≪1≫オープニング:馬英九総統=国際的なブロードバンド通信産業の発展を=
今年(2008年)、台北に完成したばかりの新・世界貿易センターの南港(NANGAN)展示会場では、前述したTAITRONICS 2008、2008ブロードバンド台湾、台湾RFIDに加えて、内外からの多数のVIPを招いて台北サミットも同時に開催された。
写真1
馬 英九氏(Ying-jeou Ma)
(台湾総統)
オープニング・セレモニーの挨拶にたった台湾総統の馬 英九(Ying-jeou Ma)氏(写真1)は、「私が台北市長の時代に建設を促進した、この南港(NANGAN)展示会場で、3つの展示会と台北サミットが開催されることは大変光栄である。ここに参加された多くのCEOの皆さんがお互いに大いに意見を交換され、国際的なブロードバンド通信産業の発展に貢献されることを期待したい」と述べた。
また、主催者側を代表して、TEEMA会長のアーサー・Y・C・チャオ(Arthur Y.C. Chiao、焦佑鈞)氏(写真2)は、「台湾にとって電気・電子産業は非常に重要な産業であり、2007年に全製造金額は2178億USドル(21兆7800億円)に達した。これは台湾の全製造部門の50.9%になり、前年比11.5%の成長である。また、このうち輸出額は1211.7億USドルにのぼり、台湾の全輸出総額の49.1%を占めている」と、今回の展示会の重要性を力説した。
写真2
アーサー・Y・C・チャオ氏
(Arthur Y.C. Chiao、焦佑鈞)
(TEEMA会長)
このオープニング・セレモニーを皮切りに、展示会がスタートしたが、ここではM-台湾計画を背景にして開催された「第1回2008ブロードバンド台湾」を中心的にレポートする。この展示会の内容を理解するためには、その背景にある台湾の国家戦略をとらえておくことが重要となる。そこで、この展示会のレポートと並行して、野村総合研究所(NRI) 台北支店 シニア・コンサルタント 村井 則之氏にお聞きした、台湾のブロードバンドに関する「特別インタビュー」を掲載しているので参照されることをおすすめする。
また、展示会のレポートの前に、台湾の概要とインターネットなどの利用・普及状況を見てみると、表1に示すように、台湾の面積は日本の九州よりやや小さく、人口は日本の1/5弱であり、インターネットへの加入者数は1555万人と全人口の67%と言う普及状況にある。
≪2≫M-台湾計画からi-台湾計画へ
「第1回2008ブロードバンド台湾」の展示会場で最も目を引いた展示は、台湾経済部(MOEA:Taiwan Ministry of Economic Affairs)がハイテク時代のライフ・スタイルを展示した「ブロードバンド・ワールド館(パビリオン)」であった。
同パビリオンでは、M-台湾計画の中核的な技術となる「光ファイバ網/FTTH(写真3の中央右)と写真3の左側のWiMAX等(写真4)」のコンビネーションによる新世代のブロードバンドの展示・デモが展開された。
写真5
イアン・リー氏
(Ian Lee、李文欽)(台湾経済部
プロジェクト・マネージャ)
このパビリオンの責任者である台湾経済部 プロジェクト・マネージャのイアン・リー(Ian Lee、李文欽)氏(写真5)は、この展示デモについて、「このプロジェクトを推進するM-台湾計画は2009年までの計画であるが、計画当時に比べて光ファイバのコストが安くなったこと、また、一般家庭のユーザーからADSLよりもより高速なブロードバンドへの要求が高まってきたことから、いよいよ実現のフェーズに入ってきた」と、大きな期待を込めて語った。
さらに、李(リー)氏は「馬 英九総統は、このM-台湾計画の次に、2009年以降の計画として、i-台湾計画を立案している(iはintelligentを意味)」と次のプロジェクトが立案されていることを披露した。このi-台湾計画では、まず台北でのFTTHの普及率を高め、WiMAXと連携させて、当面家庭では100Mbps、屋外では10Mbps以上のブロードバンド環境を実現する計画である。李(リー)氏は「2年以内の2010年頃には80%くらいの普及率にもっていきたい」と抱負を語った。光ファイバの敷設工事は2009年からスタートしスピードを上げて全国展開させ、2年以内には完成させる計画となっている。
