≪2≫モバイルの放送サービス:MediaFLO
■FMBCの具体的なサービスとしては、現在、どのようなものがあるのでしょうか。
安田 FMBCでは、ケータイを軸にして、テレビ受像機や放送電波、あるいは有線のブロードバンド回線を使ったシームレスなサービスを提供することをイメージしています。例えば、図2に示すように、外ではケータイ端末でテレビ電話しているが、家ではケータイ端末よりも大きなテレビ受像機の画面を使って、ブロードバンド回線でテレビ電話ができるといったイメージです。
■そのようなサービスのイメージは、BT(British Telecom)(※)のフュージョンに似ていますね。
安田 仕組みは似ています。ただ、BTはもともと有線系のブロードバンドから入り、それを無線通信やモバイル通信との連携に広げています。それとは逆にKDDIは、モバイルから入っていって、固定通信のブロードバンドや家の中のテレビ受像機、車のカーナビのモニタやAVシステム、パソコンなど使えるものはできるだけ有効に使うというイメージです。
(※関連記事:BTヨン キム氏に聞く)
■放送と通信の融合に関連して、ケータイ向けワンセグの共存サービスとして注目されるMediaFLO(※)は、KDDIも取り組んでいますね。
安田 はい。2005年にメディアフロージャパン企画(KDDI80%、クアルコムジャパン20%)を設立し、MediaFLOのサービスに向けて準備しています(図3)。国内ではほかに、ソフトバンクがモバイルメディア企画(ソフトバンク全額出資)を作っています。
MediaFLOは、日本では利用できる周波数が決まっていない問題はありますが、現在総務省ではMediaFLOのサービスで使う周波数の割り当ての可能性が検討されているところです。また、原宿のKDDIデザイニングスタジオではMediaFLOのトライアル(実証実験)も2007年11月末から始めており、実際に体験できます。
MediaFLOを実際に体験すると、動画がスムーズだったり、チャンネル切り替えが早いなどのメリットを感じられると思います。MediaFLOで一番すぐれている点は、ユーザーのニーズに合わせていろいろな番組を自由に作れることです。場合によってはマーケティングにも、広告にも使えます。
※MediaFLO:Media Forward Link Only、クアルコムが推進する携帯電話機向けのマルチメディア配信サービス。
■MedeiaFLOを利用してKDDI独自の放送局を作ろうとしているのですか。MedeiaFLOは、いつ頃事業化されるのでしょうか。
安田 豊氏
(KDDI 執行役員 コア技術統括本部長)
安田 現時点では、KDDI独自の放送局というところまでは考えていません。まずは、放送業界の各社と話合いながら、KDDIも放送の一部に参加させてもらうことを考えています。
また、周波数の割り当てがはっきりしませんと、事業化の目途はたちません。ただ、新規事業に対する周波数の割り当ては、2011年頃になるとも言われていますが、サービスを提供する場所を限定するなどすることで、もう少し早くならないかなどを検討しているところです。
現在、国内ではMediaFLOサービスを考えている会社は先ほどの2社だけですが、今後、周波数の割り当てが明確になってくると、新規参入者が増えてくるでしょう。今は、事業性および技術面を評価している段階です。
■アメリカでのMediaFLOに関する事業の状況はどうでしょうか。
安田 アメリカでは、すでに始まっています。サービス提供会社としてクアルコムがMediaFLO USAを設立し、ベライゾンをはじめ3つぐらいのモバイル・キャリアがサービスを提供できるようになっており、対応企業も増えています。周波数帯としては、700MHzのUHF帯を使い、提供されるコンテンツは、テレビ放送とほとんど同じ番組が配信されています(現時点では、独自コンテンツはありません。)。
■テレビ番組の再送信については、ワンセグでは日本でも本年(2008年)ぐらいから独自番組が提供できるようになります。そのようなワンセグでのサービスが本格的に始まった場合、MediaFLOはどういう位置づけになるのでしょうか。
安田 目指しているところでは、MediaFLOは、既に普及しているワンセグと共存するサービスになると思います。ただ、技術的にMediaFLOはワンセグよりも後に出てきているため、はじめからモバイル向けに設計されているところに特長があります。そのため、モバイルの画面で見た場合、ワンセグよりも優れている点として、例えば、フレーム数がワンセグの15フレーム/秒に対して、MediaFLOは30フレーム/秒というように画面の解像度が高くなっています。また、30~50等の多くのコンテンツ番組を同じ周波数帯域内で効率的に多重して放送できる特長もあります。
また、提供されるコンテンツが重要です。そこで、私たちにはMediaFLOのほかに、ワンセグのエリア放送やIP overデジタル放送、デジタル・ラジオなどいろいろなことをトライアルしています。
■著作権の問題もありますね。
安田 そうです。著作権の問題がありますので、MediaFLOではテレビの再送信はワンセグを中心にサービスする予定です。しかし、そのほかのコンテンツ番組・ショッピング番組や、これまでにない新しい使い方、たとえば広告や、エリア限定の放送、地域情報などの場合は、他の会社や大学などとともに共同で研究し、別な技術も利用してサービスを提供しようと考えています。例えば、2006年11月20日にはFM東京と慶応大学と一緒に、デジタル放送の電波の上にIPデータを乗せて配信するIP overデジタル放送の実験も行いました。
■IP overデジタル放送とはどのような仕組みか説明してください。
安田 IP overデジタル放送のよい点は、デジタル放送用の電波の上でIP信号(IPパケット)を送れるということです(図4)。つまり、通常のインターネットや通信に使っているようなデータ(IPパケット)をそのまま放送波に乗せて送信することができるのです。そうすることで、インターネット上にあるコンテンツおよびアプリケーションがそのまま放送できたり、エリア限定のサービスを放送型で流しやすいなどのメリットがあります。情報発信という視点で見た場合、送りたい情報をインターネットの通信回線で放送局まで送ると、その情報が放送波に乗せられてその地域に流れれば、短時間で重要な情報を伝えることができます。また、放送用フォーマットに変換する必要がないため、制作の容易さやCGMのハードルが低いといったメリットもあり、新たな使い方も広がります。
>>「第4回:モバイルの常時接続サービス実現へ 」へつづく
プロフィール
安田 豊(やすだ ゆたか)
現職:KDDI(株) 執行役員 コア技術統括本部長
1975年 3月 京都大学大学院 工学研究科修了(電気系)
1975年 4月 国際電信電話(株)(KDD)入社 研究所 衛星通信研究室勤務
1984年 6月 インマルサット(本部:ロンドン)出向
1990年 7月 KDD本社 事業開発本部 移動通信室長
1994年11月 アステル東京出向(サービス開発部長など)
1998年 4月 KDD 本社 IMT-2000推進室長
2000年10月 KDDI(株)理事 移動体技術本部 モバイルIT部長
2001年 6月 同 技術開発本部 ITS推進部長
2002年 6月 同 au事業企画本部 サービス開発部長
2003年 4月 同 執行役員 au事業本部 au技術本部長
2005年12月 同 技術統轄本部長
2007年 4月 同 コア技術統括本部長