≪1≫スマートグリッド時代のオフィスビルの新モデルの誕生
大塚商会が、今回、民間企業としては世界で初めて導入した、スマートグリッド用新標準プロトコル「IEEE 1888」(FIAP)を用いた、電力「見せる化」システム(IEEE 1888システム)は、2011年6月上旬から本社ビルで構築が開始され、1カ月半後の同年7月20日から運用が開始された(図1)。
同本社ビルには、すでに竣工時の2003年に、ビルエネルギー管理システム(BEMS:Building Energy Management System)が導入されていたこともあり、短期間にIEEE 1888システムを構築することができた。その投資金額は約3000万円であった。同「見せる化」システムは、企業の業務効率を落とさずに節電できるシステムとあって、スマートグリッド時代の新しいオフィスビルのモデルのひとつとして大きな注目を集めている。
なお、9月14日の記者会見には、同システムを推進してきた、大塚商会 執行役員 プロダクトプロモーション部長 後藤和彦氏と、同ODSプロモーション部課長代理の北堀利明氏の両氏が出席し、説明が行われた。
≪2≫環境に配慮し、省エネ・節電に意欲的に取り組む
後藤 和彦氏
(大塚商会 執行役員)
大塚商会の先進的な省エネ・節電戦略をアピール
〔1〕全社25サイトでISO 14001を取得
大塚商会(表1)は、従来から環境に配慮した活動や、省エネルギー・節電を意識した企業活動を積極的に展開し、すでに2000年には全社の主要な事業所14サイトで、国際標準の環境マネジメントシステム規格(ISO 14001)を取得。また、2003年1月に東京・飯田橋に竣工した本社ビルでも、竣工と同時にISO 14001を取得し、当時においても屋上の緑化や、照明制御、空調管理など最新技術を導入し、先進的な省エネビルとして注目を集めた。
さらに、同ビルの1階のエントランスをはじめ、各大会議室にもLEDを導入し、全社挙げて省エネに取り組んでおり、2010年には、大規模事業所において大幅なCO2を削減するなどの成果が認められ、東京都のトップレベル事業所としても認定された。その後も引き続き取り組みが行われ、現在では、全社25サイトでISO 14001を取得している。
項 目 | 内 容 |
---|---|
社名 | 株式会社大塚商会(OTSUKA CORPORATION) |
創業 | 1961年7月17日(1961年12月13日、株式会社として登記) |
代表取締役社長 | 大塚 裕司 (おおつか ゆうじ) |
本社所在地 | 〒102-8573 東京都千代田区飯田橋2-18-4(電話 03-3264-7111) (本社ビル:2003年に竣工) |
資本金 | 104億円 |
従業員数 | 8,240名(連結、2010年12月末) |
売上高 | 4635億円(連結、2010年12月) |
主な事業 | 「システムインテグレーション事業」と「サービス&サポート事業」 |
〔2〕東日本大震災以降にIEEE 1888システムを構築
とくに、2011年3月11日の東日本大震災以降は、政府からの節電の要請等もあり、2003年の竣工時に導入した、最新のBEMS(Building Energy Management System、ビルエネルギー管理システム。NEC製)に加えて、新しく国際標準化されたスマートグリッド用プロトコル「IEEE 1888(表2)」(=FIAP)に注目し、これによるシステムを導入し、さらに節電・省エネを推進してきた。
このIEEE 1888システムは、2008年からスタートした、東大グリーンICT プロジェクト(GUTP:Green University of Tokyo Project、代表:江崎浩 東京大学教授)が、東京大学工学部2号館で3年にわたって実証実験されたシステムであり、民間企業ではIEEE 1888プロトコルを導入した世界初のシステムとして注目を集めている。
項 目 | 内 容 |
---|---|
正式プロトコル名 | IEEE 1888-2011(UGCCnet)(注1) |
標準化の経緯 | (1)IEEE P1888ワーキンググループで標準化されたスマートグリッド用国際標準プロトコル (2)東大グリーンICTプロジェクト(GUTP、注2)が開発したFIAP(設備情報アクセス・プロトコル、注3)をベースに、中国と共同でIEEE(米国電子電気学会)に提案(2010年6月)し、2011年2月に標準化されたプロトコル。 |
IIEEE 1888の特徴 | スマートグリッド向けに、IP上で動作するアプリケーションプロトコル(レイヤ7プロトコル)。IEEE 1888規格は、UGCCNetという技術を使用して、地域やビルの電力を一括して管理することが可能。 |
IEEE 1888の機能 | (1)オフィスに導入されているセンサーや空調・照明設備等からの情報を送受信する各「フィールドバス」(ZigBeeやBACnet等)からのデータを、 (2)ゲートウェイ(相互接続装置)経由でデータベースやデータ蓄積装置(ストレージ)、アプリケーションユニットと相互接続して連携させ、 (3)これらのデータによって、システムの運用状況の診断や、電力・エネルギーの使用状況などの分析を行って制御し、「見える化」「見せる化」なども可能とするプロトコル |
