[スペシャルインタビュー]

NGNの展望と課題を聞く(4):IPv6ベースへの拡充・発展か、IPベースの新ネットワークか

2007/01/18
(木)
SmartGridニューズレター編集部

NGN時代を迎えて、次世代ネットワーク(NGN=NXGN=Next Generation Network)と新世代ネットワーク(NWGN:New Generation Network)の混乱、NGNとインターネットの関係、NGNによるIPTVも含めたトリプル・プレイ・サービスの可能性、NGNと通信・放送の融合など、新しい課題の整理が求められています。そこで、現在慶應義塾大学 教授および独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT)のプログラム・ディレクタとして、新世代ネットワーク・アーキテクチャなどの研究を進める青山友紀氏にお話をお聞きしました。
≪テーマ1≫:次世代ネットワーク(NXGN)と新世代ネットワーク(NWGN)の違い
≪テーマ2≫:NGNは、アナログ電話網、ISDN、ATMによるB-ISDNに次ぐ4回目のチャレンジ
≪テーマ3≫:インターネットの課題とNGNのねらい
に続いて、今回は、
≪テーマ4≫:NGN実現へのアプローチ
について語っていただきました。(文中、敬称略)
聞き手:インプレスR&D 標準技術編集部

NGNの展望と課題を聞く!

2つのストラタム(階層)で構成されるNGN

—前回、インターネットの特長とその課題からNGNのねらいをお話いただきました。それでは、NGNはどのように実現されるのでしょうか

青山 NGNを実現するためのアプローチの方法としては、表1に示すようにA案とB案の2つあります。まずA案は、インターネットのコンセプトに従いつつ、IPv6化、ブロードバンド化、高スループット化を図ることによって、IP電話や映像配信をインターネットに統合していこう、という方法です。この方法は主としてインターネットの発展を推進してきたコミュニティの主張です。

それに対して、B案は、現行のインターネット・サービスは保存しつつ、インターネットが直面しているいろいろな課題を解決する必要があるために、インターネットの中核的なプロトコルであるIPを使用するけれども、単にインターネットを拡張していけばよいということではなく、ネットワークに新しい機能を追加する必要がある、というアプローチです。NGNを実現するには、このように大別してA案およびB案の2案があるのです。

表1 NGN(NXGN)へのアプローチ
表1 NGN(NXGN)へのアプローチ(クリックで拡大)

最大の焦点はサービス制御機能(IMS)の部分

青山 そこで現在、いろいろと議論され最大の焦点になっているのは、B案のほうの話です。図1を見てください。図1の左側は従来の電話網です。右側はインターネット(The Internet:QoSのないベストエフォート型インターネット)です。両方の中間に書いてあるのが、NGNの構成図です。

図1 電話とインターネットの両方の良さを備えるNGN
図1 電話とインターネットの両方の良さを備えるNGN(クリックで拡大)

NGNの構成図に見るように、NGNは基本的に、トランスポート・ストラタムとサービス・ストラタムの2つのレイヤ(ストラタム:Stratum)で構成されています。

「ストラタム」という用語は、聞きなれない用語だと思います。NGNでは、いろいろな機能が入り組んで使用されているため、国際標準であるOSIの7階層モデルのように、きちんと7のレイヤ(階層)に機能を分けられないところがあります。このため、OSIの7レイヤと混同しないようにレイヤという用語の代わりに、ストラタム(Stratum、階層)という用語が使用されています。

図1のトランスポート・ストラタムとは、すべての情報をIPパケットで通信する、トランスポートの機能(パケット転送機能)をもつレイヤです。

また、トランスポート・ストラタムの上位に位置するサービス・ストラタムというのは、サービス制御機能(あるいはコントロール・レイヤ)ともいわれます。

このサービス制御機能の部分は、上位のいろいろなアプリケーションに対応できるように、IMS(IP Multimedia Subsystem、IPマルチメディア・サブシステム ※1)という機能が中心的な役割を担っています。このIMSとは、3GPPという団体で標準化されたサブシステムであり、映像(映画や放送)や音声などのリアルタイム通信が求められるアプリケーションを、IP(Internet Protocol)をベースとするパケット・ネットワーク上でも提供できるように制御するために標準化された仕組みです。

この中で議論の焦点になっているのは、このNGNの中に、IP転送を担うトランスポート・ストラタムに新しい機能を追加するとか、QoSなどのサービス制御機能を担うサービス・ストラタムの機能を入れようとしていることなのです。

—なぜ、そのことが問題なのですか

青山友紀氏

青山 それは、まさにインターネットの基本的なコンセプトである、端末はインテリジェント機能(処理機能)をもち、ネットワークはパケットの転送機能のみをもつ〔ステューピッド(愚かな)・ネットワーク〕ということに、まったく反することになるわけです。

さらに、ネットワークのトランスペアレンシー(透過性)も、かなり制限されるわけです。すなわち、前述したように、トランスポート・ストラタムというレイヤに、従来のインターネットのIP転送機能+α(アルファ)の機能を与え、サービス・ストラタムには、ネットサービス制御機能を与えるというようなことが、議論の対象になるわけです。

—なかなか微妙な問題ですね

青山 ええ。このトランスポート・ストラタムのαの機能とは、具体的には、ユーザーとネットワーク間で発生する異常なトラフィックを排除するRACF (Resource and Admission Control Functions、リソース/受付制御機能)と呼ばれている機能であるとか、NACF(Network Attachment Control Functions、ネットワーク接続制御機能)と呼ばれている、IPアドレス割り当てと認証、緊急通信で発信位置を確認する機能などのように、いろいろな機能をネットワークに与えようとしているわけですね。そういう機能は、インターネットのコンセプトにはない機能なのです。

ですから、そのような機能を、そのネットワークに付け加えることが、サービス提供側およびユーザーからみて妥当なものであるかどうか、という議論になります。A案を主張する方々の中には、このような方式を進めると、電話網をインテリジェント化しようとした、かつてのインテリジェント・ネットワーク(IN)と同じ、ネットワーク中心のアーキテクチャになってしまうのではないか、と危惧する人もいます。

ご承知のように、これまで、現在のインターネットが抱えているトラフィックの増大に対する問題やセキュリティの問題に対処するために、個別対応でネットワークに機能を追加して解決してきています。しかし、NGNではそれらをより統一的にインテリジェンスを与えることによって、インターネットが抱えている問題を根本的に解決し、さらに、トリプル・プレイ・サービスを、有効に提供していきたいというのが、テレコム事業者やテレコム・ベンダの目指す方向なわけです。

用語解説

※1 サブシステム:システム全体を構成する1つの部分をサブシステムと言う。サブシステム自身は一つの部分として、まとまった機能を備えている。IMSについては、連載:NGNの核となるIMS を参照してください。

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