[特別レポート]

米国アリゾナ州フェニックス市で開催されたSGIP主催『Grid Interop 2011』=注目を集めたIEEE 1888に関する東大の活用事例=

2011/12/16
(金)
SmartGridニューズレター編集部

米国スマートグリッドの一大イベントである「Grid Interop 2011」が、2011年12月5日(月)~8日(木)の4日間、米国アリゾナ州のフェニックス市で開催された。この会議は、米国の標準技術研究機関であるNIST(注1)が運営するSGIP(注2)によって年に一度開催されており、スマートグリッドに関係するステークホルダが一堂に会する場となっている。このGrid Interop 2011のB2G分科会において、東京大学の江崎浩教授(GUTP代表:東大グリーンICTプロジェクト代表)は、新スマートグリッド通信技術(プロトコル)「IEEE 1888」(2011年2月制定)が、東日本大地震後の、2011年夏の日本の電力逼迫(ひっぱく)問題に対し、どのように効果的に活躍したかを報告し、注目を集めた。この発表を通して、SGIPが策定を進めているスマートグリッドに関する技術標準のカタログ(CoS:Catalog of Standards)に、IEEE 1888が掲載される見通しとなった。

(注1)NIST:National Institute of Standards and Technology、米国立標準技術研究所
(注2)SGIP:Smart Grid Interoperability Panel、スマートグリッド相互運用性パネル(2009年11月発足)。

米国アリゾナ州フェニックス市で開催されたSGIP主催『Grid Interop 2011』=注目を集めたIEEE 1888に関する東大の活用事例=
2011年12月6日(火)、米国アリゾナ州フェニックス市で開催されたSGIP主催「Grid Interop 2011」の会場風景

2011年12月6日(火)、米国アリゾナ州フェニックス市で開催されたSGIP主催「Grid Interop 2011」の会場風景

(上)Grid Interop 2011で挨拶するラルフ・スポーラー(Ralph Sporer)氏〔欧州合同ワーキンググループ議長(CEN, CENELEC, ETSI & the EC)〕
(下)満席となった初日のプレナリセッション(全体会議)における熱心な討論風景


≪1≫NISTが運営するSGIPの構成と各分科会の役割

米国・商務省の配下にある技術標準研究機関であるNISTは、産業技術に関する規格の選定や調達仕様の策定などを行っている組織(技術の標準化は行わない組織)であるが、スマートグリッドに関する各種規格を公正に扱いながら、産業界の調整を担う役目を果たしている。そのため、Grid Interop 2011で開催されたSGIPの分科会会合の多くが、NIST関係者の主導するものとなっている。

図1に、Grid Interop 2011を主催したSGIPの組織構成図を示すが、図1の右下に示す分科会(DEWG:Domain Expert Working Group)の中には、

(1)B2G:Building-to-Grid、ビルと電力網間の相互接続に関する専門家ワーキンググループ
(2)I2G:Industry-to-Grid、産業と電力網間を相互接続に関する専門家ワーキンググループ
(3)V2G:Vehicle-to-Grid、自動車と電力網間を相互接続に関する 専門家ワーキンググループ
(4)H2G:Home-to-Grid、家庭と電力網間を相互接続に関する専門家ワーキンググループ

などのように、それぞれの業界と電力網間の相互接続を検討する分科会がある。

一方、図1の右中央に示すPriority Action Plan Team(重点実行計画チーム)のように、18個のPAP(Priority Action Plan、重点実行計画、PAP0~PAP18。一部終了したPAPもある。詳細は、文末の用語解説を参照)があるが、このPAPは、スマートグリッドで必要と考えられるデータモデルなどを特定し、具体的に検討を進めている分科会である。


図1 SGIP(スマートグリッド相互運用性パネル)の組織構成(右下にB2Gがある)(クリックで拡大)

図1 SGIP(スマートグリッド相互運用性パネル)の組織構成(右下にB2Gがある)



≪2≫B2GとI2Gの合同セッションにおける江崎教授のIEEE 1888に関する実例報告

今回のGrid Interop 2011において東京大学の江崎教授は、図1に示す「B2G」(Building-to-Grid)と「I2G」(Industry-to-Grid)の合同セッションで、日本におけるIEEE 1888プロトコルに関する実例報告を行った。この報告時には、会場はほぼ満席となり、70人余の参加者で埋め尽くされた。

江崎教授は、写真1に示すように、Face Time(展示会)でも発表を行い、スマートグリッド・ステークホルダのトップレベルの人々と議論を行っている。


写真1 Face Time(展示会)での発表風景:江崎浩教授自らがテーブルに立ち、スマートグリッド・ステークホルダのトップレベルの人々と議論を行った。(クリックで拡大)

