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光触媒による水素生成量が10倍に、神戸大学と大阪大学の研究チームが新構造の触媒を開発

2017/04/12
(水)
SmartGridニューズレター編集部

神戸大学と大阪大学は、両大学の研究チームが光触媒作用による水素生成量が10倍向上する新しい触媒の開発に成功したと発表した。

神戸大学と大阪大学は2017年4月10日、両大学の研究チームが光触媒作用による水素生成量が10倍向上する新しい触媒の開発に成功したと発表した。開発したのは神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの立川貴士准教授の研究グループと、大阪大学産業科学研究所の真嶋哲朗教授の研究グループ。両グループ共同で開発した。

水から生成できて、燃料として使用してもCO2を排出しない水素(H2)は、次世代のエネルギー源として期待を集めている。トヨタ自動車や本田技研工業は燃料電池車を製品化しており、家庭用燃料電池「エネファーム」も普及している。そこで課題となっているのが水素の生成方法だ。

現在のところ、水を電気分解して水素を得る方法が一般的だが、大量に水素を生成するには、発電所の電力に頼ることもある。そうなると、発電所で天然ガスや石炭を燃焼させたエネルギーで水素を生成することになるので、完全にCO2を排出しないとは言い切れなくなってしまう。また、燃料を使って生成する水素は高コストになる可能性もある。

そこで注目を集めている手法が、「光触媒作用」を利用して水素を得る方法だ。光触媒となる物質を水中に入れ、光を当てると微量の水素が発生する。光触媒表面に光が当たると、触媒表面に電子と正孔(電子が抜けた孔)ができ、このうちの電子が水の水素イオンを還元し、水素が発生するという方法だ。

しかし、これまで数多くの光触媒を開発する試みがあったが、どの光触媒を使っても触媒表面にできる電子と正孔が触媒表面で再結合して消失してしまうので、この方法で生成できる水素はわずかな量にとどまっていた。

今回研究チームは、触媒の粒子配列を3次元で制御し、発生する電子と正孔を空間的に切り離す「メソ結晶化技術」を開発した。「メソ結晶」は、結晶性のナノ粒子を高密度で規則的に集積させた結晶性ナノ粒子の集合体を指す。

一般にメソ結晶はナノ粒子を反応液に入れて、自己組織化を促して集合させるという手法で生成する。しかしこの方法では、自己組織化が効率良く進む温度、圧力などの条件を突き止めるのが難しく、自己組織化ができたとしても、メソ結晶となっていない残渣を取り除くなどの後工程に時間がかかるといった問題があった。

そこで研究チームが着目したのが酸化チタン(TiO2)のメソ結晶だ。研究チームは事前に、酸化チタンのメソ結晶は比較的簡単な手法で作れることを突き止めていた。その手法は、フッ化チタン(TiF4)を含む溶液をガラス基板やシリコンウエハーに垂らし、オーブンに入れて400℃で焼くというものだ。このように、容易に作れる酸化チタンのメソ結晶を骨組み(テンプレート)として利用して、新しい触媒のメソ結晶を得ようと考えたのだ。

研究チームが新しい触媒のメソ結晶を生成するために利用したした手法は、高温、高圧の熱水中で化合物の合成や結晶の成長が進む「水熱反応」だ。水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)などを配合した水溶液に酸化チタンのメソ結晶を入れて水熱反応を起こさせると、わずか1段階の反応でチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)のメソ結晶を合成できたという。余計なものを取り除くなどの後処理もほとんど必要なかった。

図 酸化チタンメソ結晶から、結晶構造の異なるチタン酸ストロンチウムメソ結晶を水熱反応で合成した

図 酸化チタンメソ結晶から、結晶構造の異なるチタン酸ストロンチウムメソ結晶を水熱反応で合成した

出所 神戸大学

さらに研究チームは、水熱反応の時間を長くすることで、整ったメソ結晶の構造が壊れ、表面近くに大きさが不均一なナノ粒子が、それぞれ結晶の方向を揃えたまま成長することも発見した。

図 水熱反応で得たチタン酸ストロンチウムのメソ結晶を透過型電子顕微鏡で撮影した像。24時間反応させたものは、規則正しく結晶が並んでいるが、48時間反応させたものは、表面近くに大きさが不均一なナノ粒子ができている

図 水熱反応で得たチタン酸ストロンチウムのメソ結晶を透過型電子顕微鏡で撮影した像。24時間反応させたものは、規則正しく結晶が並んでいるが、48時間反応させたものは、表面近くに大きさが不均一なナノ粒子ができている

出所 神戸大学

長時間の水熱反応を経たチタン酸ストロンチウムのメソ結晶は、メソ結晶としては良い出来とはとても言えなかった。研究チームはメソ結晶として整った構造になっている方が、触媒として利用したときに良い結果が出ると予想していた。しかし、実際に水中で反応させたところ、長時間の水熱反応を経たチタン酸ストロンチウムのメソ結晶の方が高い効率で水素を発生させた。メソ結晶の規則的な構造をあえて崩すことで良い結果が出るということが判明したのだ。

実験では、長時間の水熱反応を経たチタン酸ストロンチウムのメソ結晶に助触媒としてロジウム-クロム(Rh-Cr)複合酸化物を付着させて水に沈め、紫外線を照射したところ、およそ7%の光エネルギー変換効率で水素が発生したという。メソ結晶化していないチタン酸ストロンチウムも同じ条件で試してみたが、効率は1%にも満たなかった。研究チームは紫外線照射によって発生した電子が、メソ結晶内部のナノ粒子の間を移動し、正孔と再結合することなく表面に露出した比較的大きなナノ粒子に集まり、水素イオンを還元すると考えている。

図 メソ結晶の表面に成長した比較的大きなナノ粒子に電子が集まり、水素イオンを還元する(左)。ただ無秩序に集めたナノ結晶では、紫外線を当てて電子と正孔を発生させても、すぐに再結合して消え去ってしまう(右)

図 メソ結晶の表面に成長した比較的大きなナノ粒子に電子が集まり、水素イオンを還元する(左)。ただ無秩序に集めたナノ結晶では、紫外線を当てて電子と正孔を発生させても、すぐに再結合して消え去ってしまう(右)

出所 神戸大学

神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの立川貴士准教授は、今回の成果を「あくまで出発点」と捉えている。今回の実験では触媒を反応させるために紫外線を当てたが、実用の水素製造装置に使用するなら、太陽の光、つまり可視光で反応する触媒を開発する必要があるという。そして、現在はこの研究の成果を活かして、可視光に反応する触媒として働く物質をメソ結晶にする研究に取り組んでいるという。商品として利用する上での目標は可視光で反応する触媒で、10%の光エネルギー変換効率で水素を生成させることだという。立川准教授は、その目標を実現する時期を2030年ごろと控えめに語ったが、可視光に反応するメソ結晶触媒が今回のように良い結果を出せたら、その時期は一気に近くなるかもしれない。


■リンク
神戸大学
大阪大学
国立研究開発法人科学技術振興機構

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