≪1≫ユーザーに意識させないマルチモード時代へ
■ 前回は、御社のHSPA+(21Mbps)のサービスの概要からDC-HSDPA/LTEを展望したイー・モバイルのロードマップを説明していただきました。LTEのサービス開始までに、HSPA+やDC-HSDPAなどの段階的なサービスも予定されていて、いろいろなサービスが混在する(マルチモード・サービス)環境となりますね。
諸橋 そうですね、そこで、まず大事なことは、お客様(ユーザー)に、そのようなサービスの追加、切り替えを認識させないようにしないといけません。お客様は、いちいち手動でモードを変えて通信するなんて不便なことはしないわけですから。基本的には、お客様の端末が存在している通信エリア(セル)の中で、お客様にとって最適なシステム、すなわち最適というのはユーザー・ニーズと端末の機能に合ったシステムを利用して、そこで通信することが基本になってくるのです。このように、マルチモードというのは、モードを自動的に切り替え、お客様にモードを意識させないことが前提となるのです。
諸橋知雄氏
〔イー・モバイル(株)
次世代モバイルネットワーク
企画室室長〕
例えば、前回(第1回)申し上げましたように、国際的にみても、GSMとW-CDMAの両方に対応したマルチモードの端末というのは、たくさんありますが、その場合、GSMで話している(通信している)のかW-CDMAで話しているのかは、はっきりいってお客様にはわからない(区別できない)ようになっています。お客様からすれば、音声(電話)を使いたいときに一番都合のいいシステム(それがGSMであろうがW-CDMAであろうがかまわない)をつかまえて、通信(通話)できればよいのです。これはデータ通信についても同じことです。
■ ここで3GPP規格のことをちょっとお聞きしたいのですが、いわゆるHSDPAの下りの最大の伝送速度は規格上は14Mbpsとなっています。しかし、現在の日本のサービスは7.2Mbpsとなっています。そこに21MbpsのHSPA+のサービスが提供されるようになったので、これはもう7.2Mbpsというところで打ちどめ(14Mbpsのサービスはない)ということなのでしょうか。
諸橋 そうですね。イー・モバイルとしては、21Mbpsサービスを早い段階で提供するため、14Mbpsサービスの提供は現在予定していません。しかし、世界レベルで見ますと、将来的に14Mbpsサービスを提供する通信事業者が登場する可能性はあります。
≪2≫HSPA+(64QAM)にMIMOを加えて42Mbpsを実現
■ 現在日本では、7.2Mbpsのサービスの次にはHSPA+による21Mbpsのサービスが出てきました。前回お話いただいたように、HSPA+の変調方式は64QAMとなっています。前回のお話では、これをさらに進化・発展させて高速化するためには、それにMIMO(マルチアンテナ技術)を追加して、
〔HSPA+〕=〔64QAM〕+〔MIMO〕 |
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として、HSPA+(64QAM)の2倍の42Mbpsを実現する規格もあるという流れでしたね。
諸橋 そうです。日本におけるHSPA+の導入については、イー・モバイルなどが中心になって段階的な導入を提案しました。ややこしい話ですが、先ず、64QAMのみのHSPA+(フェーズ1)を提案し、これにMIMOを追加したHSPA+(フェーズ2)を提案しました。わざわざこのような段階的導入をしたのには理由があります。HSPA+も64QAMのみであれば現行W-CDMA設備のソフトウェアのアップグレードのみで簡易に対応できます。無線機設備を変更する必要がないということは、導入に関する制度整備も軽微です。したがって、制度検討に相応の時間がかかるMIMOを別検討とし、比較的簡易に実現可能な64QAMのみを先行して制度化するように働きかけました。結果として、総務省の情報通信審議会で、
(1)HSPA+(フェーズ1)=64QAMとしてまとめた時期と、
(2)HSPA+(フェーズ1)にMIMOを付加してHSPA+(フェーズ2)としてまとめた時期
とが、少しずれたのです。ですから、日本ではHSPA+は2つに分かれているように見えるのですが、実際はHSPA+という規定にはもともとMIMOまで含んでいる(前出の〔HSPA+〕=〔64QAM〕+〔MIMO〕)のです。
これ(前出の〔HSPA+〕=〔64QAM〕+〔MIMO〕)が、本来はHSPA+の規定なのですが、私たちイー・モバイルの場合は、その技術のうちMIMOを使用せず64QAMの部分だけを使って3.5世代の発展サービス、つまり21Mbpsサービスを提供するというような位置づけです。
