ウチヤマホールディングス、九州工業大学、IDCフロンティアは2017年6月15日、介護付き有料老人ホームで働く職員の行動パターンをつかむための実証実験を実施したと発表し、分析結果を一部公開した。実験の期間は2017年1月~3月で、場所は福岡県北九州市の介護付き有料老人ホーム「さわやか海響館」。この老人ホームはウチヤマホールディングスの連結子会社であるさわやか倶楽部が運営している。ここで働く介護士22名と、看護師5名を対象に実験を実施した。
実験ではスマートフォンと、地磁気、照度、気圧、温湿度などを検知する小型センサーを被験者に携帯してもらった。さらに、浴室やトイレなどの共用部にもセンサーを設置した。小型センサーはスマートフォンに検出値データを送信し、そのデータはスマートフォンが無線LANでルーターに送信した。ルーターに届いたデータはインターネットを経由してIDCフロンティアが運営するクラウドのデータ分析環境に届くようにした。
図 実験環境の模式図
出所 IDCフロンティア
センサーで自動的にデータを収集するだけでなく、行動を正確につかむために、被験者には業務に取り掛かる前に、これからどの業務に取り掛かるのかスマートフォンの専用アプリケーションに入力してもらった。このデータを集積することで、どのような業務にどれくらいの時間がかかっているのかが分かる。今回分析が完了し公開したデータは、被験者に入力してもらった行動に関するデータだ。
行動データを分析したところ、2つの事実が明らかになった。1つ目は業務開始時間が朝と夕刻に集中していること。もう一つは、介護士も看護師も業務時間の大部分を記録業務に費やしているということだ。ウチヤマホールディングスはこのうち2つ目の事実に驚いたという。
図 介護士(左)と看護師(右)がそれぞれどの業務に時間を費やしているかを示すグラフ。全業務時間に対する割合で示している
出所 ウチヤマホールディングス
介護の業務のうち、食事、入浴、排泄に関わる業務は「介護の3大業務」と介護業界では呼んでいる。ウチヤマホールディングスはデータ解析結果が出るまでは、介護士、看護師ともにこの3大業務に大部分の時間を費やしていると考えていたという。3大業務はどれも介護を受ける人が動くペースで業務にかかる時間が決まる。介護士や看護師が工夫して時間短縮できるものではない。
ウチヤマホールディングスは介護施設における業務改善のヒントが得られればと考えて実証実験に協力したが、実際は介護を受ける人のペースで業務にかかる時間が決まってしまうのだから、業務改善の余地は大きくないと考えていたそうだ。
ところが、ふたを開けてみたら介護士、看護師ともに記録に業務時間の大部分を費やしていた。看護師は申し送りにも長い時間を費やしている。この種の業務なら自動化やマニュアル化で時間を短縮していけるとウチヤマホールディングスは考えている。例えば音声認識技術や、手書き文字認識技術を利用すれば、パソコンに文章を記録していく業務にかかる時間を減らすことができる。手間も軽くなる。
センサーが自動的に記録したデータについては現在データの質を検証中で、分析はこれからだという。蓄積したデータはレコード数にしておよそ12億、データサイズは3.9Gバイトにもなるという。このデータを機械学習を活用して分析していく。介護関連の仕事は重労働で、働き手の数が足りないという厳しい現状がある。これからのデータ分析で、この現状を打破するきっかけをつかめれば実験は大成功となるだろう。