≪1≫「ECHONET Lite」がHEMSの標準インフェースとなった背景
マルチベンダ環境で、使いやすいホームネットワークの通信規格の策定を目指す「エコーネットコンソーシアム」(図1)は、これまで、屋内電力線(PLC:Power Line Communication)や無線、赤外線などを使用して、家電製品などを制御するための宅内ネットワークを構築する「ECHONET」規格を策定してきた。
具体的には、2003年12月には通信プロトコルやインタフェース関連の規格「ECHONET規格Ver.3.20」を、続いて、ECHONET Ver.3.60(2007年12月)を策定し、2009年にはIEC(International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議)において国際標準規格として認定された。
さらに、2011年6月には、国際的にオープン化が求められるスマートグリッド時代を背景に、IP(インターネットプロトコル)対応の、
(1)ECHONET Ver.4.0(OSI参照レイヤ1~7層を規定)
(2)ECHONET Lite Ver1.0(軽量版:OSI参照レイヤ5~7層を規定)
という新しい規格が策定された。
山田 淳氏(エコーネットコンソーシアム 普及委員長)
とくに、ECHONET Liteは、対応機器が増えたために機能が肥大化してきたECHONETプロトコルの機能を軽くした軽装版(Lite)として策定され、日本におけるスマートハウスの中核となるHEMSの推奨インタフェースとなった。
しかも、今後スマートハウスビジネスを展開するさまざまな分野の企業が、HEMSの事業参入しやすくすることを目指して、会員に限定して公開(2011年6月30日)していたECHONET Lite規格を、一般公開することに踏み切った。これは、米国のZigBeeなどが非公開であることを考慮すると画期的なことである。
エコーネットコンソーシアムの普及委員長 山田 淳氏は、『今回のECHONET LiteをHEMSの推奨規格(標準インタフェース)とするにあたって、図2に示すように経済産業省の傘下にあるJSCA(スマートコミュニティアライアンス)の中の国際標準化ワーキンググループ(WG)が大きな役割を果たした』と述べた。
このECHONET Liteは、具体的には、次のような経緯で策定され、公開された。
(1)図2に示す国際標準化WG配下の「EMS SWG」(注2)の下に「スマートハウス標準化検討会」が設置(2011年11月7日)され、
(2)この検討会の下には、さらに①「HEMSタスクフォース」と②「スマートメータータスクフォース」が設置され、
(3)ECHONET LiteはこのうちHEMSタスクフォースで、推奨され、
(4)最終的に、スマートハウス標準化検討会で「公知な標準インタフェースとして承認され、公開された。
さらに、山田氏は『このほど、ECHONET Litが一般公開されることによって、中小企業やベンチャー企業が新しいHEMS事業へ参入しやすくなりました。』と、公開の意義を強くアピールした。
(注2)EMS SWG:Energy Management System Sub Working Group、エネルギー管理システム分科会)
≪2≫ECHONET Lite 規格のプロフィール
ECHONET Lite規格は、インターネット普及による通信環境の変化に対応し、容易にホームネットワークを実現することを目指して仕様を軽くしている。また、トランスポート層以下の規定を外して、通信処理部だけの仕様とすることで、トランスポートフリーな規格にした。たとえば、『IEEE 802.15.4(ZigBeeの物理層/MAC層)などグローバル標準の通信プロトコルや、インターネット標準プロトコルであるIPの適用が容易にできるようになり』(山田 淳氏)、従来に比べてに非常に簡単に実装することも可能となった。
このほか、白物家電や設備系機器ばかりでなくスマートハウス向けに、家庭用太陽光発電、燃料電池や、家庭用蓄電池などの登場に伴って、ECHONET機器オブジェクト詳細規定が改定された(後述)。
さらに、国際競争力を強化するため、旧ECHONET規格がIECの国際標準となったように、ECHONET Lite規格および機器オブジェクトの詳細規定についても、2012年度中の国際標準化を目指している。
ここまでは概要を説明してきたが、次に、もう少しECHONET Lite規格の内容を紹介しよう。
≪3≫ECHONET Ver.4.0とECHONET Lite Ver.1.0の違い
平原 茂利夫氏(エコーネットコンソーシアム 運営委員長)
図3に、前述したECHONET Ver.4.0とECHONET Lite Ver.1.0の違いを示すが、アミ掛けして強調している部分が、両者の規格化の範囲である。これからわかるように、ECHONET Ver.4.0の場合は、最下位に示すレイヤ1の伝送メディアからレイヤ7のサービスまですべてのプロトコルが規格化されている。
この背景について、エコーネットコンソーシアムの運営委員長である平原 茂利夫氏は、『エコーネットコンソーシアムが設立(1997年)された当時は、家電を接続する規格がほとんどなかったため、レイヤ1~7までを規格化する必要がありました。しかし、その後、さまざまな標準規格が作成されてきたため、図3の右側に示すように、伝送メディア(MAC層/物理層)などは規定せずに、上位の通信ミドルウェアだけを規格化しました。これによって、ECHONET Liteは、従来のECHONETに比べて大幅に軽装化できたのです』と説明した。
また、ECHONET環境で使用される、家電機器やエアコン、センサー類などの機器オブジェクトの仕様(各機器がもつ情報や温度・電圧などの制御対象を含む)については、両者で共通に使用できるようになっている。
≪4≫スマートハウスにおけるHEMSタスクフォースとECHONET Liteの関係
図4に、JSCA(スマートコミュニティアライアンス)のHEMS TF(タスクフォース)の検討対象範囲と、とECHONET Liteの検討対象範囲を示す。図4の左側に、スマートハウスに関するHEMSタスクフォースの検討範囲を「点線と■(青色)の部分」で示している。すなわち、HEMSタスクフォースは、HEMSと家電機器・住設機器・エネルギー機器間のインタフェースを決めることがその検討範囲になっている。
具体的には、図4の中央に示すように、HEMSタスクフォースでは、コマンドとプロトコルの部分を決めていくが、これをECHONET Liteの用語に対応させると、図4からわかるように、
(1)「プロトコル」は「ECHONET Liteの通信処理部」
(2)「コマンド」は「ECHONET Liteの機器オブジェクト」
に対応している。
≪5≫トランスポートフリーなECHONET Lite
図5は、ECHONET Liteが前述したトランスポートフリーなプロトコル構成となっていることを示す図である。図5からわかるように、ECHONET LiteはOSIのレイヤ1~4〔レイヤ1:物理層、レイヤ2:MAC層、レイヤ3:ネットワーク層、レイヤ4:トランスポート層〕に依存しない、すなわちトランスポート層以下のプロトコルに依存しないトランスポートフリーな規格であり、図5の紫色の「ECHONET Lite通信処理部」だけのプロトコルとなっていることが大きな特徴である。
レイヤ4以下では、通信アドレスはIPアドレスあるいは、伝送メディア(例:