写真1 Face Time(展示会)での発表風景:江崎浩教授自らがテーブルに立ち、スマートグリッド・ステークホルダのトップレベルの人々と議論を行った。


その報告内容(タイトル)は、図2に示すように「IEEE 1888を用いた設備管理と制御に関するフレームワーク」であった。

具体的には、図3に示すIEEE 1888で構築されるシステムのアーキテクチャを示しながら、東日本大震災直後の2011年夏における、厳しい電力事情の中で運用された、東京大学工学部2号館のIEEE 1888システムを紹介した。


図2 江崎教授の報告内容:「IEEE 1888を用いた設備管理と制御に関するフレームワーク」(クリックで拡大)

図2 江崎教授の報告内容:「IEEE 1888を用いた設備管理と制御に関するフレームワーク」


図3 IEEE 1888で構築されるシステムのアーキテクチャ(クリックで拡大)

図3 IEEE 1888で構築されるシステムのアーキテクチャ


さらに、東京大学工学部2号館のIEEE 1888システムを導入した成果として、図4に示す4つの成果をアピールした。

(1)エネルギーに対するリスクマネージメントが可能になったこと

(2)パフォーマンスが向上したこと
 ①ピーク電力値を平均で44%削減でき、総電力量を31%削減できたこと
 ②電気代の削減により、2年で投資回収できること(RoI:Return of Investment)
 ③サーバの仮想化の場合は、0.5年で投資回収できること

(3)システムの持続的発展が可能となったこと

 ①オープンアーキテクチャであること
 ②マルチベンダでシステムが構築できること(東大では10社以上のシステムが相互に接続されて運用されていること)。

(4)新しいビジネスを開発できること


図4 東京大学工学部2号館における4つの成果(2011年夏)(クリックで拡大)

図4 東京大学工学部2号館における4つの成果(2011年夏)


≪3≫IEEE 1888の規格の特徴とリスクマネージメントの重要性

IEEE 1888の規格は、中国と日本が協力して積極的に行い、2011年2月に標準化されたアプリケーション・プロトコルである。このIEEE 1888プロトコルは、HTTPベースのSOAP(注3)/XML通信を基本としており、これまでの設備ネットワークではあまり行われていなかった情報システム(データベースを含む)との連携性が非常によくなっている規格である。一方で、既存の設備ネットワーク系の規格と、整合性を保った形で共存することが可能であり、多様な個々の設備ネットワークを、情報システム側で平等に扱うことができるようになる。

(注3)SOAP:Simple Object Access Protocol、HTTPなどをベースとした、他のコンピュータにあるデータやサービスを呼び出すためのプロトコル。

この夏(2011年夏)における日本の厳しい電力事情に対し、図5に示すように、東京大学では5つのキャンパス(本郷・駒場1・駒場2・柏・白金)の電力消費量の「リアルタイム見える化(キャンパス内のエリア分割レベルと個別建物レベル)」を実施したが、その際にIEEE 1888の技術が用いられた。もともと、キャンパスごとに異なる通信仕様の機器が導入されていたが、IEEE 1888を適用したことによって、これらのマルチベンダ機器を統一的に接続し、見える化を実現することができた。その結果として、夏場の消費電力の運用改善に大きく貢献することになった。

東京大学は、東京都の中でもトップクラスの電力需要家として有名である。今回構築された東大のIEEE 1888システムでは、具体的に、ピーク電力の削減やトータルの電力消費量を削減することができた。同時に、電力システムの運用は、企業・組織のリスクマネージメントの観点からも非常に重要となってきていることが実証された。今回の東大の事例は、それをよく物語っているが、NISTにおいても、リスクマネージメントのような観点も含めて、スマートグリッドというものを考えていく必要がある。


図5 東京大学の5キャンパスを統合するIEEE 1888を使った電力見える化システム(クリックで拡大)

図5 東京大学の5キャンパスを統合するIEEE 1888を使った電力見える化システム

ベンダーごとに異なる通信仕様をゲートウェイ(GW)により吸収し、電力の情報を統一的に扱えるようにしている。また、その電力情報は、データ蓄積装置(Storage)や、見える化アプリケーション(App)で扱っているが、これらはクラウド的に運用されている。


なお、技術の平等な開発機会と普及という観点から、B2G(Building-to-Grid)分科会のチェアであるNISTのデイビッド・ホルムバーグ(David Holmberg)氏から、オープンソースや、テスト・認証プログラム、ソフトウェア開発キット(SDK)についての質問があった。これに対し、江崎教授は、「現在、そのあたりの準備はまさに進めていて、数ヵ月後には整理したものを出せると思う」と回答した。


≪4≫IEEE 1888標準をSGIP「CoS」(技術標準のカタログ)に掲載の方向へ

今回、Grid Interop 2011へ参加したことは、SGIPのGovernance Board(進行役)を含む多くのスマートグリッド関係者と、直接顔を合わせながら議論を進めることができ、大きな成果をあげることができた。これらを通して、IEEE 1888標準への理解が深まり、今後、SGIPが策定を進めている、スマートグリッドに関する技術標準のカタログ(CoS:Catalog of Standards)に、IEEE 1888が掲載される方向で、話が進展している。

