[スペシャルインタビュー]

IBMのNGN戦略を聞く(2):NGNで重要なサービスのコンポーネント化とSDPのサービス・イネーブラ

2007/11/13
(火)
SmartGridニューズレター編集部

IT分野の国際的なリーディング・カンパニーであり、豊富なソフトウェアとハードウェアに加えて多彩なサービスをもつIBMが、NGNに向けて本格的にビジネスを展開し始めています。
そこで、日本アイ・ビー・エム(株)で先進システム事業部長・理事としてご活躍中の星野 裕(ほしの ゆたか)氏にIBMのNGN製品戦略を語っていただきました。お話いただいた内容は、IBMの考えるNGNのアーキテクチャから、IBMのNGN向け「ブレードセンター」、SDP(サービス提供基盤)、ミドルウェア、セカンドライフと連携したNGNの新しいサービスなどの実証実験結果と、多岐にわたります。
今回は、
≪第1回≫: IBMが考えるNGNのアーキテクチャと「ブレードセンター」
に続いて、NGNで重要なサービスのコンポーネント化とSDPのサービス・イネーブラ(サービス実行機能)やWebSphere(WAS6.1)を中心にお話いただきました。(本文中:敬称略)。

聞き手:インプレスR&D 標準技術編集部

IBMのNGN製品戦略を聞く!

≪1≫ITの考え方を採り入れたNGN

■ブレードセンターは、サービス実行環境層もカバーするのですね。

星野 前回示した図2の青色の部分(サービス実行環境層)を拡大したのが図4「IBMのSDPの構成」の黄色の部分から上です。この黄色の部分から上の層のハードウェアは、図2の緑の部分と同様、IBMのブレードセンターが担当します。そのブレードセンターの上で走るコンポーネントを、図4では黄色い長方形で表しています。

■わかりました。

星野 これまで電話網で使用されていた交換機は、アプリケーションを呼び出す機能をもっていました。しかし、それらのアプリケーションは、留守番電話サービスや転送電話サービスのように、電話機とアプリケーションの間の通話回線を占有使用するものでしたので、いくつかのアプリケーションを連携し、サービスとして提供するということは難しかったのです。


図4 IBM SDP(サービス提供基盤)の構成(クリックで拡大)

NGNでは交換方式がSIP(セッション開始プロトコル)というIPを使った方式に変わります。アプリケーションは端末機(電話機)との間で回線を物理的に占有することはなく、両者は論理的なセッションで結ばれますので、複数のアプリケーションを連携して、一つのサービスとして提供することができるのです。そのためには、交換機能とアプリケーションのインタフェースが標準化されていなければなりませんが、グローバルに標準化がされているのです。ですから、NGNになると、いくつものアプリケーションを連携した複合サービスとでも言うべき、新しいサービスがたくさん出てくると考えられるのです。

ところで、その複合サービスの基になるアプリケーションですが、NGNでは、留守番電話サービスのような、現在も存在するサービスだけでなく、コンテンツ配信、メール、ゲームといったマルチメディア・サービスもあります。そして、これらのサービスを実行するアプリケーションの多くは、インターネットの世界で既に存在しています。

と言うことは、複合サービスは、なにも一から開発する必要はなく、既存のサービスをコンポーネントにしておき、また、認証処理や課金処理などについてもコンポーネントにしておいて、これらを連携するという形で作ることができるのです。

≪2≫NGNで重要なサービスの「コンポーネント化」

■なるほど、ずいぶん違うのですね。

星野 アプリケーション、認証処理機能や課金処理機能といったものを、コンポーネントにする利点は、このように複合サービスが作り易くなることだけではありません。同じ機能をもちながら、現行よりも魅力的なアプリケーションが出てきた場合、それをコンポーネントにして、以前のものを置き換えることによって、ほとんど開発をすることなく、新しい版の複合サービスにすることができます。さらに、認証処理コンポーネントや課金処置コンポーネントを、複合サービスで共用しますので、システムの冗長性を避けることもできます。