注2.GUTP:Green University of Tokyo Project、東大グリーンICT プロジェクト。63組織(45企業18団体)が参加(2011年8月現在)
注3.FIAP:フィアップ。Facility Information Access Protocol、設備情報アクセス・プロトコル(=IEEE 1888)
≪3≫大塚商会における社内の環境実施体制
ここで、大塚商会の社内における環境実施体制を見てみると、図2に示すように、基本的に、
(1)経営層:社長・環境管理責任者
(2)環境管理担当層:環境管理室・本部プロジェクト
の2層(2レイヤ)構成となっている。環境管理室の下には、全社25サイトの各サイトが位置づけられ、各サイトごと、各フロアごとにECOリーダ―・ECO担当者が置かれ、個別の環境活動が実施されている。また、ISO 14001の認証を取得していないサイトでも、ECO管理担当者とECO担当者が選任され、環境活動が推進されている。
とくに、東日本大震災(3月11日)以降は、全社的に次のようなきめ細かい対策が講じられ、節電対策が取り組まれてきた。
(1)事務室内の節電:4階から12階事務室内の窓際照明、照明照度の低下、および廊下照明を日中消灯
(2)ギャラリーの節電:1階コンセプトギャラリー、および3階ソリューションギャラリーの日中消灯
(3)トイレの節電:4階から12階までのトイレの暖房便座、ジェットタオルの電源OFF
(4)その他の節電:1台エレベータ停止、ビル看板の消灯、その他エリアの照明間引き、社員食堂のパブ自粛等 ⇒ 通常時の電力使用量の80%程度に節電中
これらの他、本社ビルにおける空調運転の見直しや、パソコンをデスクトップPCからノートPCへ交換する等を行い、今年(2011年)の夏は、政府の15%の節電目標を大きく上回り、25%までコンスタントに節電を達成することに成功した。
≪4≫「見せる化」を実現したIEEE 1888システム導入の背景
北堀 利明氏
(大塚商会 ODSプロモーション部)
世界初のIEEE 1888システム構築をアピール
〔1〕総務・環境管理室からの要望
前述したように、2003年に竣工した本社ビルには、当時としては先進的なビルエネルギー管理システム(BEMS:Building Energy Management System)がすでに導入されていたが、総務・環境管理室などから、さらに進んだ、次のような強い要望が出されていた。
(1)計測データの自動収集、保存を行いたい。
(BEMSではデータはとれているが、部分的に手動の部分がありこれを自動化したい)
(2)リアルタイムに消費電力量を自動的に見える化したい。
(BEMSでは結果のみが報告されるが、今、何が起きているか、どのような状態かをリアルタイムに知りたい)
(3)従業員へ全社の電力使用量を告知することによって意識の向上を図りたい。
〔2〕『IEEE 1888システム』の導入を決定
そこで、現状のBEMSでは、中央監視センター(防災センター)しか把握できない電力の使用量を、従業員も把握できるように、電力可視化システムの導入を検討し、その結果『IEEE 1888システム』の導入を決断することになった。このシステムの導入によって、従業員各人が、電気を使用する諸設備の電力使用量を把握できるようになったため、これによって啓発されさらに電力の削減が可能となり、また、まだ見えていないムダを見つけ、改善できるようになるなど、大きな成果をあげてきている。
≪5≫導入した「見せる化システム」(IEEE 1888システム)の構成
〔1〕4つのブロックで構成
図3に、今回構築し、運用を開始した「見せる化システム」(IEEE 1888システム)の構成図を示す。基本的には、図3に示すように、次の4つの部分で構成されている。
(1)BEMSからのデータをCVSに吐き出す部分(NEC製BEMS)
(2)エネルギーモニターからのデータを取得する部分(パナソニック電工製エネルギーモニター)
(3)FIAP(IEEE 1888)ストレージにデータを蓄積する部分〔ユビテック製(社内イントラ公開用サーバ)〕
(4)FIAP(IEEE 1888)ストレージから見せる化データに変換する部分〔シムックス製(公開用サーバ)〕
G-PILOT:各拠点ごとに設置し、電力計測装置(モニター)から計測データの取得(各拠点ごとの電力計測データを取得)を可能とする装置(ユビテック製)。
G-SERVER:複数の拠点もインターネットを介して統合的に管理(複数拠点の統合管理)を可能とする装置(ユビテック製)。
CVS:Comma Separated Values、データをカンマ(",")で区切って並べたテキスト形式のファイル。データベースソフトや表計算ソフトなど、異なるアプリケーション間でデータを交換する際に利用される。
Butics:ビューティクス。Building total information and control system、建物の電力・照明・空調・防災・防犯等の各種設備を安全で効率的に運用できるよう、統合的に監視制御するシステム(NEC製)
Butics-NX:従来のButicsシリーズの操作性を継承し、BACnetに対応したモデル
BACnet:Building Automation and Control Networking protocol、ビル・オートメーション/制御用ネットワークプロトコル規格(非IP のレイヤ3~レイヤ7 プロトコル)。
ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)で策定されISO/IECで標準化された規格
〔2〕「見える化」と「見せる化」を実現する仕組み
図3の左側の黄色い点線で囲ったNEC製のBEMSは、本社ビル竣工時から導入されていたシステムで、ここから管理情報が毎日のように紙で出力されている状況であったが、このデータAをCSV(図3参照)の形で逐次吐き出すようにカスタマイズした。このデータAとは別に、個別に計りたい箇所、例えば社内の自動販売機や大会議室などは、どれくらい電力を消費しているかなどのデータBをピックアップし、パナソニック電工のエネルギーモニター(多回路モニター)で監視できるようにした。
このデータAとデータBの両方のデータを、一緒にしてG-PILOT(ユビテック製。MiniPC:ゲートウェイ)で収集し、その収集したデータを共通化(XML言語)してG-SERVERに蓄積(FIAPデータベース=IEEE 1888データベース)する。ここまでは、企業内のイントラネットである(「見える化」)ため、営業担当は外出先から見ることができない。
そこで大塚商会では、外出先からの「見せる化」を実現させるため、図3の右上に示すように、公開用サーバとして、シムックス(CiMX)製のFIAP(IEEE 1888)サーバを設置。
これをイントラのG-SERVERと連携させて、見せる化を実現することに成功した。すなわち、社員は、クラウド上に設置された公開用サーバ〔FIAP(IEEE 1888)サーバ〕にアクセスすれば、パソコンやiPad、Androidなどの端末(図4)から、本社の電力の使用状況などを見ることができる(見せる化)。
このように導入されたIEEE 1888システムは、「見える化」と「見せる化」がワンセットになっている画期的なシステムであるが、これがまさしく東京大学工学部2号館の実証実験でつくられたモデルである。これまでのBEMSでは、ビルを管理している管理者が見ている(「見える化」)だけで、社員への「見せる化」まで実現できなかったのである。
〔3〕社員に外部からリアルタイムで見せる化できる項目
それでは、社員は、外部からどのようなデータを見ることができるのだろうか。図5に示すように、具体的にリアルタイムで「見せる化」できる項目は、
(1)前年同日比の電力使用量(ビル全体)
(2)フロアごとの電力使用量
(3)項目ごとの電力構成比(空調・照明・OA)
等であり、その表示形式は、棒グラフや円グラフなどを用いて表示される。
〔4〕2011年真夏の消費電力量
また、図6に、「見せる化」の例として、2011年8月1日~31日までの、真夏の大塚商会本社ビル全体の電力使用量の推移を示している。
この図6からわかるように、気温が高かった
(1)8月9日~12日の東京の最高気温33~35度
(2)8月18日の東京の最高気温36.1度
のグラフに比べて、気温が低かった、
(3)8月22日の東京の最高気温22.9度
のグラフは、60%程度の電力消費であることがわかる。これから、電力使用量が気温に大きく左右されていることがわかる。
≪6≫IEEE 1888システムで新しいビジネスを展開
大塚商会は、このようなIEEE 1888システムの導入とその成功を背景に、今後、IEEE 1888システム関連の新しいビジネスを推進していく計画を打ち出している。一般企業のビルでは、すでにBEMSまで導入されているケースが多いため、今後、BEMSに追加する新しい「見せる化」部分のビジネスを販売ターゲットにしていく。
具体的には、パナソニック電工のエネルギーモニター(多回路モニター)をはじめ、ユビテックのG-SERVER、CiMXのFIAPサーバなど構成機器の販売、さらにシステム構築やコンサルテーションビジネスも展開していく。また、同社ではiPhone、iPad、Android端末なども販売しているため、これらも含めたトータルな幅広いビジネスを展開していく。
さらに、中小企業やテナントビルに入っている企業も使えるように、クラウドサービスも展開していく。これは、テナントビルに入っている企業は、自分のシステムでなく、システムを変更できないため、クラウド経由でIEEE 1888システムを利用できるようにするビジネスである。また、少ない投資で効果を上げられるよう、中小企業向けのターンキーシステムの販売も計画されており、新しいビジネス分野の開拓に期待が寄せられている。
≪7≫電力「見せる化」システムのデモンストレーション
記者会見の後、大塚商会本社ビル3階に設置されたショウルームで、無線のWi-Fi(IEEE 802.11n)を使用した環境で、電力「見せる化」のデモが行われた。ショウルームには、「ハロゲンタイプLED:22W」、「既存蛍光灯:40W」、「LED蛍光灯:28W」などが設置され、iPad画面に、各照明機器の電力消費の状況をリアルタイムに表示。また、遠隔のiPadのタッチスクリーンから、照明機器のON/OFF制御が可能であるなどのデモも行われた(写真1〜7)。
また、実際に同社10階にある総務部の電力の使用状況をリアルタイムに見せるデモなども行わるなど、次世代の節電型オフィスシステムの新しいモデルのイメージをアピールした。
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