チャネル・モデルや利用モデルを議論
IEEE 802.15ワーキング・グループの第44回会合は、2006年9月17日~22日、オーストラリア・メルボルンで開催された。この中で、TG3cの第9回会合では、19日に4スロット、20日に2スロット、21日に4スロットの計10スロット、20時間の討議が行われた(1スロットは2時間の会議)。
今回の会合では、各スロットに50〜60名(うち投票資格者は20名余り)が出席し、チャネル・モデルや利用モデルの各種議論で計11回の投票採決が行われ、これまでになく活発な議論が交わされた。
今回の討議内容
【1】チャネル・モデル編成作業
今会合では、前回サンディエゴ会合 〔802.15.3cの標準化動向(2)参照〕 での不足分を補完し、オフィス、住宅、会議室など屋内の6つの環境と、 LOS(Line of Site、見通し内通信) と NLOS(Non Line of Site、見通し外通信) の条件を組み合わせた計10個の60GHz帯屋内チャネル・モデルが提示される予定であった。
しかし、実際に出揃ったのは、オフィス、住宅、図書館、デスクトップ、廊下の環境でのLOSの5モデルと、住宅のNLOSの1モデルの計6モデルであり、LOSのモデルは、すべて情報通信研究機構(NICT)からの寄与文書に依拠したものであった。
チャネル・モデルの採択にあたり、NLOSモデルの不足分の扱いについて議論された。NLOS推進派から「LOSモデルからLOSの直接波成分を除去したものをNLOSモデルとする」提案があり、LOS推進派からその信憑性を疑問視する反対意見がでたが、採決の結果、次回ダラス会合までにNLOSの実測モデルに置換されない場合、住宅環境ではこの「擬似」NLOSモデルが採用されることになった。
他の環境については継続討議となった。また今回、提案された各方式を比較検証するためには、シミュレーション用の標準受信アンテナ・モデルが必要との結論になり、次回までにその募集と採用を実施することが新たに決定された。今会合ではチャネル・モデルの採択には至らなかった。
【2】利用モデルの絞込み議論
WPAN製品の複合的利用形態を想定した利用モデル(UM:Usage Model)は、前回会合の議論と電話会議を経て次の5つのモデルに集約された。
UM1:非圧縮ビデオ・ストリーミング(ポイント・ツー・ポイント)[図1上]
UM2:非圧縮ビデオ・複数ストリーミング(ポイント・ツー・マルチポイント)[図1下]
UM3:オフィス・デスクトップ(ポイント・ツー・マルチポイント)[図2上]
UM4:アドホック会議(マルチポイント・ツー・マルチポイント)[図1下]
UM5:ダウンロード・キオスク(ポイント・ツー・ポイント)[図3上]
今会合では、上記5つの各利用モデルにおける必要スループット(実効転送速度)、許容エラー率、デバイス間距離などのパラメータが討議され、モデルごとに投票によって採択された。
とくに非圧縮ビデオ・ストリーミング時のスループット要求値が、議論の焦点になった。15.3cTGでは、物理層の要求を「2Gbps以上」と採択しているため、非圧縮ビデオ・ストリーミング時のMACスループットを、従来のHDTV規格(インターレース方式:飛び越し走査方式、1080i ※1)に準拠して1.5Gbps程度に抑える意見と、次期HDTV規格(プログレッシブ方式:順次走査方式、1080p ※2)に準拠して3Gbps以上を主張する意見に分かれ、議論された。採決の結果、インタレース方式準拠、プログレッシブ方式準拠は提案者がどちらかを選択することに決定された。
最後に、5つの利用モデルのストロー・ポール(人気投票)が行われ、結果はUM1(32票)、UM5(28票)、UM4(27票)、UM2(6票)、UM3(4票)の順となった(図3下)。
人気上位3モデルのうち、UM1とUM5は、ポイント・ツー・ポイント形態の簡易な構成であり、UM4はメッシュ構成の最も複雑なモデルといえる。今後は、これら3モデルを軸として、提案のシミュレーション・シナリオが決定されていくと思われる。
〔5つの利用モデルの定義は、IEEE文書(06/367r7)を参照〕
用語解説
※1 インターレース方式
テレビ画面を光らせる水平走査線の走査を、まず奇数番のライン(奇数フィールド)だけで行い、次に偶数番のライン(偶数フィールド)で行う方式で、飛び越し走査とも言われる。奇数フィールドと偶数フィールドの2つのフィールドで1画面を 構成する。動画が主体のテレビ番組のちらつきを低減でき、NTSC方式の標準テレビ(走査線:525本)で採用されている。
※2 プログレッシブ方式
画面の上から順番に走査を行い、1フィールドで1画面を構成するため、順次走査方式(ノン・インターレース方式とも)と言われる。1秒間に30枚の画面(フレーム)を送信する画像フォーマットで、文字や静止画像を表示することの多いパソコンのディスプレイなどに採用されている。
【3】その他のコントリビューション
このほか、次のプレゼンテーションが行われた。
(1)NICTが PA(Power Amplifier、電力増幅部)のシミュレーション・モデルを提案。AM-PM effectのモデル化の重要性をアピール(06/396r1)
(2)NICTが物理層の評価に使用するシミュレーション・スキーム(Link budget、Frame design、BER/PER 性能)と、シミュレーションのパラメータ(PAの影響、Phase noise、AD/DAコンバータの影響)を提案(06/386r1)
(3)IMEC社がCP-CPM with Single Carrier modulation方式を紹介(06/387r0)
(4)IBM社がMSK変復調デバイス(MSL:Minimum Shift Keying、最小周波数編移)を用いた60GHzの送受信システムの評価報告の紹介(06/392r2)
計画スケジュールの変更
標準化完了は2008年3月を予定
次回の米国ダラス会合(11月12〜17日開催)で、ミリ波WPANに関する方式提案の募集(CFP:Call For Proposals)、関連ドキュメントの完成、および発行の予定となった (05/311r9)。それ以降のスケジュールは以下のように順延された。
CFPの締め切りは、2007年3月会合(米国オーランド)の1週間前と決まり、3月会合で全応募提案が発表される。それを受け、2007年5月(カナダ・モントリオール)に提案の絞り込みが実施され、標準化完了は2008年3月を予定している(図4)。
図4 802.15.3cの標準化作業スケジュール(変更後)
関連リンク
文書資料のダウンロードについて
今回紹介した文書資料は、以下のURLからダウンロード可能
http://www.802wirelessworld.com/index.jsp (要メンバー登録:無料)
http://www.ieee802.org/15/pub/TG3c.html (登録不要)