≪3≫台湾政府(経済部)が推進する光ファイバとWiMAXによる新世代ブロードバンド
前出の写真3に示したようにパビリオンの中央には、FTTHを実現する光ファイバ・ネットワークのインフラのイメージが展示された。実際に、各家庭につながる下水道溝(台湾ではかなり以前から整備されている)を利用して、テンション・ガイド工法と言う方式で光ファイバを敷設するデモも行われた。このテンション・ガイド工法は、1980年代に日本で開発された工法である。
〔1〕アルカテル・ルーセントやZyXEL、TECOMなどが協力
今回のパビリオンにおける光ファイバとWiMAXの連携によるデモは、アルカテル・ルーセントの協力を得て、局側にG-PON(Gigabit PON)方式のOLT(Optical Line Terminal、局側の光回線終端装置)を配置し、家庭側にはZyXELやTECOMなどから提供されたONT(Optical Network Terminal 、ユーザー側の光加入者線終端装置)が設置されて行われた。台湾のブロードバンドは、現在ADSLが中心(普及率68%)で、各家庭までの光ファイバは敷設されていないため、2009年から本格的に光ファイバを敷設しFTTHを実現する計画が推進されている。会場ではG-PON方式でデモが行われたが、まだ正式な決定ではなく日本などで採用されているGE-PON(Gigabit Ethernet PON)方式も検討中とのことであった。
〔2〕デモに使用されたWiMAX関連製品
また、前出の写真4に示したように、この光ネットワークと連携したWiMAXによるワイヤレス・ブロードバンドのデモは、台湾の先進的なWiMAX関連製品のベンダーであるZyXEL、TECOMなどの協力をえて行われた。実際のデモでは、写真4に見るように、両社からWiMAX用の小型基地局(BS:Base Station)やWiMAXCPE、PC用のWiMAX Express Card(写真6)やWiMAX USB Dongle(写真7)、監視用のSIPベースのネットワーク・カメラ(SIP Cam、写真8)などが提供された。
写真4に展示されている例えばTECOM社のWiMAX用のBS(Base Station、小型基地局。WM5071)は、IEEE 802.16e-2005に準拠した製品で、2.5GHz帯/3.5GHz帯の周波数帯に対応し、スケーラブルOFDMA(SOFDMA)を採用した、10MHz幅のTDD(時分割複信)方式の基地局となっている。
一方、これらのブロードバンド環境によって実現される新しいライフ・スタイルのイメージなども紹介され、来場者にアピールした。具体的には、公園で撮影した子供の写真を友達や家族に送って共有したり、WiMAX対応ワイヤレス・カメラ(SIP Cam)による24時間監視、家庭におけるIP電話やIPTV (VoDなども含む。写真9)をはじめ、ゲームなどのエンターテインメント、遠距離学習などのデモが行われた。
≪4≫世界各国のWiMAXへの投資状況と台湾のWiMAX機器メーカー
また、同パビリオンでは、台湾経済部(MOEA)がまとめた「Discover the WiMAX in Taiwan」というWiMAXの市場分析や台湾のWiMAX産業を紹介した、小冊子が配布された。その中から参考までに、米国、ロシア、台湾、韓国、日本、ブラジル、インドなど世界各国のWiMAXへの投資状況(2006年〜2010年)を表2に、台湾におけるWiMAX機器の開発・メーカーを表3に紹介する。
表2、表3からも、WiMAXが国際的な広がりをもって、普及し始めていること、WiMAX関連製品の開発・メーカーが急速に増えていることがわかる。
最後に李(リー)氏は、「WiMAXは、国際的にもワイヤレス・ブロードバンドの地位を確立し、認知されつつある。私たちはこのプロジェクトをさらに発展させ、M-台湾計画からi-台湾計画に移行する過程で、台湾がWiMAX関連機器の国際的な生産拠点になり、世界に貢献できるように、ビジネスを展開していきたい」と締めくくった。
——つづく——