■ すなわち2009年7月24日からイー・モバイルからサービスされたものは、64QAMだけを使った(MIMOを使用しない)サービスと言うわけですね。
諸橋 そうです。
≪3≫42MbpsはDC-HSDPAでも実現できる
■ すると、現在のサービスにいずれMIMOが追加され、42Mbpsへと高速化されるのですね。
諸橋 必ずしもそうではありません。そこが、前回(第1回)お話した分かれ目のところです。同じ42MbpsでもMIMOと言うアンテナ技術で高速化するか、DC-HSDPAという帯域を2倍(DC:Dual Cell)にして高速化するか、どっちにするか、分かれるのです。現段階では、DC-HSDPAの方が有力な技術であると考えています。
諸橋知雄氏
〔イー・モバイル(株)
次世代モバイルネットワーク
企画室室長〕
■ その理由は、例えばMIMOにすると、端末のアンテナ技術がむずしいとか、何か問題があるのでしょうか。
諸橋 端末側のこともありますが、設備側の変更のほうがインパクトが大きいのです。
■ 設備側というのは基地局のことですか。
諸橋 そうです。基地局のことです。もちろん、MIMOにすればMIMO対応の端末を作らなくてはならない、一方、MIMOに対応した基地局の設備投資もしなくていけないですね。この辺はたしかにおっしゃるとおりです。
■ そうすると、ちょっと整理しますと、現在のHSPAから、HSPA+のシステムに移行するために、どれぐらいの投資がいるものなのでしょうか。
諸橋 それは、基地局ごとに状況も違いますので、どのぐらいMIMOにするために投資が必要になるのかについては、一概には言えないのです。このあたりがシンプルではないからこそ、事業者は悩まなきゃいけないのです。ただ、基本的には、私たちとしては、現在の段階ではデュアル・セル方式のHSDPA(すなわちDC-HSDPA)が有力であるというように見ているということです。
■ それは、イー・モバイルとしては〔HSPA+〕=〔64QAM〕方式からDC-HSDPAに移行するほうが、〔HSPA+〕=〔64QAM〕+〔MIMO〕方式よりも技術が複雑ではないというか、シンプルであるとか、投資が少ないとか、そういうことなのでしょうか。
諸橋 1つのファクター(要因)だけではないのです。いろんなファクターを総合的に勘案して、
〔HSPA+〕=〔64QAM〕方式からDC-HSDPA方式への移行 |
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のほうが、私たちにとっては有効であるというように判断しているからなのです。その中には、当然設備投資も入ってきますし、端末のアベイラビリティ(技術的、価格的に利用可能な端末が開発されるか)なども入ってきます。いろんな点を考慮に入れたうえで、DC-HSDPAはイー・モバイルにとって、優位性の高い技術であると判断したわけです。
≪4≫DC-HSDPAの基本的な仕組みと特徴
■ すいません。ここで基本的なことを確認したいのですが、DC-HSDPAのデュアル・セル(DC)というのは、電波(帯域)を2本束ねるという話をよく聞くのです。例えば、5MHz幅のキャリアを2本合わせ(10MHz幅)て2倍のスピードをだすというイメージでしょうか。
諸橋 DC-HSDPAのDC(デュアル・セル)とは、マルチキャリア(複数のキャリア)を使う方式だと思っていただければよいと思います。ですから、DCという用語については間違える人が多いのですが、デュアル・キャリア(2つのキャリア)だと思っている人が多いのです。
■ 私もそう思っていました。それは間違えなのですか。
諸橋 DCとは、デュアル・キャリアではなくデュアル・セルです。なぜデュアル・セルと言うかというと、例えば基地局(セル)が2基(基地局A、B)あって、例えば端末が2つの基地局の中間にいて2つの基地局(セル)からの電波(キャリアA、B)を受信しているとしましょう。2つの基地局(セル)からのキャリアA、Bを受信しているので3GPPでは、この方式をデュアル・セルと呼んだ訳です。これは、もともと3GPPで2007年にCollaborative(協力)HSPA方式として提案された技術のコンセプトに基づきます。Collaborative HSPA方式では、複数のセル(マルチセル)から到来する電波や複数のキャリア(マルチキャリア)をできる限り集めて束ねて、高速化を実現しようとしました。ところが、この方式は3GPPの審議の中で、仕様化の対象として承認されませんでした。それは、端末が複雑になり過ぎるという理由からでした。しかし、同方式のコンセプトに基づくデュアル・セル(DC)という2セル(キャリア)だけ(例:キャリアA、B)、しかもそのキャリアは隣接するという条件であれば、比較的に単純化できるので、承認するということになって標準化されたのです。これについては、当社(イー・モバイル)もかなり一生懸命復活折衝をして、標準化を実現したのです。
