[スペシャルインタビュー]

NGNの展望と課題を聞く(5):NGNのオープン化と放送・通信の融合

2007/01/31
(水)
SmartGridニューズレター編集部

放送・通信の融合を意識したNGN

—NGNは、放送・通信の融合をかなり意識したネットワークになっているということですね

青山 そうです。NGNのトリプル・プレイ・サービスの一つである映像配信サービスは、放送と通信の融合を促進させるものです。図2を見てください。放送と通信の融合を考えるために、横軸にユーザー数、縦軸にトータル・コスト(サービス提供側の設備投資。例:放送局やアンテナなど)を示した概念図です。

図2 放送・通信融合の課題
図2 放送・通信融合の課題(クリックで拡大)

まず放送を考えてみましょう。放送を行うために、東京では東京タワーにアンテナを1本立てたとします(図2のA)。このとき、そのアンテナ設置には大きな設備投資がかかりますが、そのアンテナによって電波が届く範囲であれば、ユーザーがテレビを購入すれば、どんどん視聴者(ユーザー数)は増えていくわけです。しかし、ユーザー数が増えても設備投資額は変わりませんから、その部分はフラットになります。

次に、また図2のB点に1本アンテナをどこかの県(S県)に立てるとします。そのアンテナや無線装置の設備投資はかかりますが、そのS県の電波が届く範囲で、コストはフラットのまま、視聴者は増加していくわけです。このようにして、順次アンテナを立てていき、全国に放送設備を構築していけば、全国で同時に、何千万という視聴者が、例えば紅白歌合戦のような高視聴率番組を同時に見ることができるようになるわけです。放送の場合は、ユーザー数と設備コストの関係は定性的にこのような性質をもっているわけです。

—なるほど。それが通信の場合は異なると?

青山友紀氏

青山 ところが、インターネットによって放送番組の配信をやろうとすると、そのコストはユーザー数が増加するのに比例してネットワークの容量やルータ、サーバなどの設備を増やして行く必要があります。さらに、IP網によるマルチキャスト(※1)の設備も、ユーザー数に応じて増やす必要があるので、設備費用は、図2の(1)のように、ユーザー数に比例して右肩上がりに増大していくことになります。

したがって、インターネットの設備投資額は、ユーザー数が増加するとどこかで放送(の設備投資額)を追い抜く(図2のP点)ことになります。このP点がどの辺にあるかを定量的に示すことはここではできませんが(詳細に設備コストを算定すれば可能)、このような両者の性質から、配信数の増加によって、いつかはインターネットによる配信コストの方が放送設備コストを追い抜くことになるのです。

現状では、放送における紅白歌合戦のような高視聴率番組を、インターネットで全国何千万もの視聴者に同時に配信することは不可能です。それを実現するには現在では膨大なコストがかかることになるでしょう。

—それでは、インターネットによる放送はどのように実現するのでしょうか

青山 そのためには、まず同時配信数を増加させることが必要です。すなわち、一つの番組をマルチキャストしながら何百万、何千万のユーザーに配信する技術が必要になります。また、図2の(1)に示すリニアな設備投資の上昇の傾斜を、図2の(2)のように寝かせるコスト削減法を実現し、放送に負けないコストで配信する技術が必要になります。さらに図2の(3)のように、放送と同程度の品質(QoS:Quality of Service)で、インターネット配信できる技術も必要となります。

すなわち、放送・通信を融合するための大きな技術的課題は、インターネットによる配信数の増加、コストの大幅削減、放送品質並みのQoSでの配信技術が必要です。私たちはテレビを見るとき、いろいろなチャネルを次々と切り替えながら見ることが多いのですが、これをザッピングといいます。これをIPマルチキャストで実現することも重要です。

用語解説

※1 IPマルチキャスト
マルチキャスト(Multicast)とは、例えばゴルフ同好会や将棋同好会のような、登録されたある特定のグループを対象に、送信装置から同じ内容のコ ンテンツ(データ)をコピーしながら受信者に配信する技術のことを指す。IPパケットをコピーしながら配信する手法をIPマルチキャストという。これに対 して、同時に多くのユーザーに1対1で配信する手法をユニキャストという。ユニキャストではユーザー数が増加するにつれて情報を保持するサーバへのトラ フィックが集中し、その部分がボトルネック(障害)となる。このように特定の多数者に配信するマルチキャストに対して、不特定多数者を対象に、コンテンツ を一斉に配信する形態は、「ブロードキャスト」(Broadcast、放送)である。

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