コンポーネント化について、ITの分野では、今日までいろいろな苦労をしながら実績を積み重ね、最近では前回もお話したSOA(サービス指向アーキテクチャ)が登場しています。SOAでは、コンポーネントをWebサービスのインタフェースを使って呼び出し実行します。Webサービスのインタフェースを使うことから、コンポーネントを「サービス」と言い換えているのですが、これらたくさんのサービスをインターネットの技術でつなぎます。通信事業者が提供するアプリケーションもサービスと言いますが、誤解を避ける意味で、これからテレコム・サービスと言うことにしましょう。SOAで言うサービスとは違うので、こちらの方はコンポーネントと言っておきます。

インターネットでコンポーネントをつないでテレコム・サービスにする場合、「どういう順にコンポーネントをつなぐのか?」ということがロジックの中心になります。ロジックの実装についてはGUIツールが用意されており、最善の場合はプログラミングしなくてもテレコム・サービスが開発できるのです。今まで1個1個作ってきたテレコム・サービスを、もっと早く、もっと安く開発できるようになってきているということなのです。

■それは、どのような発想から考えられたのですか?。

星野 このような考え方は、実は最初に欧米で出てきました。なぜ欧米で出てきたかというと、通信事業者の間でM&A(Merger and Acquisition、企業の合併・買収)が多発したことに一因があります。合併する前の会社は、それぞれビリング(課金)・システムなどのシステムをもっていたのですが、それらをM&Aの結果一本化する必要性に迫られたのです。最初に一本化する手段として考えられたのは、どちらかのシステムのインタフェースに、他方が合わせるという方法ですが、これは、想像していただけると思いますが大変な作業ですし、不可能なこともあります。

その上、そうして合併してできた会社が、また、他の会社と合併するとなると、これは現実にあった話ですが、同様の作業を再度行う必要がありました。そこで、一方を他方のインタフェースに合わせるのではなく、自転車の車輪のスポーク・アンド・ハブのように、真ん中にハブ(情報交換装置)のようなものを置いて、そのハブを経由して通信するようにしたのです。

例えばバックエンド(基幹システム)に、共通に使えるビリング・システム(Y)を1つ置いて、フロントエンドにあるA社とB社のビリング・システムがバックエンドのビリング・システム(Y)を使う場合、真ん中においたハブ(情報交換装置)と通信すれば、ハブが両社(A社とB社)のシステムの違いを吸収してバックエンド(Y)につなぎ、課金処理をしてくれるようにするのです。

SOAでは、エンタープライズ・サービス・バス(ESB:Enterprise Service Bus)というミドルウェア(※3)を使います。この「バス」というのは、論理的なハブといくつかのスポークから成ります(後述の図7参照)。ESBを経由して情報のやり取りをすれば、ハブのところで「相手先がどういう形式のメッセージを求めているか」ということを認識し、相手に合わせたメッセージ形式に変換してくれるわけです。

つまり、自分が出したいメッセージをハブに出せば、あとは自動的にハブがフォーマットなどを変換して相手先に送ってくれるというスタイルのシステムが組めるのです。

※3 用語解説
ミドルウェア:2つのアプリケーション間の通信をスムーズに行うようにするソフトウェア。

≪3≫重要なSDPの中の「サービス・イネーブラ」

■そこの部分が、図4(IBMのSDPの構成)の黄色い部分ところですね。

星野 そうです。「共通に使えるコンポーネント」が、図4のNGNのSDP(Service Delivery Platform、サービス提供基盤)では「サービス・イネーブラ」(サービス実行機能)になります。図4で言っているサービス・イネーブラは、通信事業者などから一般的に提供されるいろいろなサービスを、機能別にコンポーネント化(部品化)したものですが、これらのサービス・イネーブラをESBに接続することによって、システムの冗長度をかなり削減できるようになるのです。

これらのサービス・イネーブラの上に位置するアプリケーションには、固定電話のアプリケーション(電話会議設定サービスなど)、携帯電話系のアプリケーション(PoCなど)もあれば、Web系のアプリケーション(Eメールなど)や映像系のアプリケーション(オンライン・ゲームなど)もあるわけですが、それぞれを実現するために個別のシステムを作るのではなくて、コンポーネント化された、それぞれに必要なサービス・イネーブラを、ESBを介して呼んで実行すればいいわけです。

■なるほど。そうすると、例えばこの図4で、「オンライン・ゲーム」というアプリケーションをやるときに、「課金処理連携機能」というサービス・イネーブラを選択し、これと一番右にある「課金システム」が連携するということなのでしょうか?

