福井県小浜市、株式会社クラウド漁業、KDDIは2017年11月20日、IoT技術を活用して大規模鯖養殖業務の効率向上を目指す「『鯖、復活』養殖効率化プロジェクト」を開始すると発表した。このプロジェクトは小浜市漁業協同組合、福井県立大学の協力を得て実施する。
かつて小浜市は鯖の漁獲量で有名だった。1974年には小浜市の田烏(たがらす)漁港だけの水揚げでも3580トンを記録したことがあったという。しかし、その後の全国的な乱獲がたたって、漁獲量は激減。2015年の漁獲量は1トン未満まで下がってしまっている。
図 福井県と小浜市の鯖漁獲量の推移(左)。1976年をピークに急激に下落している。左側は大量の水揚げがあり、活気があった旧小浜漁港の様子
出所 KDDI
しかし、漁獲量は減っても独自の食文化はまだ根強く残っている。傷みやすい鯖を捕れたての新鮮な状態で焼き上げる「焼き鯖」や、漁港のそばで水揚げされたばかりの鯖を刺し身で食するなど、小浜でなければ味わえない鯖料理がある。小浜市は鯖の食文化をお起きたテーマに掲げて、産業振興や観光客誘致を目指す「鯖、復活」プロジェクトに取り組んでいる。今回のKDDIらの取り組みは鯖の水揚げ量を増やすことで、小浜市のプロジェクトを後押しするものになる。ちなみに、「鯖、復活」養殖効率化プロジェクトは、総務省の「情報通信技術利活用事業費補助金(地域IoT実装推進事業)」の採択を受けたもの。公募の結果、クラウド漁業とKDDIが受託者に決まった。
小浜市では鯖を養殖し、成長した鯖を水揚げして消費者に提供している。この事業で採算を確保して、大きな利益を得るには養殖規模を拡張する必要がある。しかし、大きすぎる養殖施設は、人間の手だけでは管理できず、水揚げ量の増加幅もそれほど期待できない。また、鯖の養殖は、ベテラン漁師の経験と勘で運営しているため、後継者への技術継承に時間がかかりすぎるという問題がある。
以上の問題を解決するために2つの技術を導入する。1つ目は水温、酸素濃度、塩分濃度を1時間に1回測定するセンサー「うみのアメダス」。携帯電話回線での通信機能を搭載しており、計測値はこの回線を経由してクラウドに送信する。大規模化していけすの数が増えても、それぞれのいけすにこのセンサーを設置することで、養殖担当者は海に出ていけすを見回ることなく、すべてのいけすの環境の変化をWebブラウザで確認できる。
図 「うみのアメダス」の外観(左)と、センサーの取り付けイメージ(右)
出所 KDDI
もう1つは、給餌時刻、給餌量、現場の作業メモなどの情報をタブレットで記録管理するシステム「デジタル操業日誌」。日々の作業を記録した後、作業の結果を検証することで、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルが回り始め、どのような作業をすれば最良の結果を得られるのかということがだんだん明らかになり、その記録がデジタル操業日誌に残る。残った記録を見ながら作業すれば、経験がない漁師でも良い結果を得られる。
図 「デジタル操業日誌」の利用イメージ。入力内容と結果を見比べて、次の作業内容を考え直すサイクルができる
出所 KDDI
このプロジェクトの本格始動は2018年2月の予定。それまでに参加団体、参加企業でシステムのさまざまな仕様について協議し、測定機器やクラウドのアプリケーション開発を進める。2月までには養殖現場に必要な設備をすべて配備し、プロジェクトを本格的にスタートさせる。また、プロジェクト開始後にうみのアメダスの環境計測値とベテラン漁師のノウハウをデータ化したものの相関を分析して、養殖のさらなる効率向上を図り、後継者への技術伝承の問題の解決に挑むとしている。