[スペシャルインタビュー]

NTTのNGN戦略を聞く(2):NGNでFMCを実現するIMSとNGNフィールドトライアル

2007/09/28
(金)
SmartGridニューズレター編集部

2007年度中にNGNの商用サービスの開始を目指しているNTTは、すでに2006年12月から2007年12月の1年間を目途に、NGNフィールドトライアルを開始しています。また、NGNで可能となる商用サービスの具体例を示すショールーム「NOTE」(NGN Open Trial Exhibition)を東京・大手町と大阪・梅田に開設し、展示・デモが行われています。このNOTEへの見学者は、見学の予約を開始したその日にいっぱいになってしまうほどの人気振りです。そこで、NTTの技術分野の最高責任者であり、NGN関連の最高責任者でもある、NTT常務取締役 技術企画部門長 次世代ネットワーク推進室長兼務の橋本信氏に、NTTはなぜNGNに取り組んだのかから、NGNフィールドトライアルの内容、オープンとコラボレーション、NGNサービスとサービス品質からFMC実現への道など、具体的な展望をお聞きしました。今回(第2回)は、
<第1回>:NTTは、なぜNGNに取り組んだのか?
=中期経営戦略でNGN・FMC・光ファイバ化を決定=
につづいて、NGNでFMC(Fixed Mobile Convergence)を実現するためにキーとなるIMS(IPマルチメディア・サブシステム)や、反響が高いNTTのNGNフィールドトライアル(実証実験)などを中心にお話いただきました(文中敬称略)。
聞き手:インプレスR&D 標準技術編集部

NTTのNGN戦略を聞く(1)

≪1≫技術オリエンティッドの電話から、ユーザー・オリエンティッドのNGNへ

■NGNは、よく電話網とも比較されますが、どこが違うのでしょうか。

橋本 米国のグラハム・ベルの発明(1876年)によって始まった電話は、技術が先行し、それは便利だから早く敷設するということで、どんどん普及していきました。すなわち技術オリエンティッド(技術指向)、あるいは通信事業者オリエンティッドで、通信事業者側の私たちのほうからいうと、「電話に加入させてあげる」という形で進歩してきたのです。

そのこと自体は決して悪いことではなく、技術の標準化であるとか、国家が計画的な投資などをやるには非常に良かったのです。なぜなら、電話は絶対に必要だったからです。電話がまったく無いところに電話を作るわけですから。しかしそれが、電話だけではなく、映像も通る、データも通るというように多様化した通信ができる、まったく新しいNGNのようなネットワークを作るとしたら、それは完全にユーザー・オリエンティッドになっていないといけないということになるのです。

電話サービスのように、「無いものを作ったのだから入れてあげる」という考えではなく、いろいろなものがある中から、エンド・ユーザー自身がいろいろなものを選ぶ時代なのです。例えば、あるサービスは安いから契約して使う、あるいは逆に、別のサービスは高くても通信品質が良いから使うというようなこともあります。また、自分の映像通信のためには少々通信料金が高くても通信品質のよいサービスを使わないと、きれいな画面が得られないので利用する、しかし単なるテキスト・メールの場合は、一番安いサービスを選びたいというように、ユーザー側から、サービスやネットワークを選ぶ時代なのです。もちろん、通信事業者を選ぶという場合もありますが、1つの通信事業者が提供するいろいろなサービス・メニューから選ぶこともあるわけです。

≪2≫NGNに息づくFMCの思想

■ところで、NGNではよくFMCということがいわれますが。

橋本 ユーザーが選べるように、いろいろなサービスをたくさん提供するというように、これまでの電話網の時代と発想を大幅に変えなければいけないわけですが、NGNの中にもその思想はずっと入ってきているわけです。その1つが、FMC(固定網と移動網の連携によるサービスの融合)と言われるものです(図4)。


図4 FMC(固定網と移動網の連携によるサービスの融合)の仕組み(クリックで拡大)

エンド・ユーザーから見ますと、固定網であるとか移動網であるとか意識しないで、シームレスに通信できる状態が常にあるのが一番良いわけです。このように「電話がつながりさえすればよい」という概念から出てきたのが、FMCなのだと思います。

最近、無線系と有線系の通信事業の中で、有線系の事業は儲からなくなったから無線系の事業をやってはどうか。あるいは、インターネットと通信事業の両方をやってはいけないのではないかとか、というようにいろいろな議論がありますが、純粋にエンド・ユーザーから見れば、あるときは携帯電話ができ、あるときは固定電話ができるような環境であってほしいのです。

