パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は2017年7月26日、センサーを使って人間の眠気を検知予測し、覚醒状態を維持させる「眠気制御技術」を開発したと発表した。自動車運転手の居眠り防止への応用のほか、オフィス、教育機関などへの応用を想定している。2017年10月からサンプル提供を開始する予定。
今回開発した眠気制御技術は、カメラで人間の顔を捉え、瞬きや表情の変化など、顔面の変化を検知し、その画像を人工知能で処理することで初期段階の浅い眠気を高い精度で検知するという。眠気の5段階等間隔尺度「1.全く眠くなさそう」「2.やや眠そう」「3.眠そう」「4.かなり眠そう」「5.非常に眠そう」のうち、やや眠そうの段階で検知する。
同社は監視カメラを開発してきた実績を持っている。その過程で収集してきた瞬きや表情、眠気などに関する計測結果をデータベースにまとめ、瞬きや表情に関連するおよそ1800のパラメータと眠気の関係を生理学的に分析し、眠気レベルを推定する独自の人工知能を開発したという。
図 カメラ画像から瞼を検知し、その開き具合と瞬きが完了するまでの時間を分析して眠気レベルを判定する
出所 パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社
眠気のレベルを検知するだけでなく、その後の眠気がどのように推移するかを予測する機能も備える。これは、既存の眠気検知システムでは困難なことだという。これは、独自開発の赤外線センサーで人体からの放熱量を計測することで実現した。一般に人間は、寒冷で明るい環境では眠くなりにくく、温暖で薄暗い環境では眠くなりやすい。眠気は空間の温度や明るさに応じて変化するというわけだが、このデータだけで眠気を予測することは難しかった。同じ温度、明るさの環境でも厚着、薄着など着衣の違いによって人間が感じる温度が変わるからだ。
そこでパナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は人体からの放熱量に着目し、千葉大学との共同研究で、着衣の違いに関係なく人体からの放熱量と一定時間経過後の眠気に関連があることを突き止めた。今回開発した技術では人体からの放熱量を計測し、加えて空間の明るさも計測することで、眠気がどのように推移するかを予測することに成功した。
図 人体からの放熱量が多く(左)、周囲の環境が明るい(右)と眠くなりにくい
出所 パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社
「眠気を感じている」「これから眠くなる」と判定したら、空調機器の風量や温度設定を制御して、覚醒状態を維持する。ただし、温度が低くなりすぎて「寒い」と感じることがないように、制御する。これには、ルームエアコンの開発で積み上げてきた温熱環境と生理学の知見を応用した。さらに、奈良女子大学との共同研究で人間が感じている暖かさ、涼しさを推定する「温冷感推定技術」を開発した。風流などが計測値に大きく影響してしまう車室などの狭い空間でも正確に推定するという。
パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は、今回開発したものがアルゴリズムなどの「技術」であるとしている。実際の車両などの機器に実装するときは、依頼者の要望に応じて実装形態が変化するという。ただし、眠気を判定する人工知能は、インターネット経由で接続したクラウドなどを利用することなく、車両などの機器内で完結させるとしている。