1.RS(中継局)を介したMS(移動端末)のネットワーク接続
〔1〕透過型中継モードのRS(Relay Station)を経由する場合
透過型RSは、RS自らは同期用のプリアンブルの他、FCH(Frame Control Header:フレーム制御ヘッダ)やMAP(Mapping message:割り当てメッセージ)情報は送信しない〔前回(第6回)レポートの図1参照〕ことから、RS配下に存在するMSは、RSでの信号処理を行うことなく、MR-BSに対してネットワーク登録処理を実施する。透過型RSを介したMSのネットワーク・エントリー(端末登録)手順は、次のように行われ、各ノード間のメッセージは、図1のシーケンス図のように交換される。
(1)通常のネットワーク・エントリー手順と同様に、MSは、MR-BSから送信されるプリアンブルによって物理的な同期を確立した後、当該MR-BSに対してネットワーク登録を開始するために、初期レンジングCDMAコードを送信する(レンジング:登録の初段階で行われるMS位置によって、送信タイミング、送信出力を調整・決定するための処理)
この信号は、MR-BSのみならず同時にMS周辺に配置された当該MR-BS配下のRSにおいても受信される。
(2)ここで、RSが十分な信号品質の初期レンジングCDMAコードを受信している場合、MR-BSに対して、RSのBasic CID(Connection Identifier、接続識別子)を含んだRNG-REQ(Ranging Request、レンジング要求)を送信する。このRNG-REQメッセージには、レンジング状態、コード属性、調整情報(周波数、タイミング、送信出力)を含む。RSが複数のコードを受信した場合、RSは複数コードの情報を含んだRNG-REQを送信する。 MR-BSがレンジング・コードを受信すると、一定時間、BS配下のRSから同じレンジン グ・コードのRNG-REQを受信待機する。この待機時間が超過した場合、MR-BSはチャネル測定情報に従って、最も適切な経路を決定するために信号情報を比較する。
(3)選択された経路のレンジング状態が「Continue(継続)」の場合、MR-BSはMSに対し て直接RNG-RSP(Ranging Response、レンジング応答)を送信する。RNG-RSPは、選択経路上におけるRSで測定された調整情報を含む。
(4)もし、レンジング・コードがアクセスRSでうまく受信できた場合、MR-BSはMSに対 して上下の中継を適用することを決定し、RSはUL-MAP(Up Link Mapping message:上り回線割り当て情報)またはオプションのR-MAP〔前回(第6回)レポートの図4参照〕内のCDMA_Allocation-IE(初期レンジングCDMAコードを通知する情報領域)で指定されたバースト〔第3回レポートの図3参照〕上で送信されたRNG-REQを中継する。
RSがMSのMACアドレスを含んだRNG-REQを受信すると、RSはMR-BSに対してRS Basic CID(中継局基本接続識別子)を付加したメッセージを転送する。これにより、MR-BSはMSが接続するRSを特定することができる。
RNG-REQを受信したMR-BSは、MSに対してBasicおよびPrimary CIDを割り当て、割り当てられたMSのCIDを含むRNG-RSPを送信する。
MSに対するBasicおよびPrimary CIDの割り当て後、MSとMR-BSはネットワーク・エントリー(端末登録)手順を継続する。選択された経路上のRSは、メッセージを転送する。RSは、マネージメント・メッセージをモニター(監視)し、必要な情報を取得するかも知れない。
〔2〕非透過型中継モードのRSを経由する場合
非透過型RSは、RS自らがプリアンブル、FCH、MAP情報を送信する(前回レポートの図2参照)ことから、RS配下に存在するMSは、RSをMR-BSとして認識してネットワーク登録処理を実施する。さらに、非透過型RSシステムは、集中制御型および分散制御型スケジューリングの2方式に分けられる。次に、各スケジューリング(通信する情報を割り付ける処理)における登録処理手順の最初のレンジング手続きを解説する。
(1)集中制御型スケジューリング(図2)
1. RSがMSから「Continue」状態の初期レンジングCDMAコードを受信した場合、RSはMSに対してRNG-RSPを送信する。ここで、MSに対してRNG-RSPを送信するためには、RSはMR-BSに対してRS帯域要求(BR: Bandwidth Request)ヘッダを送信する必要がある。MR-BSがRS帯域要求ヘッダを受信した場合、MR-BSはRNG-RSP送信のためにリソースを割り当て、RSに対してDL-MAP内のRS_RNG_RSP_ALLOC-IE(RSのRNG-RSPを送信する領域割り当て情報)に割り当てられたリソースを通知する。
2. RSがMSから「Success(成功)」状態のCDMAコードを受信すると、RSはMR-BSに 対してRS Basic CIDを付加したRNG-REQを送信する。RNG-REQは、必要に応じて調整情報(周波数、タイミング、送信出力)を含む。RSが複数コードを受信した場合、RSは複数コードの情報を含むRNG-REQを送信する。
