《1》NGN/SIP市場へのソフトフロントの取り組み
■ まず、代表取締役社長である阪口さんにお聞きします。ソフトフロントのNGN/SIP市場への関わりをお話いただけますか。
阪口 ソフトフロントは創立して10年、上場して5年になります。この間、SIPテクノロジーおよび関連技術に対して、継続的な研究開発活動を続けてきました。その結果、ある調査会社によると、ソフトベンダーのSIPマーケットにおけるソフトフロントのシェアは44.3%に達しています。これは、ソフトフロントのお客様への柔軟な対応が評価されたものだと思います。
■ では現在、NGNおよびSIPのマーケットの現状をどうとらえていますか。
阪口 IPコミュニケーション市場が拡大する中で、NGN/IMSのネットワーク、サービスの具現化が進んできました。このことが、高品質アプリケーションへのニーズの高まりにつながっていると思います。
世界的な市場規模の具体的な数字としては、総務省が出している「IP端末の世界市場規模が2010年には49.9兆円になる」という金額に注目しています。2007年が30.9兆円ですから、かなりの拡大です。また、モバイル・セントレックスの国内普及の予測として、2007年の100万回線から600万回線へという数字もあります。
■ 御社は、多くのパートナーとのアライアンスを進めておられますね。
阪口 はい。ソフトフロントがこの高品質アプリケーションのニーズの高まりに対応するには、数多くのパートナーが必要だと感じています。当社では「NOSKI SIP ライブラリ」(SIPユーザーエージェント開発向けライブラリ)を中心としたミドルウェアを提供していますが、お客様からいろいろな要望をいただいています。例えば「こういうOSでは動かないか」とか「こういうCPUの上に載せたい」とかですね。このような要望にも対応し、サポートするために、CPU、OSなどで各社とのパートナーシップのもと、取り組んでいるわけです( 図1 )。
■ 具体的なパートナーとしては、どのような企業がありますか。
阪口 CPUパートナーとしては、フリースケール・セミコンダクタ、マーベル、テキサス・インスツルメンツ、ルネサス テクノロジ、インフィニオン・テクノロジーズがあります。また、OSでは、Linuxでモンタビスタソフトウエア、タイムシス、ウインドリバーが、Linux以外ではシンビアン、マイクロソフトがパートナーになっています。
■ CPUやOSのアライアンスの外にも、パートナーがいると聞きましたが?
阪口 ソフトフロントのSIPミドルウェアをお使いいただくお客様が必要とするサポートを提供するために、IMSフレームワーク・パートナーとして独のfg microtec(エフジー・マイクロテック)と、そしてSIPとNGNのソリューションパートナーとしてネクストジェンとの協力体制を持っています。また、他に、テクノマセマティカル、日本キャステム、Eyeball Networks(アイボール・ネットワークス)とも連携しています。
《2》GIPS社との提携の目的
■ 先頃、米国のGIPS社と提携された目的を教えてください。
阪口 ソフトフロントでは、GIPS社との提携の目的を「マルチプラットフォーム対応とワンストップ・デリバリー・スキームの完成」と表現しています( 図2 )。これはつまり、高品質なリアルタイム・コミュニケーション・アプリケーションの開発環境を提供することです。
■ 具体的にはどのような協力を行うのですか。
阪口 まず、研究開発面における協力です。ソフトフロントには最高品質の相互接続性を誇る「NOSKI SIP ライブラリ」、GIPS社には最高品質の音声/映像を実現する「GIPS MediaEngine」があります。日本におけるSIPのリーディング・カンパニーであるソフトフロントと、世界のデファクト・スタンダードである音声/ビデオ・ソリューションを提供するGIPS社の協業によって、日本のIPコミュニケーションにおける品質要求にお応えします。
それから、セールスとマーケティング面における協力です。今回の提携によって、両者の製品の日本および世界での提供とサポートが強化され、事業展開をより加速することが可能になります。それは、日本市場におけるソフトフロントの経験と、GIPS社の世界市場における経験を活用できるからです。
《3》「臨場感」と「パターン」の革新で「通信の壁」を乗り越える
■ ありがとうございました。では、次に、今回のGIPS社との提携が可能とする新たな通信ソリューションについて、研究開発担当の取締役である佐藤さんにお聞きします。まず、今回の提携とNGNに対する考えについてお聞かせください。
佐藤 実は、2年ほど前から提携に向けた話を進め てきました。ようやく発表できたというのが実感です。お客様にとってより価値のあるソリューションをご提供できるようになると喜んでいます。
さて、NGNについてですが「回線交換網とインターネットの『いいとこ取り』」と言われ、回線交換からパケット交換への移行と、セキュア(安全)で高品質のオープンな通信インフラが実現すると説明されていますが、ソフトフロントでは、ユーザーのみなさんの「結局のところユーザーメリットは何か?」という声に注目しています。これは非常に基本的な疑問だと思われるからです。
そこで、より基本的な課題である「ユーザーは通信に何を求めているのか?」を考えてみますと、通信とは「人と人の『距離』をゼロに近づけるための技術」ということになると思います。つまり、フェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションに近づけることを目指して、通信技術の改革が進んできたわけですが、しかし、実際には「距離」の中に「壁」があるのではないかと思います。そして、これを解決するための大きなテーマが2つあります。
■ 「壁」と解決すべき2つテーマとは何ですか?
