対談:NGNリリース1と技術的チャレンジを語る(2):世界の通信業界とNGN、そして日本の役割
2007年3月6日 0:00
NGNに関するITU-T勧告であるNGNリリース1が制定され、さらに世界に先駆けて、NTTで2006年12月から本格的なNGNのフィールド・トライアル(実証実験)が開始されるなど、NGNは大きな注目を集めています。そこで、NGNの標準化とその技術的チャレンジについて、東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻教授 森川博之先生と、NTTサービスインテグレーション基盤研究所 主席研究員 村上 龍郎氏に対談していただきました。前回の<テーマ1>「標準化されたNGNリリース1の全体像とその特徴」につづいて、今回は『NGNに対する世界の通信業界の動きと日本の役割』ついてお話いただきました。森川博之先生は、コンピュータ・ネットワーク、無線ネットワーク、フォトニック・インターネット等の国際的な研究活動を展開され、第一線ご活躍中です。村上 龍郎氏は、通信ソフトウェアの研究をはじめネットワーク・アーキテクチャの検討からNGN関連の国際的な標準化にご活躍中です。(文中 敬称略、司会:インプレスR&D 標準技術編集部)

3つの連立方程式を解いている通信業界
—NGNでは、日本がリードして頑張っているというお話をよく聞きますが、世界の通信業界やITU-Tの中で、日本はどんな役割を果たしていますか
森川 NGNについては、日本のNTTがかなり標準化のリーダーシップをとっているというのは、動かしがたい事実かと思います。日本は、NGNに向けたポテンシャルとしては、光と移動体については、ほかの国よりも高いと思っています。国際的に見ても光ファイバ(FTTH)がこれだけ普及している例はみませんし、モバイル(移動通信)も、国際的なビジネスとしては成功していませんが、かなりのポテンシャルをもっています。これらが、NGNの発展の大きなプラットフォーム(基盤)になっているのは事実です。
—なるほど。村上さんいかがですか
村上 私は、いつも通信業界は今、3つの連立方程式を解いていると言っています。その1つが、電話網の設備更改の問題ですね。電話網は常に設備更改していかなくてはいけないのですけれども、交換機が古い技術になってしまい交換機をつくっても利益が出なくなってきました。交換機メーカーも、ネットワークのIP化に伴って交換機の製造を続けるわけにもいかない状況となってきています。新しい設備としてルータに置きかえなくてはいけない。これがどのキャリアもメーカーも直面している問題です。
2つ目が、ブロードバンドの普及です。もう電話だけの世界ではなくて、温度差はありますけれども、世界中どこでもブロードバンドの時代になっています。このため、キャリアとしては、電話からブロードバンドにどのようにシフトし広げていこうかという課題があります。
3つ目は、私たちはノントラフィック・ビジネスと言っていますが、単に電話とか通信だけやっていても、ビジネスは広がらないです。そこで新しいビジネスを開拓する必要があるのです。この3つ目というのは、別な言い方をすると、先ほど森川先生がおっしゃった連携なんですね。通信業者が、ほかの業界の方々と連携してビジネスを展開していく必要があるということです。例えば、おサイフ・ケータイのようなeコマース・ビジネスも連携です。これはある意味では、ニュー・ビジネスの創出なのです。
ノントラフィック・ビジネスというのは、電話をして単に3分10円とか、そういう通信した分(トラフィック分)だけお金を取るというトラフィック・ビジネスだけじゃなくて、付加価値ビジネス、すなわち通信することによって、何か新しい付加価値を生むというような、そういう使い方も含めて、いろいろな業界の方々と取り組んでビジネスを拡張していくということです。
—3つの連立方程式をどのように解くのでしょうか
村上 以上の3つを同時に成り立たせるために、どのような新しいネットワークにつくり変えていくかということです。これは、どこの国でも同じ状況に置かれているのですが、国によって少しずつ条件が違うため、必ずしも方程式の解がまったく同じということにはならないです。ただこの中で一番大きいことは、グローバルにつながるということ、設備投資とその維持管理が安くできるということです。ですから、NGNというのは非常にグローバルな動きになっていて、通信事業者はみんなで足並みをそろえてやっていこうという意識が高く、世界でNGNが盛り上がっているわけです。
NGNで連携し、新しいビジネスの開拓を!
—NGNで盛り上がっている、ということですが、盛り上がり方はいかがでしょうか

森川 まず、キャリア(通信事業者)が盛り上がっています。もともとキャリアには、このままのビジネスの状況では、固定電話の利益が下降線をたどるばかりであり、なんとか改善しないと展望が開けないというネガティブな側面からの危機感があります。いわゆる、もうからないのです。つまり、NGNは、このようなキャリア・ビジネスのネガティブな現状から、発想されているところがあります。
そこに、今、村上さんからお話があった新ビジネスの創出ということが途中から入ってきたのです。ですから、今までの交換機をルータにかえるだけですと、ただ単に通信設備を安くしたいというネガティブなことになってしまう。それだけではおもしろくない、プラス・アルファでやろうとなったのです。そこで、新しいビジネスを創出する、できればサード・パーティなども参加できるような環境を提供して、協力しあってビジネスを創り出していくというようなことになった。これは、多分後付けのような感じがします。
そうすると今までキャリアだけだったビジネスから、いろいろな業界を巻き込んで、連携しあって、新しいビジネスがどんどん提供されるようになる、そういうイメージとしてとらえればよいのでしょうか。
村上 そうですね。要するに、キャリアがすべてできるわけではないので、NGNという新しい通信環境を使って、何か新しいビジネスを興していくという動きになっていくのが、一番望ましいことです。
森川 後にお話いただく、NGNのフィールド・トライアル(実証実験)も、結局はそれが目的なのでしょうね。どういう使い方があるのか、その可能性を模索しているのでしょうね。
村上 後にお話しますが。そのとおりです。
森川 NTTも気づかない新しいビジネスが出てくると、フィールド・トライアルとして、NTTはまず成功だと思うんですね。ということで、家電関係から介護、医療、コンピュータ、プロバイダに至るまでいろいろな業界の方々に声をかけていますね。
村上 私たちは通信業者ですので、通信のマルチメディア化とか何とかということは得意ですけれども、どのようなところでどのように使えるのか、さらに、皆さんの生活やビジネスにどのように役立つのかということを、幅広く多くの方々と一緒に考えたいというところがあります。