3. MR-BSが「Success」状態のRNG-REQを受信すると、MR-BSはRSにCDMA_Allocation-IEを含むRS UL-MAP(中継局上り回線割り当て情報)およびRNG-RSPを送信する。RSは、RNG-RSP受信後、初期レンジングCIDを付加した当該メッセージを転送する。
4. MSが「Success」状態のRNG-RSPを受信すると、MSはCDMA_Allocation-IEによっ て割り当てられた上り領域を使ってRNG-REQを送信する。初期レンジングCIDのRNG-REQを受信するRSは、MR-BSに対してRS Basic CIDのRNG-REQを転送する。
5. MR-BSが、MSのMACアドレスを含むRS Basic CIDのRNG-REQを受信すると、MR-BSはMSに対してBasicおよびPrimary CIDを割り当て、マネージメントCIDを含むRNG-RSPおよびRS Basic CIDのMS MAC Addressを送信する。
マネージメントCIDとMS MACアドレスを含むRNG-RSPを受信するRSは、MSに対して初期レンジングCIDのRNG-RSPを転送する。
(2)分散制御型スケジューリング(図3)
1. RSとMSは、CDMAコードを正常に受信できるまでCDMAコードの送受信を繰り返す。
2. RSが「Success」状態のCDMAコードを受信した場合、RSはMSに対して「Success」状態のRNG-RSPを送信する。そして、RSはMSに対してUL-MAP内のCDMA_Allocation-IEにより帯域を割り当てる。これによって、MSはMSのMACアドレスを含んだRNG-REQを送信することができる。
3. RSはMR-BSに対して、ヘッダに初期レンジングCIDの代わりにRS Basic CIDを付加 したRNG-REQを送信する。MR-BSが、MSのMACアドレスを含むRNG-RSPを受信すると、MR-BSはMSに対してマネージメントCID(Basic CIDおよびPrimary management CID)を割り当て、それらマネージメントCIDとMSのMACアドレスを含むRNG-RSPを送信する。
MSに対するBasic CIDおよびPrimary management CIDの割当て後、MSとMR-BSは、MSのマネージメントCIDを使ってネットワーク・エントリー手順を継続する。RSはそれらの間でマネージメントメッセージを中継する。
その他、分散制御型スケジューリングにおけるネットワーク接続手順では、RSがMR-BSの機能を代行する案もオプションとして規定されている。具体的には、MSは上位のアクセスRSとの間でレガシー(既存)なネットワーク接続を行い、MSに割り当てるマネージメントCIDは、MR-BSからRSに予め割り当てられたマネージメントCIDプールから払い出される。その後、RSはMSに割り当てたCIDをMR-BSに通知する。
2.RS(中継局)のネットワーク接続
図4に、RSのネットワーク接続手順を示す。RSは、基本的にレガシーなネットワーク・エントリー手順を踏襲して、直近の上位ノード(BSまたは上位のRS)に接続するが、多段中継のエンド・ツー・エンド全体(BS~末端のRS)で考えると、選択された直近の上位ノードは、必ずしも最適な経路でない場合がある。そこで、RSの初期ネットワーク・エントリーにおける経路選択方法として、次の2つの方法が規定されている。
〔1〕RS運用パラメータ(RS operational parameter configuration)取得前に行う場合
RSは電源ONまたはリセット時に、周辺の電波環境を考慮した運用パラメータ(設定値)をネットワークから取得する必要がある。次に、そのパラメータ取得前に経路選択を行う手順を示す。
1. RSは、RS_NBR-MEAS-REP(RS Neighbor Station Measurement Repot、中継局近隣端末測定レポート)メッセージによって、当該「RS~周辺」の上位ノード間の回線品質(プリアンブルの信号強度)をMR-BSに通知する。
2. MR-BSは、RS_Path-REQ(RS Path Selection Request、中継局パス選択要求)メッセージによって、RSが接続すべき上位ノードを指定する。
3. RSは、RS_Path-RSP(RS Path Selection Response、中継局パス選択応答)メッセージを返信し、当該上位ノードに接続する。
〔2〕上りパラメータ取得前に行う場合
RSは、レガシーなネットワーク・エントリーの方法と同様に、下り同期確立後、上りパラメータを取得する。次に、そのパラメータ取得前に経路選択を行う手順を示す。
1. MR-BSとRSは、ホップ数(中継局の経由数)やスループット(実効速度)な どのETE(End-to-End、エンド・ツー・エンド)メトリック(距離情報)を含むDCD(Downlink Channel Descriptor、下り回線チャネル記述)メッセージを定期的に報知する。
2. 上記DCDを受信したRSは、ETEメトリックに従って、適切な上位ノードに接続する。