また、自分がハイビジョン映像を見たいときは小さな画面の携帯電話ではなく、自動的に切り替わって大型テレビの画面で見られるようになれば良いというような、シームレス感が必要なのです。そのようなことを認識して、標準化に取り組んだのがIMSであり、その特長を活かしたサービスがFMCなのだと思います。

≪3≫FMC実現のキーテクノロジーはIMS

■FMCを実現するための中心的な技術はどんなものでしょうか。

橋本 FMCを実現するために、どういう通信基盤が求められるかというと、これが現在注目されているIMS(IPマルティメディア・サブシステム)と呼ばれている技術なのです。これは携帯電話の標準化を行う3GPPという組織で標準化された技術なのです。このIMSとは何かと言えば、「エンド・ユーザーから通信事業者のサービスを選びなさい」という発想からできたものなのです。ですから、あるときは携帯電話を、あるときは固定電話を、あるときは専用線を使えるように、このIMSというプラットフォーム(基盤)をユーザー側に近いところに置いてあげて、エンド・ユーザーからの要求に対してシームレスに切り替えて(スイッチング)あげることができるのが、IMSなのです(図5)。


図5 FMCとIMS(IPマルチメディア・サブシステム)の関係(クリックで拡大)

このIMSが、3GPPで標準化されたことは従来の思想の大転換なのです。すなわち、エンド・ユーザーが、自分の要求に基づいてネットワーク機能を選択できるような時代になったのです。実は、NGNは、この思想(IMS)を全面的に採用しているネットワークであり、具体的には昨年(2006年)に標準化されたNGNリリース1の「サービス・ストラタム」(サービス制御部)の考え方なのです。

■なるほど。IMSの重要性がよくわかりました。

橋本 このように、NGNは最初から非常にユーザー・オリエンティッドなネットワークなのです。すなわち、NGNでは、ユーザーがネットワーク(固定か移動か)やサービスを選ぶことができ、さらにいろいろなネットワークの機能を選べるという思想をもってスタートした新しいネットワークなのです。NTTも、このような思想を尊重しながら、NGNの構築を進めているのです。現在、NTTが行っているNGNフィールドトライアルのショールーム「NOTE」(NGN Open Trial Exhibition)では、そういう思想をいろいろな形で具体化して展示・デモしていますし、今後もその点をアピールしていく必要があると思っています。

≪4≫NGNのインフラとなるNTTの光ファイバの普及率

■「中期経営計画」を出されてから今日まで3年くらい経過しましたが、NGNのインフラとなる光ファイバの普及率はいかがでしょうか。

〔1〕光アクセスの設備は全国平均で88%へ

橋本 まず、光ファイバに関しては、先ほど申したようにかなり先行的に投資をしたこともあり、「光カバー率」という言い方をしていますが、日本中のどこのエリアからも何らかの光アクセスの要求に応えられる設備の状態は、全国平均ですが、88%(2007年3月)の段階まできています。また、具体的に光回線に加入される方は、毎月約20万加入ぐらい増えてきており、最新の2007年6月の数字で見ると、NTTだけで約680万契約の光アクセスが全国に普及しています。そのほかに、NTTはADSLサービスもやっていますが、これが約520万契約となっています(図6)。


図6 国内ブロードバンドサービス(DSL/光/CATV)の契約数の推移(クリックで拡大)

〔2〕光電話に加えて、IPTVも提供

橋本 このようにNTTだけで見ても、約1,200万くらいのお客様が何らかのブロードバンド加入者になっているわけです。これは、電話の加入数が大体5,000万ぐらいなので、約20%ぐらいの比率まで増大するなど、大きく変化してきています。このため、この数年の間にこのブロードバンド・ユビキタスに対する親近感が高まり、身近にそういうサービスを受けられる環境になりつつあることが、ご理解いただけるようになってきているのではないかと思います。

現在、NTTで現実的なビジネスとしては、インターネット・アクセスのために光ファイバ(FTTHサービス)を販売しています。具体的には、「フレッツ光」(FLET'S光)というサービス名になっていますが、これは基本的にはインターネットにつなぐためのサービスとしてスタートしたものです。その後、この光(FTTH)を使用してお客様同士がお互いに通信できるように、具体的には光の上でIP電話ができるように「ひかり電話」というサービスを販売しています。

これも、現在、約380万加入のお客様がこの「ひかり電話」に移られています。光を電話だけに利用するということは、これはもったいないことですので、それにインターネット・アクセス・サービスに加えて、4th MEDIA(フォースメディア。※1)とかOCNシアター(※2)のようなブロードバンド映像配信サービス(IPTV)も提供されています。さらに今後は、映像配信だけでなく、通信・放送の融合が進展していく中で放送サービスとの関係もターゲットに入れています。これはすでに技術的にはほぼ可能となっています。また、CATVで提供しているようなサービスも、当然、このインフラの光の中に通すことができます。このようなサービスは、欧米では「トリプル・プレイ・サービス」(音声・インターネット接続・IPTVの3つの統合サービス)といわれていますが、NTTはそういう環境を先行して整えてきたということになると思います。