佐藤 「壁」とは別の言葉で言えばリアリティ(臨場感)です。フェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションに近づけるには、2つの意味でリアリティが要求されると思います。
ひとつは「フィーリング」です。すなわち、QoE(Quality of Experience、体感品質)につながる体感品質の向上です。例えば、人間の可聴域は一般に20ヘルツから20,000ヘルツあたりですが、現在の電話のようなナローバンド(狭帯域)のコーデック(符号化/復号装置)では、そのうち200ヘルツから3,400ヘルツという狭い範囲しか再現できません。このことが、音声通話を耳障りの悪いものにしています。これに対して、ワイドバンド(広帯域)のコーデックでは、50ヘルツから7,000ヘルツまで再現できます。この再現性があれば、コミュニケーションの「フィーリング」にリアリティを与えることができるわけです( 図3 )。
■ もうひとつのテーマは何ですか?
佐藤 それは「パターン」です。現在、音声通信においては、バラバラの技術、機器、サービスが並立しており、ユーザーはこれらを選択したりつなぎ合わせて利用する必要があります。例えば、1対1の通信にはVoIPやコール・トランスファー(電話転送機能)が、1対多通信としてはボイス・メールやマルチキャストが、多対多の通信としては電子会議やプッシュ・ツー・トークというようにさまざまな技術があります。これらを直感的に融合できれば、コミュニケーションの「パターン」にリアリティを与えることができると思います。
■ この2つのテーマの実現に今回の提携はどのような意味を持つのですか?
佐藤 ソフトフロントとGIPS社が提携することで、スムースな開発導入とサポートが提供できます。すなわち、ソフトフロントとGIPS社が提供するミドルウェアに よって、お客様がよりリアリティのあるアプリケーションを開発するために必要な「足回り」の部分に手数をかけることはなくなります。今回の提携によって、必要なライセンス・ミドルウェアの導入支援の強化と、お客様の開発プロジェクトに密接したお手伝いができるようになります。
また、異なるプラットフォームへの展開が求められる場面でも容易な解決を可能としており、パソコン、モバイル、エンベデッドデバイス(組み込み型)まで広範囲にサポートできますので、既存の開発資産を有効活用することが可能にできます。
よく「243の原則」という話を聞きます。これは、開発予算を2とすると、開発コストが倍の4かかることから開発規模を抑えて3にするという意味ですが、これでは、本来開発されるべきターゲットが実現できません。ソフトフロントとGIPS社は、トータルで開発コストを抑制することによって、必要とされるアプリケーションを必要な規模で実現することをお手伝いします。
■ 具体的にどのような構成でミドルウェアを提供していますか?