諸橋知雄氏
〔イー・モバイル(株)
次世代モバイルネットワーク
企画室室長〕
■ 3GPPでも復活折衝というのがあるのですか。一度否決されたものをひっくり返すのですから、結構激しい闘いがあったのでしょうね。
諸橋 国際会議では、フルで否決されても、パーシャル(部分的)であれば承認されるということは珍しくありません。このような背景でデュアル・セル(DC)方式が承認されましたが、これを快く思われないLTEの早期導入を支持される方からは、デュアル・セル方式は邪道だからやめたほうがよいと、今でもよくいわれます(笑)。しかし、私としては邪道でも正道でも技術は何でも別に構わないのです。結局は、お客様に喜んでいただける安価な高速サービスを当社が迅速に提供することが最も大切なことです。
■ その復活折衝にはどのようなキャリアが賛同し、参加したのですか。
諸橋 そのときの共同寄書には、日本からは、イー・モバイルとソフトバンクモバイルが、海外ではOrange、Vodafone、Telefonicaなど世界でもトップ・クラスの携帯電話事業者が名前を連ねて協力、連携した成果として実現できました。
諸橋 デュアル・セル(DC)という用語は、そのような背景からデュアル・セルと言われるようになったのです。これを逆に端末の側からみてみましょう。図1は、1つの基地局を例に説明しています。まず図1の左側ですが、
(1)1つの基地局から送信される2つのキャリア、すなわちキャリアA(5MHz)とキャリアB(5MHz)を個々の端末が別々に受信する従来のシングル・キャリア方式(Single Carrier×2)
(2)キャリアA(5MHz)とキャリアB(5MHz)を1つの端末が同時に受信するデュアル・キャリア方式(Dual Carrier)
を示しますが、この(2)が一つの基地局にDC-HSDPAを適用した場合の仕組みです。
一方、図1の右側には、広帯域スケジューリングの仕組みを示しています。DC-HSDPAでは、2つのキャリア1、2のうち信号強度の強い(受信レベルの高い)ほうのキャリアに無線リソースを割り当てて高速化を実現する仕組みが適用されています。もう少し簡単に言うと、ユーザーが比較的少ない場合に、電波の状況に即したより良好な電波のキャリアだけをユーザーに割り当てれば、広帯域スケジューリングで利得が得られるということです。逆にユーザーが多い場合は、両キャリアとも常に利用している状況が続くので、あまり利得はありません。
■ つまり、DC-HSDPAでは、1つの基地局からの2つのキャリアを1つの端末が同時に受信するということですね。
諸橋 そうです。2つの基地局からのキャリアを受信するのではなくて、1つの基地局から送信されるキャリアA、Bを受信する仕組みとして使いましょう、という話なのです。そうすると、端末は、ある1つの基地局との間の下り回線でキャリアA、キャリアBを両方同時に送受信するということになるわけです。これがデュアル・セルの本質的なところで(したがってマルチキャリア)、これが、私たちがDC-HSDPAでねらっている本当の姿なのです。
■ そうすると、非常に単純に考えると、1つの基地局から出ているいわゆる5MHz幅のキャリアを2本使って高速に通信するというイメージでしょうか。
諸橋 そういうことです。
■ 単純に2倍のスピードが出るということですね。
諸橋 基本的にはそのとおりです。ですから、先ほど〔HSPA+〕=〔64QAM〕これで21Mbpsの伝送速度が出ると申し上げましたね。この21Mbpsに〔DC〕を適用すれば、21Mbpsを2つ束ねることになるので、最大理論速度では42Mbps(=21Mbps×2)のスピードが出ることになるのです。一方、〔HSPA+〕=〔64QAM〕に〔MIMO〕を適用すると、これも、21MbpsをMIMOで2倍に高速できるので最大理論速度では42Mbps出るのです。ですから、どのようにして2倍のスピードにするかその方法は複数あるわけです。
■ そうすると、〔64QAM〕に〔MIMO〕を適用して42Mbpsを提供する方式というのは、日本ではサービスされないわけですか。
