[スペシャルインタビュー]

NGNの展望と課題を聞く(1):次世代ネットワーク(NXGN)と新世代ネットワーク(NWGN)の違い

2006/12/12
(火)
SmartGridニューズレター編集部

【3】パラダイム・シフトということ

青山 インターネットも、IPv4、IPv6ときて、その次はIPv7、IPv8となるのかどうかわかりません。世代というのは、現在の携帯電話なら携帯電話、メインフレームならメインフレーム、あるいは電話網なら電話網という、基本的な枠組みの中で、機能や性能、経済性、形状が大幅に向上することによって、「世代が更新」していくのです。

しかし、コンピュータがメインフレームからパソコンへ、通信が電話網からインターネットへ、というような変革は、世代の更新ではなく、パラダイムの転換(パラダイム・シフト)なのです。

【4】「世代の更新」は本流の人たちが行う

青山 歴史を見ると、その技術の「世代の更新」を担うのは、その時点のビジネスの主流の勢力であり、次世代の開発に巨大な予算と人的リソースをかけて行うものです。ですから、例えば、第5世代コンピュータの研究開発に、経産省(当時は通産省)は、巨額の予算を提供して開発をやったわけです。

また、通信では、ISDNの次のネットワークであるB-ISDNの開発に、NTTをはじめ世界のテレコム産業が巨額の資金と人的リソースとをかけて、研究開発をやったわけです。私自身も、NTT研究所にいたときはATMの研究開発に邁進した者の一人です。世代の更新とはそういうものなのです。

現在、携帯の次世代である第4世代の携帯電話も、NTTドコモやau(KDDI)などの大手の移動通信事業者やベンダは、大きな予算と研究者を投入して研究開発をしています。このように、世代の更新は、現在のビジネスの本流、主流にいる産業が自己の産業の発展に向けて、大きなリソースをかけてやるものなのです。

【5】「パラダイム・シフト」は本流以外の人が行う

—それでは、パラダイム・シフトは誰によって引き起こされるのでしょうか?

青山友紀氏

青山 歴史の流れを見ますと、「パラダイム・シフト」というのは「世代の更新」と違って、現在の本流とはまったく異なる勢力がやるものなのです。例えば、コンピュータの場合は、メインフレームの本流の勢力ではなく、パソコンやその心臓部のCPU(プロセッサ)をつくっていた、ウィンテル(マイクロソフト/インテル)を中心にした人たちがパラダイム・シフトを起したわけです。インターネットも、テレコム(通信事業)業界ではなくて、まったく違うコンピュータ・ネットワークの研究者たちが開発したものです。

さらに、注目すべきことは、パラダイム・シフトが生じたときに、時の中心勢力は、そのインパクトを理解できなかったということです。インターネットが登場したとき、テレコム業界の人々の大部分は、私も含めて、これが将来の通信インフラに成長するとは考えもしませんでした。パラダイム・シフトが生じると産業構造にも大変革が生じることは歴史が証明しています。したがって、パラダイム・シフトを見誤った企業は、市場から退場するしかないのです。

通信の世界で起こった2回のパラダイム・シフト

青山 パラダイム・シフトというのは、そうたびたび起こるものではなくて、数十年に1回とかというように、世代の更新よりも長い期間を要するものです。ある既存技術の基本的な枠組み(フレームワーク)なり、基本的なアーキテクチャなりが成熟してしまったため、新しいサービスを提供するには、世代を更新するよりも、何か新しい枠組みによって、そのサービスを実現できることが明らかになると、インターネットの普及期のように、あっという間に変革(パラダイム・シフト)が進行するものだと思います。

前の表2に示したように、通信の世界では今まで、

(1) テレグラフ(電信)からテレフォン(電話)へ、
(2) さらに、テレフォン(電話)からインターネットへと、

パラダイム・シフトが2回起こりました。
また、同じく表2に示したように、コンピュータの世界は、

(1) メインフレームからパソコンに変わり、
(3) 次はユビキタス・コンピュータという方向へ、

パラダイム・シフトしていくのではないかと思います。

—NGNについては、どのようにとらえればよいのでしょうか?

NGNは、まさに「世代の更新」

青山 これまで説明したように、「世代」と「パラダイム」というのはまったく異なるものなのです。そこで、現在話題となっているNGNを考えますと、NGNは、IPネットワークをベースにするネットワークの「世代の更新」と考えられます。ですから、NGNは、現在の通信産業の本流の勢力が、大きな資金を投入して行うものであり、大手のテレコム(通信事業者)やベンダなどの企業が進めているのです。

ところがNGNよりも先にある新世代のネットワークであるNWNG(表現上、今のところニュー・ジェネレーションという言葉を使用している)は、NGNの次世代になるのか、それとももしかしたら、新パラダイムをもたらすものになるのか、これはまだ、現時点では未知の事柄であり、大変興味のある課題なのです。

新世代ネットワーク(NWGN)がIPプロトコルで提供されるものなのか、IPプロトコル+αで提供されるものなのか、あるいはNon IP(非IP)プロトコル で実現されるものなのかが、NWGNの最大の課題なのです。現在のところNWNGを、いきなり新パラダイムと判断するのは、時期尚早なので、新世代と言っているわけです。(つづく)

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プロフィール

青山友紀氏

青山 友紀

慶應義塾大学
デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 教授

略歴
1969年 東京大学大学院電気工学科 修士課程修了。同年、日本電信電話公社入社。以降、電気通信研究所において情報通信システム、広帯域ネットワークなどの研究に従事。1973年より1年間、米国MITに客員研究員として滞在。1994年 NTT理事 光エレクトロニクス研究所所長、1995年 NTT理事 光ネットワークシステム研究所所長を歴任。1997年より東京大学工学系研究科教授。2000年より2006年3月まで、東京大学大学院情報理工学系研究科教授。2006年4月、慶應義塾大学に転じ、現在、同デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授。工学博士。デジタル信号処理、光通信、超高精細映像、などに関する著書(共著、監修を含む)多数。

主な役職
日本学術会議会員、電子情報通信学会フェロー、現在 同学会副会長、IEEE Fellow、超高速フォトニックネットワーク開発推進協議会会長、デジタルシネマ実験推進協議会会長、NPOディジタルシネマコンソーシアム理事長、NPO映像産業振興機構理事、ユビキタスネットワークフォーラム副会長、JGN2(ジャパンギガビットネットワーク2)運営委員会委員長

主な受賞歴
第9回電気通信普及財団テレコムシステム技術賞(平成6年)
平成12年度情報通信月間志田林三郎賞
第47回前島賞(平成13年度)
電子情報通信学会論文賞(平成14年度および平成16年度)
電子情報通信学会業績賞(平成16年度)
情報通信技術委員会 情報通信技術賞総務大臣表彰(平成16年度)

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