佐藤 図4 に示す通り、ソフトフロントでは、OSとアプリケーションの間のミドルウェアを担うスイート(一連の製品群)を提供しています。その基本となるのが、ソフトフロントが以前から手がけているSIPのプロトコル・スタックです。これは 図4 の左下に示す「SIP UA スタック」の部分です。最近ではここに、IMSでシグナリングの圧縮手順などをサポートする「sigcomp」(Signaling Compression:シグナリング圧縮技術)を追加しています。さらに、その上に位置する「IMS ライブラリ」という形でIMS準拠のミドルウェアを提供し、携帯電話などでの採用を目指しています。また「NGN ライブラリ」をおいて、誰もがコミュニケーションプラットフォームを安心して活用できるような機能の提供を考えていきます。そして、それらの上位にあるのが、「IP電話開発セット」や「ビデオフォン開発セット」といった「ミドルウェアスイート」というわけです。お客様が開発するさまざまなアプリケーションに対して、広範囲にサポートする体制を整えています。
そして、今回の提携によって、「GIPS MediaEngine」をこの構成に加えることができました。高品質な音声と映像品質を実現する重要な役割を担うことになります。
《4》技術の最新動向に目を配りながら開発をサポート
■ トータルなソリューションを提供したいということですが、御社の企業規模を大きくすることなく広範囲なサポートを提供するのは難しいと思います。どのように実現しているのですか?
佐藤 ソフトフロントは小規模な会社ですが、多くの標準化団体やアライアンスなどに参加することで新しい技術の吸収や情報の収集を行っています。例えば、インターネット技術はIETF(Internet Engineering Task Force:インターネット技術標 準化委員会)、モバイル技術はOMA(Open Mobile Alliance:オープン・モバイル・アライアンス)に参加しています。また、NGNについては、ETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州電気通信標準化機構)やITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)から最新の規格を入手し、これに基づいた技術開発を進めています。
この技術開発の結果として、SIPミドルウェアを開発・販売するのがソフトフロントのビジネスなのですが、実際には、技術コンサルテーションや、アプリケーション開発、ミドルウェアのカスタマイズといった業務も担当しています。
さらに、今回の提携により、GIPS社のミドルウェアを含めたトータル・ソリューション構築が可能になりました。お客様の企画や仕様策定から、要素技術開発、システム開発、検証と評価まで、それぞれのフェーズに対してソフトフロントがGIPS社の技術を含めてサービスを提供していきます。
■ 標準化組織やアライアンスに参加されていますが、NGNやSIPにおいては具体的にどのような活動をしているのですか?
佐藤 まず、マルチサービス・フォーラム(MultiService Forum、サービス・プロバイダとシステム・サプライヤの国際団体)において行われる相互接続検証のイベントに2004年から参加しています。この年のGMI2004(Global MSF Interoperability)では、NGNのQoS制御について実際に技術検証を行っています。また、2年後のGMI2006ではソフトフロントのミドルウェアを用いて、IMSとNGNの検証を行っています( 図5 )。
さらに、国内において、SIP相互接続の難しさを訴える多くのお客様の声に対応するため、テレコムサービス協会のVoIP推進協議会において、相互接続試験関連分科会のリーダーとして活動しています。
これらに加えて、ソフトフロントのような小さな規模の会社では珍しいそうですが、ITU-T(ITU電気通信標準化部門)のセクター会員になっています。そして、総務省のITU-T部会にも参加し、NGN、IPTV、ホーム・ネットワークといった分野の技術動向に常に目を向けています。また、仕様書の作成のお手伝いもしています。
これらの活動もまた、企業規模を大きくすることなく広範囲なサポートを提供できる理由となっていると思います。
■ 最後に、最近、ソフトフロントが技術的に注目しているトピックについて教えていただけますか。
佐藤 まず、NGN関連ではNGNクライアント用のミドルウェアに注目しています。また。プッシュ・ツー・トーク・オーバー・セルラー(PoC)とその拡張技術であるエンハンスト(PoC 2.0)もあります。これは、トランシーバ型のサービスにマルチメディア性を付加することができます。そして、携帯電話におい.てWi-Fi(無線LAN)と3Gを途切れなく切り替えて通話できるというボイス・コール・コンティニュティ(Voice Call Continuity)があります。 この技術については、パートナーであるfg microtecと連携してアプローチしています。他には、IPTVや、NATトラバーサルについても開発を進めています。
■ ありがとうござ いました。