諸橋 それはわかりません。当社も含めて誰かがやる可能性はゼロとはいえません。
≪5≫LTEの特徴を簡単に整理する
■ ところで、LTEの特徴を簡単に整理するとどんな特徴があるのですか。
諸橋 図2と図3を見てください(編注1)。
簡単に整理しますと、
(1)LTEは、下りにマルチキャリア方式のOFDMという多重方式によって高速化を実現し、上りはSC-FDMA(Single Carrier Frequency Division Multiple Access)という端末の消費電力が少ない、シングルキャリア周波数分割多元接続方式を採用していること
(2)図2の下部に示すように、W-CDMA/HSPAで使用されていた基地局(NodeB)を、制御機能をコンパクトに集約した新しいアーキテクチャの基地局(eNodeB:evolved NodeB、発展型ノードB)を実現したこと
(編注1):詳しい解説は「ワイヤレス・ブロードバンド HSPA+/LTE/SAE教科書」(インプレスR&D刊)を参照してください。
さらに、図3に示すように、
(1)スケーラブルな(拡張性のある)周波数帯域幅の設定(前述した1.4MHz幅、3MHz幅、5MHz幅、10MHz幅、15MHz幅、20MHz幅という6つの選択肢)
(2)送受信データの低遅延の実現
(3)マルチアンテナ(最大4×4MIMOに対応。送信側4本、受信側4本のアンテナ)技術による高速化の実現したこと
などを挙げることができます。
≪6≫当初は、DC-HSDPAとLTEの伝送速度はほぼ同じ40Mbps超!
■ イー・モバイルでは、来年(2010年)9月以降DC-HSDPA/LTEのサービスを予定していますが、3ヵ月後の2009年12月にはNTTドコモが3.9世代のLTEのサービスを開始する予定となっていますね。この辺はどう見ておられますか。
諸橋 そうですね。他社がどのようなサービスを提供するかは別として、LTEの場合、現在W-CDMA使用している5MHz幅(FDD:上り5MHz幅/下り5MHz幅)の場合は、最大の伝送速度は40Mbps超ぐらいしか出ないのです。そうすると、LTEであってもDC-HSDPAとほとんど変わらないスピードなのです(表1)。
他社のサービスについては、詳しいことはわかりませんが、少なくともLTEの規定には、1.4MHz幅、3MHz幅、5MHz幅、10MHz幅、15MHz幅、20MHz幅という6つの選択肢(日本は5MHz幅、10MHz幅、15MHz幅、20MHz幅の4つから選択)がある中で、もし5MHz幅でサービスを始めるとすると、5MHz幅の最大伝送速度は、DC-HSDPAと理論上はほぼ変わらないのです。
■ なるほど。そういうことですか。LTEと聞くと100Mbps出るのかと思ってしまいますが、100Mbps以上出るのは20MHz幅の場合の規定でしたね。ところで、今年2009年の6月に、総務省から3.9世代向けに周波数が配分(FDD方式)されましたが。
諸橋 はい、2009年6月10日「3.9世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定」が行われ、
(1)ソフトバンクモバイルに10MHz幅(1.5GHz帯)
(2)KDDI株式会社/沖縄セルラー電話に10MHz幅(1.5GHz帯)
(3)NTTドコモに15MHz幅(ただし使用制限付き)(1.5GHz帯)
(4)イー・モバイルに10MHz幅(1.7GHz帯)
が割り当てられました。
(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/14457.html)
■ この場合、例えば10MHz幅が割り当てられたということは、FDD(周波数分割複信)方式ですから、上りに10MHz幅、下りに10MHz幅と計20MHz幅が割り当てられたという意味なのでしょうか。
諸橋 その通りです。この周波数幅では3.9世代のLTEがもつ本来の実力(下り100Mbps超のサービス提供)を発揮するには不十分ですので、今後の割り当てに期待しています。
≪7≫DC-HSDPA(CDMA)とLTE(OFDM)の違い
■ なるほど、わかりました。ところでDC-HSDPAは基本的にCDMA方式を2波用いた方式であり、LTEはマルチキャリア(複数の搬送波)によるOFDM方式ですが、この両者の違いはどうなのでしょうか。設備的に、CDMAの世界の基地局からOFDMの基地局に変わるわけですよね。通信設備が相当変わるように見えるのですが。
