NGNへの期待と社会へ普及していくための条件
—これまでトータルに、いろいろなお話が出てきましたけれども、NGNが広く社会的に普及していく中で、どのようなことを期待されていますか
森川 現在のインターネットは、もともと研究者が開発したマニアックなものだったので、とても使いにくいものになっています。例えば、家庭でパソコンをインターネットに接続し、使えるように設定しようとすると、お年寄りや小学生などはむずかしくて設定できませんね。DHCPって何か、DNSって何か、IPアドレスって何かなどなど、むずかしい用語があります。また、ウィルスやフィッシングなどにどのように対応してよいかわからない。しかしそれは、インターネットのもともとの設計指針が、そういう人々を対象にしてなかったので、いたしかたなかった。
しかし、やっぱり社会基盤になっていこうとすると、だれもが安心して使えるネットワークを構築することが重要となってきます。例えば、IP電話でスパムやられたらたまったものじゃないですね。ですから、インターネットの弱いところを強化したNGNが新しい社会基盤になっていくことに、大いに期待しています。
すなわち、少子・高齢化社会への適応、デジタル・デバイド(情報格差)の解消、セキュリティの強化による安全なネットワークへの期待です。今までインターネットでは、セキュリティなどに対して、場当たり的に対応していましたが、NGNではそのあたりをしっかりさせた社会基盤として整備する。現在はその第一歩を踏み出したところだと思っています。反面、このようにセキュリティなどがしっかり管理されるようになると、逆にNGNが閉鎖的に見えてくるのかもしれないと危惧します。
—NGNはインターネットに代わる社会的インフラになっていくのでしょうか
村上 インターネットとNGNは、これまでのキャリアのネットワークとインターネットとと同じように併存していくと思います。今までもキャリアのネットワークとインターネットとは別に敵対しているわけではありませんよね、サービスとして、スカイプ電話と通常の電話が競合しているとか、IP電話と普通の電話が競合しているとかというようなことはありますが、大きな意味で、ネットワークとしてのインターネットと、キャリアのネットワークは共存していますし、ある意味ではお互い利用しあうパーツのような関係になっています。今後もこの関係は変わらないと思います。
ですから、ビジネス的に、インターネット接続サービスを提供しているISP(プロバイダ)にしても、その上でサービスを提供している人たちにしても、キャリアにしても、いかにサービスを提供するうえで連携できるかということのほうが重要であり、ネットワークという物理的なもので競合していくということはないと思いますね。(つづく)
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プロフィール
森川 博之 (もりかわ・ひろゆき)
東京大学 大学院工学系研究科
電子工学専攻 教授
略歴
1987年 東京大学 工学部 電子工学科卒業。1992年同大学院博士課程修了。1997年〜1998年 コロンビア大学客員研究員。2002〜2006年 NICTモバイルネットワークグループリーダ兼務。現在は東京大学で教授を務め、コンピュータネットワーク、モバイルコンピューティング、無線ネットワーク、フォトニックインターネット等、多岐にわたる分野で活躍している。総務省情報通信審議会、国土交通省交通審議会専門委員。
村上 龍郎 (むらかみ・たつろう)
NTTサービスインテグレーション基盤研究所
主席研究員
略歴
1981年 日本電信電話公社(現NTT)に入社、武蔵野電気通信研究所。以来、通信ソフトウェアの研究、交換機ソフトウェアの開発、広域LANの構築、インターネットオフロード・VoIPの研究開発を担務し、現在、NGNアーキテクチャの検討をはじめ、NGN関連の標準化に向け精力的に活動している。