3.中継用コネクション
IEEE802.16でのMS~BSの接続は、CID(Connection Identifier)と呼ばれる接続識別子によって識別、管理される。802.16jではL2(レイヤ2)トンネリング技術を用いたトンネル接続と呼ばれるタイプの接続が定義され、『トンネルCID(T-CID):トンネル識別子』との新たなCIDで管理される方式が規定された。
トンネル接続は、複数のRSを経由してMR-BSとRSの間で設定され、MR-BSで終端(トンネルの終了)される複数の接続であり、接続管理のための管理トンネル接続も必要となる。こちらはMT-CID (Management Tunnel CID)で接続識別がなされる。
T-CIDには、トンネルのためのヘッダを付加してMPDU(MAC Protocol Data Unit: MACレイヤにおけるデータ単位で、パケットと同義的に利用される概念)をカブセル化するケースと、カプセル化しないケースの2つのモードが定義されている。なお、すべての接続がトンネル接続であることを要求しているものではなく、トンネルを通過しない接続でのMPDUはCIDベースで転送される。
〔1〕トンネル・ヘッダによるカプセル化を行う場合(図5、図6)
MRネットワークにおいて、接続は多重ホップ(複数のRSを経由した接続)に設定することができる。接続は、配下に存在する複数のMSの呼接続をCIDで識別、管理する。また、CIDはMRセルに対してユニーク(唯一)でなければならないとされている。
しかしRSでは、RS配下に存在する複数のMSに固有に割当てられたCID(CID 0~3)を1つのMPDUに束ね、先頭にトンネル・ヘッダ(T-CID5)を付加してトンネル接続としてRSを通過して、MR-BSで終端される1または複数の接続としてカプセル化して扱うことができる。
これによって、BS~RS間ではRS配下の複数のMSの接続を1つの接続として扱うことを可能とする。
〔2〕トンネル・ヘッダでカプセル化しない場合(図6)
一方、統合したMPDUにトンネル・ヘッダを付加しないケースも定義されており、この場合はMAP IE(Information Elements:制御メッセージのフィールド)内で指定したT-CIDを用いてそれぞれのMPDUを識別管理する。
トンネル・ヘッダによるカプセル化を行うケースを図6のモード1に、カプセル化を行わないケースをモード2として示す。
4.経路制御とルーティング
トポロジー(網構成)発見もしくは更新プロセス(ルーティング情報の更新手続き)によって得られる経路情報をもとに、MR-BSはMR-BSとアクセスRS間の経路を決定する。この経路は、無線リソースの利用状況、無線回線品質、RSへのトフィックの集中などによって構築されるかも知れない。
ここでは、経路構築方法として、次の2つの方法について解説する。
〔1〕CID(接続識別子)の階層化(図7)
RSを含む各ノードのネットワーク・トポロジーがツリー構造をとる場合、そのネットワーク・トポロジーに応じてCIDを階層的に割り当てることができる。これは、RSに対する制御用CID割り当てのオプションとして規定されており、これをトンネルCIDに適用することで、当該CIDに経路情報をもたせることができる。
次に、具体的なCID割り当て例を説明する。
(1)連続整数ブロック
これは、CIDをあらかじめ連続的な整数ブロックに分割し、当該CIDブロックをネットワーク・トポロジーに応じて割り当てる。例えば図7(a)において、CID=100を割り当てられたRSの場合、HブロックのRSであると同時に、A-B-D-Hの経路情報をもつことが可能となる。
(2)ビット分割
図7(b)に示すように、CIDをビット系列化し、ネットワーク・トポロジーに応じて下位ビットを分割・割り当て、上記連続整数ブロックと同様の考え方で階層化する。
〔2〕経路とCIDの動的な関連付け
この方法では、経路情報(Explicit-RouteおよびPath-ID)に関する新規TLV()を含む拡張DSxメッセージ(DSA: Dynamic Service Addition、動的なサービスの追加。DSC: Dynamic Service Change、動的なサービスの変更。DSD: Dynamic Service Deletion、動的なサービスの削除)を利用して、経路とCIDを関連付ける。具体的な手順は次のとおりである。
1. MR-BSは、生成した経路に対してユニークな経路IDを割り当て、DSxを利用して詳細な経路情報をその経路上の全RSに通知する。
2. MR-BSは、RSとMSに対してCIDを割当て、CIDと経路ID間の関連付けを行う。ここで、トンネリングCID使用の場合にはT-CIDを、トンネリングCID不使用の場合には各ノードに割り当てられた個別のCIDを使う。
3. MR-BSは、DSxを利用して、経路上の全RSへCIDと経路IDの関連情報を通知する。
4. 各RSは、その関連情報を自身の経路テーブル(表)に保持し、そのテーブルをベースにデータを転送する。
5. MSの移動などに伴い、トポロジーが変更になった場合、CIDと新しい経路の経路IDとの再関連付けを行い、全RSに通知する。
(つづく)