※1 用語解説
4th MEDIA(フォースメディア)サービス」:ぷららネットワークスが構築した「4th MEDIAプラットフォーム」を利用し、「Bフレッツ」サービスを利用する顧客を対象に、①株式会社オンラインティーヴィが提供する多チャンネル放送サービスの「4th MEDIAテレビサービス」と、②ぷららネットワークス等のビデオ・オン・デマンド(VoD)・サービスである「4th MEDIAビデオサービス」などを提供している。4th MEDIAチューナーを自宅のテレビに接続するか、もしくは4th MEDIA対応テレビを利用することによって、映画・ドラマ・アニメ・スポーツなど幅広いジャンルの作品を視聴できる。

※2 用語解説
OCN シアター: OCN光「Bフレッツ」サービスなどの回線を利用して受けられるブロードバンド映像配信サービス。家庭のテレビで、高品質なVoD(ビデオ・オン・デマンド・サービス)をはじめ、さまざまな映像コンテンツや情報を視聴できる。「OCNシアター テレビサービス」は、株式会社ぷららネットワークスが 運営する4th MEDIA(フォースメディア)プラットフォームを利用し、株式会社オンラインティーヴィが提供する多チャンネル放送サービスとなっている。

しかし、残念なことに、かなり急激に契約数を増大させたために、昨年(2006年)、ひかり電話関係でいろいろ故障が続出し社会的な問題になってしまったことは非常に深く反省しています。できるだけ早くNGNという信頼性の高いネットワークで、ひかり電話のようなサービスができるように、「中期経営計画」で立てたNGNのインフラストラクチャの構築を、先行して開始しているわけです。

〔3〕商用サービスに向けて「エッジ」を導入へ

具体的には、新しいNGNのネットワークを全国的に普及させるために、東京と大阪間を結ぶ、あるいは日本中を結ぶ幹線(バックボーン)のところを先行して、現在敷設工事をしている最中です。これに、具体的にお客様を収容する装置、最近私たちは「エッジ ※3」という言い方をしていますが、そういう従来の加入者線交換機に相当する装置(エッジ)を来年(2008年)から商用サービス用として導入していく段階を迎えているわけです。

※3 用語解説
エッジ:NGNのコア・ネットワーク(バックボーン・ネットワーク)の端(エッジ。ユーザーに一番近いところ)に位置し、ユーザーからの情報を収容するアクセス・ネットワークとの接続点に設置される装置。電話網の加入者線交換機のような役割をもつ装置。

■来年(2008年)のいつごろからですか。

橋本 時期はまだ決まっていませんが、できるだけ早くと思っています。現在、行っているNOTEのNGNフィールドトライアルでは、約500名のお客様にモニタになっていただき、実証実験をしているところです。

≪5≫NOTEをリニューアル・オープンし新しい段階へ

橋本 約500名のモニタのお客様のご家庭には、先行的に光ファイバを張っていただき、NGNフィールドトライアル中のサービスのうちのいくつかをご利用いただいています(http://www.ngn-note.jp/)。

このように、商用サービスに向けて一部、そういうような準備を始めているところですが、本格的な商用サービスを、どういうエリアから開始し、どのぐらいの規模のお客様を想定してスタートするかは、まだ決定していません。

これは、できるだけ早く公表していく形になると思いますが、この秋にはおおよその導入計画や、サービス・エリアを含めた具体的な計画をお示しできるようになると思います。現在、そのための先行的な準備を着々と行っているところです。

■今、NOTEの話がありましたので、NOTEのことについてお聞きしたいのですが。去年(2006年)の12月からNGNフィールドトライアルが始まりNOTEをオープンし、今年(2007年)の7月にNOTEをリニューアル・オープン(写真1)しましたが、トライアルを実際やってみていかがでしたか。

橋本 私たちが想定した以上に反響が強く、例えばこのNOTEを見学したいが、なかなか予約がとれないという状況が発生するなど、いかにNGNへの関心が高いか、改めて大きな責任を感じています。NOTEで最初にお示ししたのは、大きくいって3つのジャンルのサービスです。まず「NGN for Society」と言っていますが、社会的なサービスで「安心・安全な社会環境をサポート」しますという提案です。それから、「NGN for Life」ということで、もっと生活が楽しく快適になるというイメージの提案です。そして最後に、当然これはNGNをビジネスでも自由に使えるという「NGN for Business」の提案です。その3つのジャンルを中心に、昨年(2006年)12月にオープンしたわけです。

