国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2016年11月24日、鳥取大学の櫻間一徳准教授の研究チームが電力使用量を調整する新たな手法を開発したと発表した。この研究はJSTの戦略的創造研究推進事業(Core Research for Evolutionary Science and Technology)チーム型研究の一環であり、鳥取大学の三浦政司助教と共同で取り組んだもの。
電力需要に対して供給量が足りなくなるとき、電力会社は「デマンドレスポンス」を利用して、電力利用者の利用量を制限して、停電などの深刻な事態に陥ることを防ぐ。しかし、デマンドレスポンスを実現するには、各利用者の電力使用量をネットワークを通して1台のサーバーに集めて、集計、分析する必要がある。櫻間准教授のチームが開発した手法は、データを収集するサーバーやネットワークを設置することなく、デマンドレスポンスを実現する手法だ。
この手法では、近隣の住宅や定置型蓄電池などが備えるスマートメーターと通信することで、グループ内の電力使用量を調整する。住宅ごとの電力使用量や、蓄電池の供給可能量、発電設備の発電量などをそれぞれのスマートメーターが検知しその値を基にしたデータを交換することで、電力使用量を自動的に調整する。
このとき、それぞれのスマートメーターをつなぐネットワークは「強連結」でなければならないとしている。強連結とは、ネットワーク内の任意の2点を選んだ時、どの2点を選んでも2点を結びつけるルートを作れる構造を指す。
図 強連結のネットワークの例。元々は強連結ではなかったが、通信を中継するアンテナを設置することで強連結となった
出所 国立研究開発法人 科学技術振興機構
スマートメーター同士が交換するデータは「調整量」と呼ぶ。調整量は、近隣のスマートメーターと交換して得た値を平均して、状況に応じて重み付けをすることで得る。重みは、データの緊急度や、双方向通信ができないなどのネットワーク環境を評価して計算する。
図 調整量を計算するアルゴリズムを示すフローチャート。「繰り返し回数」は、ネットワークの規模に応じて、事前に設定しておく
出所 国立研究開発法人 科学技術振興機構
調整量が決定したら、どの住宅や施設がどれくらい節電するかが決まる。節電に応じたインセンティブを払うシステムを作るときは、節電した実績をスマートメーターに蓄積しておき、月に1回などの間隔でデータを収集することで、支払額を計算できる。
調整量を計算した結果、近隣の電力使用量を調整するだけでは間に合わない場合、隣接する地域から融通してもらう。櫻間准教授のチームは、住宅や施設を構成する小規模な「マイクログリッド」内で電力使用量を調整し、間に合わない場合は隣接するマイクログリッドから融通を受けるネットワークを想定している。それぞれのマイクログリッドには数十から数百の住宅やビル、施設などに加えて定置型蓄電池と太陽光発電施設や風力発電施設が存在していると仮定している。
図 複数のマイクログリッドで構成するネットワークの例
出所 国立研究開発法人 科学技術振興機構
櫻間准教授のチームは14のマイクログリッドを相互に接続したネットワークを想定したコンピュータシミュレーションを実施している。それぞれのマイクログリッドには40~50の電力利用者と発電設備が存在し、マイクログリッドの総需要量の30%をまかなえるバックアップ電源があると仮定している。
図 シミュレーションの結果。各マイクログリッドで生じている電力量の過不足が収束していくことが確認できる(左)。収束していく過程で、電力価格も変動する(右)
出所 国立研究開発法人 科学技術振興機構
1つのマイクログリッドで発電機の故障が発生したと仮定してシミュレーションを実施したところ、故障発生当初は需給バランスが崩れたが、隣接するマイクログリッドの協力を得て、少しずつバランスを回復させる様子を確認したとしている。この変化に合わせるように、当該のマイクログリッドだけでなく隣接するマイクログリッドでも電力価格が変動することも確認した。
櫻間准教授のチームは、今回開発した手法がマイクログリッドなど小規模の電力ネットワークにおける管理手法の1つとして普及する可能性があると考えている。