星野 そうです。「オンライン・ゲーム」というアプリケーションの核となる部分は、図4の緑で示した層にあるのですが、例えば「課金処理連携機能」というサービス・イネーブラと連携することによって、簡単に課金情報を残す「オンライン・ゲーム」サービスになります。

また、そのオンライン・ゲームのサービスと、他のサービスを複数組み合わせて別のサービスを作ることもできるわけです。例えば、オンライン・ゲームのサービスと会議電話サービスをうまく結びつけると、オンライン・ゲームをしながらゲームをしている相手と会話ができるサービスになりますし、プレゼンス・サーバと連携すれば、対戦相手の都合を確認してからゲームに招待をするということもできるわけです。

■相手の都合を確認した上でゲームを始め、ゲームしながら会話もできるということですね。

星野 さらに、使い過ぎないように、あらかじめ払った分しかゲームができないようにしたい場合は、「プリペイド・サービス」「オンライン・ゲーム」と「固定電話サービス」を組み合わせて、また1つの新しいサービスができるというように、いろいろ発展させることができるわけです。

このように、サービス・コンポーネントがあると、新しいサービスを、格段に早く生み出すことができるのです。今までのやり方ですと、通常、固定電話の場合でも、携帯電話の場合でも、新しいサービスを企画して提供するまでには3カ月ぐらいかかっていたのです。ところがSDPというプラットフォームの環境ですと、大体早いもので十数日程度で、サービス・インできてしまうのです。

■そんなに短縮されるのですか。

星野 これまでの説明でお分かりのように、SDP(サービス提供基盤)でお客様は、開発時の冗長度をなくすことができるので、大幅に開発コストを削減することができるようになります。

■それは、サービス・イネーブラが活躍するということですね。

星野 そうです。それからもう1つ、お客様が収益を上げるために、開発を始めてからサービスを投入開始するまでの期間を短くしたいという要求がありますが、これが可能となるのです。このように、SDPプラットフォーム環境では、この2つを実現できるのです。

例えば、FMC(Fixed Mobile Convergence、固定網サービスと移動網サービスの融合)のようなサービスでは、携帯のお客様だけでなく、ブロードバンドのお客様にも、固定電話のお客様にも同じサービスが提供できるようになっていきますが、これを実現するにはSDPが不可欠なのです。

このように、提供するサービスを下位層の物理的なネットワークと切り離し、アプリケーションとの間にSDPというプラットフォームをかませて、そのSDPの上にサービスを乗せていけば、市場に対して非常に早く、しかも物理的ないろいろなネットワーク(固定網でも移動網でも)に、新たなサービスを投入できるようになるのです。

■IBMはSDPをいつごろから提唱されているのでしょうか?

星野 以前、欧米で先ほどお話した通信事業者間のM&Aが盛んであった時期があります。このとき、合体した企業同士のシステムを相互接続するために、IBMでは、すでにSDPの前身であるSPDE(スピーディ。Service Provider Delivery Environment、サービス提供基盤環境)というフレームワークを作っていたのです。2002年のことです。それが今日、SDPに変わってきたのです。

≪4≫NGNに対応したWebSphere(WAS 6.1)

■それでは、IBMとしては、その分野においてNGNの標準製品にはどのようなものがあるのでしょうか?

