≪1≫バックボーンで100Gの需要が顕在化、データセンターにも可能性
司会(石田) ルータ開発陣が目標とする100Gポートのコストは最終的には「10GE×10の6割ぐらい」とのことですが、10GEまでに比べると控えめ(高め)ですね。40GEと100GE、どちらが、どこで利用されることになりそうですか?
佐宗 我々(ジュニパー)は技術の会社で、お客様のニーズに忠実です。コア・ルータに関しては、まず100Gへの要望が早かったですね、40Gも後々あるという話は出ていますが。他の製品でも既に性能的にはラインカード当たり100G双方向の処理が可能ですが、やっぱり製品化はコア・ルータから入りました。ジュニパーから見える市場とかニーズというのは、データセンター側ではなくコア側、特に通信事業者さんのポップ(PoP:Point of Presence、接続拠点)間接続のほうかな(図1)。エッジ・ルータにも展開する予定です(注:この後、エッジ・ルータMXシリーズへの新しいチップセット投入にあわせて100GEラインカードを2010年10月29日に報道発表)。
瀬戸 そうですね。やはり、キャリアコアが100Gの一番最初の目指す市場なのですよね。
司会(石田) でも、キャリアは、案外、コストに敏感ですよ。リンクとしての100Gへの要求はあっても、100GEへのリクワイアメント(要求)が今そんなにあるかどうか。最近、アメリカのベライゾンが国際会議等で盛んに発表しているのは、OTN(Optical Transport Network、光転送網)というレイヤ1を下でちゃんとつくり、ルータ間はなるべく直結させて、貴重なルータポートを単にトランジット(中継)として使うのはやめよう、という方向感です。
コア・ルータのホップ数はなるべく少なくして、帯域が10G単位に達していればメッシュに近い形でどんどん直結する、という主張です。むろん、40G/100Gのルータインタフェースのコストが下がれば状況は変わるでしょうが。
佐宗 そうなんですよ、ベライゾンは。でも、ちょうど我々が100GEインタフェースを発表するときには、そのベライゾンから、クオート(プレスリリースにおける引用を目的とした支持発言)をいただけています。
司会(石田) データセンターのほうがもっと逼迫している、ということはありませんか?
瀬戸 データセンターやクラウドの中の帯域が非常に伸びているというのは、トレンドとしては正しいと思うのですが、ただ、現実、足元としては、10GのNIC(通信制御ボード)は思ったより普及していないのではないかなという印象です。これから、サーバに10G NICがどんどんと使われていくようになると思っているのですが、そのためには、10Gを必要とするアプリケーションが立ち上がってくることが必要と思います。例えば、グーグルが、10GEで大量のサーバをつないでいるのは有名な話ですが、あれは検索のためのファイルシステム、すなわちストレージですよね。グーグルのあのでかいファイルシステムをやるために、10Gで直接接続する必要があった。
これは、いわゆるストレージI/O統合(ストレージ接続のためのI/Oをイーサネットに統合すること)という流れの一つですが、ただ、それは一般にはまださほど普及していない。iSCSI(アイスカジー。Internet Small Computer System Interface)とかFCoE(ファイバーチャネル・オーバー・イーサ)などのストレージI/O統合のアプリケーションが立ち上がってくると、データセンターの中が本当にオール10Gになっていくように思っています。また、仮想化(サーバの仮想マシン化)も大きなトリガーになると思います。一般的なコンピューティングだけでしたら、やはり1Gが今のところメインで使われ続けるのではないかと考えています。
司会(石田) それはおっしゃるとおりです。それでも「100Gを一番最初に欲しがるのはデータセンターである」可能性は捨て切れない、と思っています。サーバ端末が1Gでも、今は並列度がすさまじくあがっています。ラックトップのイーサスイッチからデータセンター内でアグリゲーション(集約)していく、そこにはすさまじい数の10Gリンクが必要で、すごく複雑なネットワークにしていかなきゃいけない。実際に困っている人たちがいて、多少コストがかかってでも何とかできれば、という動機はありそうです(図2)。
佐宗 最近、40Gとか100Gを欲しがるデータセンターって、実はデータセンターがネットワークの機能を持ってきている。つまり、AS(Autonomous System、自律システム。BGPにおけるAS Number。つまり独立したISPとしてインターネットトラフィックを運搬しているシステム)を持って、自分たちでバックボーンを運用しているのです。特に大手のコンテンツプロバイダーやデータセンターなど、複数拠点を連携させているところは。多分そこのところで、40G/100Gというのはあるでしょう。そういう意味で、バックボーンやデータセンターなどのように、逼迫している部分は結構共通しているところもあるかもしれないなと思います。
司会(石田) なるほど。データセンターにも導入の機運はありそうですね。
≪2≫「40Gbpsと100Gbps」、イーサネットの史上で初となる異速度の同時標準化