このCoSは、スマートグリッドを構築するうえで必要と思われる規格を、NISTが主導で選択し掲載するカタログであり、ここに掲載されることは、IEEE 1888を普及させるうえで大きな力となるものである。

そこで参考までに、SGIPが策定を進めているスマートグリッドに関する技術標準のカタログ(CoS)の構成を図6に、スマートグリッドに関する新技術標準をCoSに追加する場合の基本プロセスを図7に示す。


図6 スマートグリッドに関する技術標準のカタログの構成(クリックで拡大)

図6 スマートグリッドに関する技術標準のカタログの構成


図7 スマートグリッドに関する新技術標準をCoSに追加する場合の基本プロセス(クリックで拡大)

図7 スマートグリッドに関する新技術標準をCoSに追加する場合の基本プロセス


※ スマートグリッド用語解説

B2G DEWG ... Building-to-Grid Domain Expert Working Group
BnP DEWG ... Business and Policy Domain Expert Working Group
BOP DEWG ... Bylaws and Operation Practices Working Group
CMEWG ...... Communication, Marketing and Education Working Group
CSWG ....... Cyber Security Working Group
DEWG ....... Domain Expert Working Group
DRGS DEWG .. Distributed Renewables, Generation, and Storage Domain Expert Working Group
EMIIWG ..... Electromagnetic Interoperability Issues Working Group
EV Fast Charge .. Electric Vehicle Fast Charge,
GBITF ...... Governing Board International Task Force
GWAC ....... GridWise Architecture Council
H2G DEWG ... Home-to-Grid Domain Expert Working Group
I2G DEWG ... Industry-to-Grid Domain Expert Working Group
IPRWG ...... Intellectual Property Rights Working Group
PAP00...... Meter Upgradability Standard(終了)
PAP01...... Role of IP in the Smart Grid(終了)
PAP02 ...... Priority Action Plan: Wireless Communications for the Smart Grid
PAP03 ...... Priority Action Plan: Common Price Communication Model
PAP06 ...... Priority Action Plan: Common Semantic Model for Meter Data Types
PAP07 ...... Priority Action Plan: Electric Storage Interconnection Guidelines
PAP08 ...... Priority Action Plan: CIM for Distribution Grid Management
PAP09 ...... Priority Action Plan: Standard DR and DER Signals
PAP12 ...... Priority Action Plan: Mapping IEEE 1815 (DNP3) to IEC 61850 Objects
PAP13 ...... Priority Action Plan: Harmonization of IEEE C37.118 with IEC 61850 and Precision Time Synchronization
PAP14 ...... Priority Action Plan: Transmission and Distribution Power Systems Model Mapping
PAP15 ...... Priority Action Plan: Harmonize Power Line Carrier Standards for Appliance Communications in the Home
PAP16 ...... Priority Action Plan: Wind Plant Communications
PAP17 ...... Priority Action Plan: Facility Smart Grid Information Standard
PAP18 ...... Priority Action Plan: SEP 1.x to SEP 2 Transition and Coexistence
SGAC ....... Smart Grid Architecture Committee
SGIP ....... Smart Grid Interoperability Panel
SGTCC ...... Smart Grid Testing and Certification Committee
TnD DEWG ... Transmission and Distribution Domain Expert Working Group
V2G DEWG ... Vehicle-to-Grid Domain Expert Working Group


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<スマートグリッドスペシャル・インタビュー>
◆スマートグリッド向け新プロトコルによるIEEE 1888システムの構築を聞く!(前編)

◆スマートグリッド向け新プロトコルによるIEEE 1888システムの構築を聞く!(後編)


プロフィール

落合 秀也(東京大学 大規模集積システム設計教育研究センター 助教)

落合 秀也(おちあい ひでや)氏

現職:
東京大学 大規模集積システム設計教育研究センター 助教

【略歴】
2006年 東京大学 工学部 電子情報工学科卒業。
2008年 同大学大学院 情報理工学系研究科 修士課程了。
2011年 同大学大学院 同研究科 博士課程修了。同年同大学 大規模集積システム設計教育研究センター 助教、現在に至る。設備ネットワーク、広域センサーネットワーク、遅延耐性ネットワーク研究のほか、IEEE 1888およびASHRAEでの設備ネットワーク標準化活動に従事。情報理工学博士(東京大学)。

【主な著書】
江崎 浩/落合 秀也共著『スマートグリッド向け新プロトコル「IEEE 1888」の全容と省エネ戦略2011=東大グリーンICTプロジェクトの「IEEE 1888システム」と節電対策の実践=』(インプレスR&D刊、2011年)

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