NGNに関するITU-T勧告であるNGNリリース1が制定され、さらに世界に先駆けて、NTTで2006年12月から本格的なNGNのフィールド・トライアル(実証実験)が開始されるなど、NGNは大きな注目を集めています。そこで、NGNの標準化とその技術的チャレンジについて、東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻教授 森川博之先生と、NTTサービスインテグレーション基盤研究所 主席研究員 村上 龍郎氏に対談していただきました。
<テーマ1>『標準化されたNGNリリース1の全体像とその特徴』
<テーマ2>『NGNに対する世界の通信業界の動きと日本の役割』
<テーマ3>『NTTによるNGNフィールド・トライアルとNGNのオープン化』
<テーマ4>『インターネットがNGNに与えた影響とNGN普及の条件』
につづいて、今回(最終回)は、
<テーマ5>『ユビキタス社会への発展とNGNの今後の課題』
ついてお話いただきました。
(文中 敬称略、司会:インプレスR&D 標準技術編集部)

ユビキタス社会で重要となる個人情報
—森川先生は今、NGN以降というのか、NGNと関係しながら次のユビキタス社会へ向かっていくプロセスの中で、どのようなことを期待されているかを、お話していただいけますか
森川 私は、ユビキタス社会に向かう中で、個人情報が非常に重要になってくると思いますが、これはプライバシーと密接な関係があるところです。例えば、現在、アマゾンを見ても、グーグルを見ても、いろいろな個人情報を使ったサービスをしています。ですから、サービスを提供するうえで、個人情報をどれだけ集められるかということが、非常に大きなポイントになってきています。そのようなサービスがしっかり提供されるには、きちんと個人情報が保護される安全、安心なネットワークでなければいけません。NGNには、そのようなことを期待しています。
具体的に申し上げると、キャリアは個人情報の多くを握れる立場にあります。例えば、携帯電話を申し込むときには、かなりの個人情報を書かされますよね。しかも、それが本人であることも証明してあげているわけです。この結果、この電話番号はだれのものであるかを証明できる。また、携帯電話をユーザーに持たせているだけで、位置情報も全部とれる。さらには、おサイフ・ケータイを利用してもらうと、その人が何を買ったのかまでわかってしまうのです。
ですからキャリアがもつ個人情報というのは、恐ろしいほどすごいものなのです。したがって、例えば何年後かの訪れるユビキタス時代に、キャリアは、現在よりもさらに進んだ形で、そういう個人情報をユーザーから嫌われないようにうまく利用して、ビジネスを展開していくこともありうるわけです。
—わかっていることですが、改めて言われてみるとすごいことですね

森川 このようなユビキタス環境では、個人情報を提供すると、携帯電話も光電話も、ただでサービスが受けられる、というようなキャリアのビジネス・モデルがあってもいいと思います。これは、何となくクレジット・カードの場合と同じような感じがします。クレジット・カード会社というのは、私のかなりの個人情報を持っているんです。森川はこういうレストランが好きであるとか、海外出張にどのぐらい行っているかまでわかってしまいます。それでも私は、クレジット・カードを使っているわけです。それはクレジット・カードが便利で、信頼性が高いと信じているからです。
—たしかに、納得です
森川 そんな感じで、自分の個人情報を出すと便利なサービスがもっとどんどん提供されるようになるといいなと思います。そのようなサービスを提供できるように、NGNという安全、安心なネットワークが実現できると面白いと思います。しかし、これはキャリアの方からはなかなか言えない話ですね。私がキャリアだったら、内心では、心の底では、ぜひそれをやりたい。でも、人前で言ったら、NTTが全部牛耳る気かって言われてしまいますよね(笑)。