星野 IBMは、SDP関連の開発を積極的に進めてきています。そして、それを実現する中核になる製品がWebSphere(ウェブスフィア)です。このWebSphereというソフトウェア製品は、通信の世界でのみ使われている製品ではなく、一般のお客様がeビジネスを行うためのWebアプリケーションの構築ソフトです。つまり、WebSphereは、一般企業向けのソフトとして使われている製品であり、グローバルで広く使われているのです。

そして、これもブレードセンターなどのハードウェアと同じで、通信だけに特化した製品というのではなく、汎用的なCOTSの考え方から開発された製品なのです。ブレードセンターは通信業向けにいろいろな機能を強化していますが、WebSphereも、全企業向けに作られた製品に、通信業向けの機能を加えるという形で強化しています。これも、先ほどのハードウェア戦略と同様、ソフトウェア戦略なのです。

元来、WebSphereというのはWebアプリケーション・サーバ用のソフトウェアでした。2007年6月、このWebSphere(WAS 6.0)に、図5の右側に示す緑の部分、すなわちSIPのプロトコル機能をつけ加え、通信事業向けに機能を拡張しました。これが、WebSphereの最新バージョンであるWAS 6.1(WebSphere Application Server+IMS Connector)です。元来のWebSphereはセッションについて、例えば信頼性を向上させるために複数設置しホット・スタンバイ(動作中に切り替えできる機能)できるような機能をもっていますが、これはWAS 6.1でも同様です。


図5 WAS 6.1(WebSphere Application Server+IMSコネクタ)の構成(クリックで拡大)

このように、IBMの考え方というのは、通信向けだからということで、一から開発するのではなく、既存のWebSphereのような信頼性が高く、多数のユーザーに使用され実績のある製品をベースにして、そこにSIPのプロトコルを追加する、そういう考えなのです。図5に示すその上の「Web/SIP Converged コンテナ」部分、つまりアプリケーションを乗せる部分というのは共通ですから、あるアプリケーションをサービスしようとするとき、あるときはSIPを利用して、あるときはHTTPを利用する、ということが可能になるわけです。これによって、いろいろなアプリケーションの連携がとても容易になります。

■このWAS 6.1というのは、NGNのどこの部分に位置づけられる製品ですか?

星野 これは、前述した図2の青い部分のところにある「SIP A/S」(Application Server、アプリケーション・サーバ)に該当します。

■この図2のアプリケーション・サーバ(A/S)と図4のSDPとの関係、あるいは図4のサービス・イネーブラの関係を整理していただけますか?

星野 図4の黄色い部分はSDP(サービス提供基盤)と言う構造に従って実装します。そのベースはSOAです。SDPの中に、SDPを構成するいろいろな機能を示す箱が図示されていますが、その中で、下の水色の部分(ネットワーク制御層)から上がってきたメッセージがSDPに入る際の入口になるのがSIP A/Sです。

例えば、端末から呼情報がくると、ネットワーク制御層にあるCSCFにきます。SIP A/Sは、呼制御情報がきたことを契機として、あるサービスの提供を開始したいという場合、CSCFに呼制御情報を転送をしてもらいます。転送を受けた後は、SOAの仕組みを使い、いくつかのサービス・イネーブラを呼び出すことによって、テレコム・サービスを実行します。簡単に言うと、こういう関係になります。

図4のサービス層を示す長方形の中には、その他にもいろいろな機能を示す長方形が書かれており、その中に括弧に名前が書かれているものがあります。これらはIBM製品の略称で、TWSSと頭に「W」が付いているものはWebSphereファミリー製品です。

(つづく)

プロフィール

星野 裕(ほしの ゆたか)

現職:日本アイ・ビー・エム株式会社 理事 先進システム事業部長 

1981年 東京工業大学大学院修士課程終了
同年、日本アイ・ビー・エム(株)入社
1996年 プロセス・インダストリー・マーケティング・マネジャー
1997年 ERPソリューションセンター・マネジャー
1999年 エンタープライズ・サーバ製品事業部長
2001年 同理事
2003年 理事- サービスオペレーション・ディレクター
2005年 理事- NGN推進担当
2006年 理事- 先進システム事業部長
現在、NGNを含む先進システムの推進を担当

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