ダイキン工業、ソフトバンク・テクノロジー、青山キャピタルの3社は2017年3月22日、職種や職場環境と人間が感じるストレスの関係などを調べる実証実験を共同で実施すると発表した。実験は2017年7月から開始する予定。現在は関係する機器と情報システムを開発しているところだという。
ダイキン工業は心拍からストレス強度を判定するセンサー機器の開発を担当し、ソフトバンク・テクノロジーは情報を蓄積、分析するシステムをクラウドサービス上に構築する役目を担う。青山キャピタルは、衣料品業界のネットワークを活用して、さまざまな職種から被験者となるモニターを集める。ちなみに、青山キャピタルの親会社はフォーマルウェア販売チェーン店「洋服の青山」を経営する青山商事。
実験に使うセンサーは、ダイキン工業のテクノロジーイノベーションセンターが開発を担当する。独自技術「Airitmo(エアリトモ)」を利用して、ベルトに引っ掛けるだけで心拍だけでなく、身体の姿勢の変化(立位と臥位)などを検出するものになる。一般的な心拍センサーのようにセンサーを肌に貼り付けたり、手首にセンサーを巻く必要がないので、センサーの存在を意識させずに心拍などのデータを取得できる。
このセンサーは細いゴムチューブを内蔵しており、チューブ内の空気の振動を圧力センサーで測定し、その結果に信号処理を施すことで、心拍や呼吸回数を検知できる。ほかにも、運動によって消費したカロリーを示す「METs値」や歩数も検出可能だ。
図 実験に使うセンサー。ベルトに引っ掛けるだけで、心拍数や呼吸回数を検知できる
出所 ダイキン工業
このセンサーは、心拍の間隔を分析することで人間が感じているストレスの強さを判定する機能も備えている。人間はストレスをあまり感じていないときは心拍の間隔が長くなったり短くなったりする。この心拍の「ゆらぎ」が、ストレスを感じていると小さくなり、心拍の間隔が一定に近くなる。この変化を読み取って、ストレス強度を判定する。実験では、このセンサーはBluetoothで被験者が持つスマートフォンと通信して検出データを送信する。受信したスマートフォンはLTEでインターネットにアクセスして、クラウドのサーバーにデータを送信する予定となっている。
図 人間の心拍はストレスをあまり感じていないときは、拍動の間隔がばらつくが、ストレスを感じると間隔が一定に近くなっていく
出所 バイオ・シータ
今回の実験を実施する3社は、実験での代表的な検証項目として3点挙げている。1点目は、ベルトに引っ掛けるセンサーが検出する生体情報の精度。センサーが検知する値がどれくらい確かなものなのかを検証するということだ。
2つ目と3つ目は、働く人に密接に関わる問題を検証するものだ。2つ目は職種の違いや、職場環境の違いによるストレスの強さの検証。3つ目がストレス強度と睡眠の深さの相関を確かめるというものだ。現在、見直しの機運が高まっている「働き方」にも通じる問題だ。
ダイキン工業は、この実験で得たデータを活用して、人が感じているストレス強度の推移を検知して空調設備の運転状態を自動的に制御する技術を開発することを目標として掲げている。この技術を通して、人間が快適に感じるだけでなく、働く人の生産性が向上するオフィス空間を作り上げることも目指している。
ソフトバンク・テクノロジーは生体情報を蓄積、分析してその結果をグラフなどの形で視覚的に提示するシステムと、個々のセンサー機器を集中管理するシステムをクラウドサービス上に構築し、完成させることを目指している。データを蓄積、分析するシステムにはMicrosoftのクラウドサービス「Microsoft Azure」を利用し、個々のセンサー機器を管理するシステムの構築には、ソフトバンク傘下の英ARM社のマイコンコア「Cortex-Mシリーズ」とマイコン向けOS「mbed OS」、センサー機器の管理機能を提供するクラウドサービス「mbed Cloud」を活用するとしている。
青山キャピタルは、今回の実験で生体情報の提供を受けている被験者に、健康維持に役立つ情報を提供することで、働く人の健康に対する関心が深まり、健康に対する意識が改善するかを確かめるとしている。さらに、実験後は、働く人に向けた新しいヘルスケアサービスの新規開発を目指すとしている。このサービスはファッションの要素も盛り込んだ新しいものになるという。