具体的には、例えば遠隔診断というような医療関係の社会インフラ、あるいはハイビジョンの映像が非常にスムーズに見られるという生活の豊かさ、それから、当然、NGNを企業システムに使う法人ユーザー向けの展示など、NGNというネットワークを使うという面からは、非常に多彩なサービス・イメージ例を展示しています。


写真1: 2007年7月に、リニューアル・オープンした「NOTE」(東京・大手町)(クリックで拡大)

■2007年7月に、リニューアル・オープンされた背景は?

橋本 今回、リニューアルをした背景には、NTTがNGNを展開する上で、「オープン」と「コラボレーション」(協調)を重視していることがあります。すなわち、NGNは非常に「オープン」なネットワークであること、さらに、NTTだけがNGNをつくるのではなく、世の中のいろいろなアイデアをお持ちの個人、あるいはサード・パーティの方々、さらに多彩なビジネス活動を展開されている多くの企業の皆さんとコラボレーション(協調)していくことを基本方針として打ち出しています。そこで、トライアルに新たに参加いただいた事業者の皆様のサービスや既に参加いただいている事業者の皆様の追加サービスなどについて、準備が整ったことから、ショールームの展示内容をリニューアルしました。

≪6≫NGNのモニタとNOTEへの予想以上の反響

■リニューアル・オープンでは、新しい企業が結構参加していますね。
http://wbb.forum.impressrd.jp/news/20070725/443

橋本 トライアル参加事業者は、昨年12月の時点で12社だったものが、最終的には29社の参加となりました。「オープン」と「コラボレーション」をキーワードで申し上げたものですからNGNを使うと何ができるのかということを考えている多くの人たち、例えばハイビジョンのテレビを製造・販売されているような多くの家電メーカー、あるいは電子カルテを扱っている医療関係な方々がNGNを有効に活用したい等々、幅広い方たちからの反響が予想以上に強くありました。

■モニタからの反響はいかがですか。

橋本 実際に家庭でNGNがどのように使われるのかということを含め、約500世帯の方々にモニタ(2007年4月から12月までの予定)になっていただき、「高品位フレッツフォン」、「高品質IP電話機」、「多目的AV家電連携端末」、「ハイビジョン映像配信サービス」、「地上デジタル放送IP再送信」など、NGNを利用した各種サービスや端末機器を実際にご利用いただいています。

実際にどのような反響があるのか、その経験をまとめ世の中に対していろいろな結果を発表しようと思っていますし、それがトライアルの評価にもつながることになると思います。

■コラボレーションによる何か新しい発見みたいなものは?

橋本 一例を挙げれば、これは驚いたことですが、「IP電話」というものに対して、これまで、どちらかというと安いけれども品質があまり良くないというイメージがありましたが、これを払拭できるような、きれいな音声で通話ができるIP電話の提供という提案を受けました。その高品質の音声で提供するIP電話機は,ある通信機器メーカーさんと組んでつくったのですが、技術的には低音から高音までを使用することで高品質な通話を可能とするもので、そういうものがビジネスになるんだなと、そういう発想が面白かったです。

高品質だからといっても、IP電話は、技術的にはIPベースですから、非常に経済的にできます。このようにIPという技術の特性をうまく使うことによって、従来とまったく発想の違う高品質な音声通信も可能であるということ、しかもそれが1つのマーケットになり得るということは、大きな驚きでもあるわけです。

(つづく)

プロフィール

橋本 信氏

橋本 信(はしもと しん)

現職:日本電信電話株式会社
   常務取締役 技術企画部門長 次世代ネットワーク推進室長兼務

1972年3月  早稲田大学 理工学部 電気工学科 卒業
1972年4月  日本電信電話公社 入社
1985年4月  日本電信電話株式会社 技術企画部 調査役
1988年6月  同 東京総支社 設備企画部長
1994年8月  同 技術調査部 担当部長
1995年7月  同 人事部次長 人材開発室長 兼務
1999年7月  東日本電信電話株式会社 設備部長
2001年6月  同 取締役 設備部長
2002年6月  日本電信電話株式会社 取締役 第二部門長
2005年6月  同 取締役 第二部門長
       次世代ネットワーク推進室長兼務
2006年6月  同 常務取締役 第二部門長
       次世代ネットワーク推進室長兼務
2007年6月  同 常務取締役 技術企画部門長
      次世代ネットワーク推進室長兼務

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