諸橋 おっしゃる通り、CDMA方式とOFDM方式ではそのプラットホームは、まったく別のものです。基本的なシステムとして、両者はまったく異なるシステムですから、そういう意味では、ここで、大幅な転換(CDMA方式からOFDM方式への移行)が起こることになります。
■ このことは有線ブロードバンドの場合、電話網(電話線)をぎりぎりまで使いこなしてADSLを高速化し50Mbps超のスピードまで引っ張ってきましたが、その限界まできたため、現在は電話線(銅線)から光ファイバに移行していくことになりましたね。この傾向は、無線におけるCDMA方式(電話線のADSLに対応)からOFDM方式(光ファイバのFTTHに対応)に移行していくことに似ているような印象を持ちましたが。
諸橋 そうですね。CDMA方式を一区切りつけて、OFDM方式を使用したLTEというまったく新しいプラットホームが規定されましたが、これには3GPPにおける歴史的な標準化の経緯があるのです。
■ そうですか。どのような経緯でしょうか。
諸橋 LTEの技術は、現在3.9世代(3.9G)ともいわれますが、その原型となっている技術は第3世代(3G)の延長線で実現する技術としてではなく、第4世代(4G)という位置づけで1999から2000年ごろに提案されていました。
ところが、当時は、世界的にみても第4世代(4G)はまだ時期尚早という雰囲気があったため、第3世代の延長線、すなわち3.9世代(3.9G)となったと私は理解しています。
ですから、プラットホームはまったく別(CDMAとOFDMは別)になることは不思議ではありません。しかし、結果としてLTEの技術は、3GPPにおいて第3.9世代というように第3世代(3G)の仲間(ファミリー)の中の発展の一つとして位置づけられることになったのです。ですからLTEは、Long Term Evolution(長期的発展あるいは長期解)と言われるように、技術的な意味をもつ用語ではなく、4Gへ至る長期的な解決策と言う意味をもつ名称になっているのです。
■ なるほど。
諸橋 話は変わりますが、一時期、3G、3.5G、3.9G、4Gなどという多彩な用語が登場するようになったため、ITUのRA-07(Radiocommunication Assembly 2007、2007年無線通信総会)で用語の定義や整理が行われ、第4世代移動通信システム(4G)を「IMT-Advanced」と呼ぶことを正式に決定しました。また、従来の「IMT-2000」(3G)と「IMT-Advanced」(4G)をまとめて「IMT」(International Mobile Telecommunications、第3世代および第4世代移動通信システム)と総称するように決定されました。すなわち、第2世代とか第3世代、第3.9世代などという言い方はやめて、IMTファミリーというか、IMT(=IMT-2000+IMT-Advanced)という名前に変わったのです。そういう意味では、LTEはIMTファミリーの一つという位置づけになっているのです。
■ LTEを3.9世代と呼ぶのは日本だけと言うことですか。
諸橋 今でも慣習で呼ぶ人はいると思いますが、グローバルの用語としては3.9世代という言葉は現在では使われていないと思います。
■ ところで、イー・モバイルとしては、DC-HSDPA/LTEのサービスを提供することになるわけですね。DCやLTEの展開を、どのようにしていくのですか。
諸橋 端末は、前から申し上げているとおり、マルチモードの端末になっていくわけですから、そういう意味では過去の端末とバックワード・コンパチ(後方互換性)をとった端末を提供していきます。LTEを導入するにしても、最初からいきなりぱっと広範囲に展開できるわけではありません。需要が見込めるところから徐々に展開していくわけですから、LTEのエリアが広がるまでにはそれなりの時間がかかると思います。
--つづく--
バックナンバー
イー・モバイルのHSPA+/LTE戦略を聞く!(第1回)
プロフィール
諸橋 知雄(もろはし ともお)氏
現職:
イー・アクセス株式会社 新規事業開発室 室長
兼 イー・モバイル株式会社 次世代モバイルネットワーク企画室 室長
【略歴】
1994年 第二電電(株) (現KDDI)入社
1996年 米国カリフォルニア州立大学サンディエゴ校無線通信センタ出向
2001年 イー・アクセス(株) 入社
2003年 新規事業企画本部長。モバイルプロジェクトを立ち上げる。
2006年より現職。主にモバイル事業における新規技術の導入戦略の企画立案・技術開発を担当。
【主な活動】
LTE等の新規技術の実証ならびに開発、導入戦略の立案ならびに新規技術導入に係る制度化、標準化に携わる。