司会(石田) ところで、今回のように、40Gと100Gという異なる速度の標準化を同時に進めるのは、イーサネット史上初めてのことです。
今までGEや10GEでは、最初もちろんスイッチ間の接続用でしたが、その後は端末にも使われています。それが、今回、イーサネット史上初めて、異なる速度を同時に標準化します。100GEは、トラフィックがアグリゲーション(集約)された部分、すなわちスイッチとスイッチを結ぶために標準化されます。一方の40GEは、端末とスイッチを結ぶためです。端末インタフェースが100Gを必要とするのは遠い将来なので、今までに例のない4倍の規格(今までは10Mbps ⇒ 100Mbps ⇒ 1Gbpsというように各10倍の規格)も作ることになりました(図3)。
このように、40GEと100GEというように2つの速度に分かれたことを、イーサの機器シリーズを開発されてきたご経験から、瀬戸さんは、どのようにごらんになっていますか。
Modified from IEEE802.3 HSSG Jan ‘07 http://www.ieee802.org/3/hssg/public/jan07/muller_01_0107.pdf
瀬戸 正直、現時点ではまだわかりません。どうなるのかなと考えています。100Gの技術的な難易度を考えると、100Gだけでは市場が限定されるので、40Gも適材適所で使われるのではないかと今は考えています。
テクノロジーとして見て、やはり100Gというのは本当に難易度の高い技術だと思っています。これはコストにも跳ね返ってきます。例えば、IEEE802.3WGでの議論でも、40Gの光トランシーバは、当初から10Gの4倍から5倍のコストでできると言われていますが、100Gのトランシーバは、10Gの50倍のコストになると言われています。
司会(石田) 発売当初は、ということですね。
瀬戸 はい。それが何年かたって落ちてきて、最後は10Gの10倍未満になるのだと思うのですが、それまでの間は、ちょっと割高なテクノロジーになってしまうと、やはりそこは40Gで埋めていこうというような考えも出てくるのではないかと考えています。
佐宗 確かに、我々も先に100Gをやりましたけど、40Gを載せると言ったら、どの辺の製品群に果たして載せるべきなのかというのは、ちょっと悩みますね。コア・ルータなのか、エッジ・ルータなのか、それともスイッチなのか。
瀬戸 コア・ルータ製品で既にOC768(40G SONET)インタフェースを持つベンダにとっては、40GEでポート単価を下げるよりも「100GEを先にやる」というのは、正しい戦略だと思います。
ただ、OC768製品を持っていない会社であれば、まずは40GE製品を開発して、比較的リーズナブルな値段で提供してから、技術的にこなれてきたところで100GE製品を提供するというパスもあると思います。
司会(石田) もともと40GE/100GEは、標準化でも白熱した議論になって、やっぱりジュニパーさんやシスコさんなど、OC768製品をお持ちのルータベンダは「100GEオンリー」を当初かなり強く主張されましたね。
一方、40GEを最初に言い出したのは、SUN(サン・マイクロシステムズ)です。サーバベンダーという立場で、いわゆる端末のインタフェースが100GEを必要とするのは、ものすごく先だと。サーバ端末の立場では、10GEの次に100GEまで全然ないのは困る。彼らの感覚は「もともとイーサネットは端末のためのインタフェースじゃないか」です。それがなくて100GEだけ先にできてしまうのは困る、そんな想いを個人的には感じました。
佐宗 なるほどね。確かにそうかもしれない。
司会(石田) SUNの主張に賛成したのが、インテルやブロードコムなどのチップベンダーです。データセンターで統合を進めるには、10GEのパイプが飽和したときに、その次に闘えるインタフェースが欲しい。それがないとインフィニバンド(InfiniBand)やファイバーチャネルなどのように、速度が2倍刻みで着実に10G以上のインタフェースを出してくる相手から市場を取れない。
また、NTTや北米のキャリアは、バックボーンを40Gにアップブレードしているので「整合するインタフェースはあったほうがよい」という面もあります。「100GEオンリー」を主張する装置ベンダに対して、サーバベンダー/チップベンダー/キャリアが組んで、白熱した議論になった。結局「両方ともやりましょう」と装置ベンダが歩み寄ったのです。
瀬戸 インテルやブロードコムは、NICチップのものすごい大手ベンダですよね。彼らからしても、100GE NICを持ったサーバというのがすぐに普及するというのは想像が難しかったのではないかと思います。
佐宗 確かに、ちょっと笑っちゃいますね。(笑)
瀬戸 ただ、本当にストレージI/Oの統合ということになってくると、どんどんとイーサネットのエッジスイッチに10GEのストレージやサーバが接続されてくる。すると、それらのエッジスイッチのアグリゲーション(集約)用途に40Gのアップリンクが必要になってくる。また、場合によっては、メインのストレージサーバなどでは、40GのNICなんかも必要になるかもしれない。そういったデータセンターの広がりを考えると「やっぱり40Gは必要だ」という判断になったのではないかなと思っています。
