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2050年を視野に入れた「水素基本戦略」が決定、水素発電の商用化で需要増と低価格化を図る

2017/12/28
(木)
SmartGridニューズレター編集部

日本政府は、「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」を開催し、水素の普及と活用に向けた「水素基本戦略」を決定した。

日本政府は2017年12月26日、「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」を開催し、水素の普及と活用に向けた「水素基本戦略」を決定した。2050年を視野に入れた目標を示しながら、2030年までの具体的な計画を定めたものだ。

図 「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」で発言する安倍晋三首相

図 「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」で発言する安倍晋三首相

出所 内閣官房内閣広報室

水素基本戦略の大きな狙いは2つ。1つ目はエネルギー調達ルートの多様化と自給率向上。日本はエネルギーの94%を海外から輸入する化石燃料に頼っており、自給率は6~7%。そして自動車の燃料は98%が石油で、そのうち87%を中東から輸入している。火力発電所で消費する燃料も、LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)が占める割合が上昇している。LNGもほぼ全量を輸入に頼っている。

2つ目はCO2排出量削減。日本政府は、2030年度にCO2排出量を2013年度比で25%削減する目標を立てている。しかし、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故の影響で国内の原子力発電所はほとんどが休止し、その分LNG火力発電所の稼働率が高まっている。LNGは石炭や石油よりも燃焼時に発生するCO2の量は少ないが、現在の日本のように電力の大部分をLNG火力発電所に頼っていては、CO2排出量は増加する一方だ。

今回決定した水素基本戦略は、エネルギーを確実に調達する体制を作りながら、CO2排出量を削減することを狙ったものと言える。しかし、エネルギーを化石燃料に頼っていては、この2つの課題は相反するものになってしまう。そこで、燃料として利用してもCO2を発生させない水素を活用しようというわけだ。

しかし日本で水素を活用する動きは、ごく小規模なもの、あるいは実験的なものしかないのが現状だ。水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV)の流通台数もごくわずかと言わざるを得ない。水素の販売価格も決して安いとは言えない。

そこで、水素基本戦略では水素の消費量を大幅に引き上げ、調達単価引き下げを狙う。現在、日本でエネルギーとして流通している水素の量は年間でおよそ200トン。これを2020年には4000トン、2030年には30万トンに引き上げ、商用流通網を整備する。

図 水素基本戦略で政府が想定するロードマップ

図 水素基本戦略で政府が想定するロードマップ

出所 経済産業省 資源エネルギー庁

水素消費量を引き上げるために政府が期待しているのが、水素を燃料として利用する「水素発電」だ。まずは既存の火力発電所でLNGとの混焼を開始し、将来は水素のみを燃料とする火力発電の実現を目指す。しかし、LNGと水素を混焼すると窒素酸化物(NOx)が発生する。発電効率が下落するという問題もある。この点は技術開発を推進し、新たな燃焼技術を早期に実用化することを目指すとしている。

水素基本戦略では2030年に水素発電を商用化し、発電コストを1kWh当たり17円とすることを目指すとしている。2030年に30万トンの水素を調達し、そのすべてを水素発電で使用すると、発電能力は1GW(100万kW)ほどに相当するという。そして、2050年をめどに水素発電の発電コストをLNG火力発電と同等まで引き下げ、コスト競争力がある電源とすることを目指す。その頃には、年間の水素調達量は500万~1000万トンほどになると予測している。

現在、水素ステーションで水素を購入すると、1Nm3当たりの単価が100円程度になるが、水素発電を実用化し、調達量を急増させる2030年ごろには単価を30円程度まで引き下げる。さらに、2050年ごろには20円程度まで下げることを目指す。

水素の調達方法は、海外からの輸入と国内での生産を想定している。国内では、再生可能エネルギーで発電した電力を利用して水素を生成する。出力制限がかかって、再エネ電力を電力系統に流せないような場合でも、その電力を水素生成に活用すれば有効活用できる。政府は不安定な再エネ電力の出力吸収の手段としても、水素生成が有望と考えており、国内での水素生産量が増加すれば再生可能エネルギーを活用した発電設備のさらなる普及も期待できるとしている。

海外からの輸入分については、再生可能エネルギーの発電コストが極端に低下した国で、その電力を活用して水素を生成して輸入する手法を想定している。そして、2050年を見据えた将来に向けて、「褐炭」から水素を生成する手法の開発を目指す。褐炭はかなりの埋蔵量があるが、石炭の中でも最も低品質で使い道が少ないため、ほとんどが未利用のままとなっており、低いコストで調達できる。この褐炭からガス化技術を活用して水素を生成する。

ただし、褐炭はガス化する際にCO2を発生させるため、水素を生成する技術の開発だけでなく、CO2回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)に適した土地の確保が必要としている。CCSが可能な土地は、地球上でも特定の地域に偏在しており、現時点では地質が安定している北アメリカ、北ヨーロッパ、東アジア、オーストラリアに集中しているという。

現在日本は、オーストラリアと共同で液化水素サプライチェーン構築実証に取り組んでいる。この事業はオーストラリアで褐炭を採掘し、現地で水素を生成、冷却して気化し、輸送船で日本に運ぶルートの確立を目指しているが、この事業で褐炭からの水素生成技術と、CCSでCO2排出を抑える技術を確立するとしている。

水素の調達単価が下がり、国内での本格的な流通が始まれば、FCVやフォークリフトなどの車両での水素活用も進めやすくなる。現在、日本国内には100ほどの水素ステーションがあるが、水素基本戦略ではこの数を2020年には160、2025年には320、2030年には900に増加させていくとしている。2050年には水素ステーション運営で得られる収益が上昇し、ガソリンスタンドを代替していくと期待する。

水素ステーションの整備が進めば、歩調を合わせるようにFCVの登録台数も増加していく。現在、日本におけるFCVの登録台数は2000台程度だが、2020年には4万台、2030年には80万台に増やすとしている。燃料電池バスは現在の2台から2020年には100台、2030年には1200台とし、燃料電池フォークリフトは40台から、2020年には500台、2030年には1万台と、水素を燃料とする車両を着実に増加させる計画となっている。そして、2050年ごろには、ガソリン車からFCVへの転換が進むと期待している。

閣僚会議に出席した安倍晋三首相は、水素エネルギーを「エネルギー安全保障と温暖化問題を解決する切り札」と表現し、決定した基本戦略で掲げた各種施策を速やかに実行するよう指示した。


■リンク
経済産業省 資源エネルギー庁
内閣官房内閣広報室

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