュールモデル注3などのエンジニアリング力を活用し、DLEプラントの設計から製造までの工期短縮や省スペース化、さらには周辺設備を含むメンテナンスサービスまでを視野に入れた事業展開を進める。2027年度を目標としたDLEプラントの拡販体制の立ち上げに、グループの新規事業の一環として取り組む。 同社として第1号となるDLEプラント案件には、英国の鉱物開発企業であるNorthern Lithium Ltd.(本社:英国ダラム州スタンホープ)がEvoveと実証済みであるDLEプラント構築プロジェクトに参画する。
注1:DLE(Direct Lithium Extract):直接リチウム抽出。かん水(塩水)から直接リチウムを選択的に分離・回収する技術の総称。
注2:ナノろ過膜(NF膜:Nanofiltration membrane):。水中のイオンや微小な有機物を選択的に分離できる膜の一種。水処理分野で広く利用される。
注3:EP+モジュールモデル:Engineering(設計)、Procurement(調達)に特化して契約し、装置をモジュールに分解しスキッドとして分割納入するモデル。
参考サイト
栗田工業株式会社 プレスリリース 2025年10月15日、「英Evove社への出資により同社DLE技術の世界的独占使用権を取得し戦略的協業を推進」