当初40Gは、バックプレーン 1mと、それからカッパー(銅線)10m(その後7mに改訂)、パラレルのマルチモードファイバ100m、この3種類だけを規定するはずでした。「中・長距離の光インタフェースは規定しない」ということで、40Gが標準に入ることになったのには「データセンターに特化させる」という合意があったのだと思っています。
司会(石田) ところが、いざ40Gも同時に標準化する方針が固まると、シスコさんが手のひらを返したように「40Gでもシングルモードファイバ10kmが要る」と言い出した。これには驚きました、キャリアとしては大歓迎でしたが。
瀬戸 私の解釈は、シスコさんもいろいろ検討されていて、やはり100Gというのは敷居の高い技術だから、40Gをリーズナブルに提供できるようなパスを、データセンターだけじゃなくて、キャリアアプリケーションについても用意しておく必要があるとお考えになったのではないかと思っています。要は、「100G」って口で言うのは簡単ですが、いざ、製品化しようと検討を進めると、技術のことやコストのことでいろいろと課題が出てきて「じゃあやっぱり40Gも生かしたい」というふうに検討が進んだことによって「変節」されたんじゃないかと思います。そこを、きちんと素早く会社として方針転換できるあたりが、やはりシスコさんの偉いところだなと思いました。その議論の中でシスコさんが、100Gの光トランシーバは10Gの40~50倍ぐらいのコストに最初はなるだろうという見通しをプレゼンされていたので、100Gというのはやはり、当初はコストの高い技術になることを実感しました。
佐宗 40GEと100GE、いろんな議論がされているんですね――僕はIEEEに参加してなかったんで、今、うーん、なるほどと聞いていたんですけど、プレーヤーが拡大しているんですね。
司会(石田) はい。2002年に10GEを標準化して以降、IEEEのイーサネット標準化は「市場拡大」を追及してきました。アクセス、広域網、そして今はデータセンターやストレージ向けがホットな話題です(連載第1回 図3参照)。
佐宗 そうか、シスコさんはネクサス〔データセンター向け(大型)スイッチ〕がありますからね。
司会(石田) そうなんです。シスコさんは、最近、データセンター向けに「スイッチ機能の仮想化」を活発に提案されています。
佐宗 シスコの内部には「WANのシスコ」と「SANのシスコ」あって、CRS-1は100Gオンリーが良くても、ネクサス(シスコのデータセンタースイッチ)は40Gシングルモードが欲しいのかもしれません。我々(ジュニパー)はそこの製品(データセンタースイッチ)が今ないのです。
司会(石田) なるほど。
佐宗 思ったのは、確かに、市場(適応領域)がすごく拡大しています。その市場が拡大してきた中で、じゃあ次のイーサネットの議論をどうしようというと、やっぱりそういう2つの標準がひょっとしたらあるのかな。
司会(石田) 「妥協」という見方もありますが「正しい選択」という見方も一面ではありうるということですね。
佐宗 だと思いますね。それぞれの人が、それぞれの立場と主張があって、市場を牽引していくという責務もあるので、そういった点では「いい形で落ち着いたのかな」と思いながら今までの話を聞きました。
--第3回につづく--
バックナンバー
<座談会>大詰めを迎えた「40Gbps/100Gbpsイーサネットを語る」
座談会メンバー各氏のプロフィール
石田 修(いしだおさむ)氏
現職:
日本電信電話(株)未来ねっと研究所 グループリーダ
【略歴】
1988年:日本電信電話(株)に入社、コヒーレント/WDM光伝送システムの研究開発に従事
2000年:同社 未来ねっと研究所にて Ethernet伝送技術の研究開発に従事
2002年:同所 企画担当・総括 担当部長
2005年より現職(同所 ネットワーキング方式研究グループ リーダ)、IEICEおよびIEEE会員、802.3 WG投票メンバー
電子情報通信学会 光通信システム研究専門委員会(OCS)幹事(2007-2009)
瀬戸 康一郎(せとこういちろう)氏
現職:
日立電線(株)情報システム事業部ネットワーク開発部部長
【略歴】
1988年:日立電線(株)に入社
1989年:(株)日立製作所システム開発研究所にて1年間研修
996年:ヒタチケーブルアメリカ サンノゼ事務所に駐在
2000年:日立電線(株)情報システム事業本部にてネットワーク関連製品開発に従事
2008年、光アクセス網向けイーサネット国際標準化への貢献により情報通信技術委員会(TTC)会長賞受賞
2007年より現職(ネットワーク開発部 部長)IEEE会員、IEEE 802.1 WG投票メンバー
佐宗 大介(さそうだいすけ)氏
現職:
ジュニパーネットワークス(株)マーケティングマネージャ
【略歴】
大学院修士課程終了後、テレコム市場に一貫して従事。国内外通信事業者で、エンジニア/マーケティング職、携帯コンテンツ事業者、外資コンサルティング会社を経て、2006年より現職。主に、日本、アジアにおけるサービスプロバイダー向けソリューションの開発・展開を担当
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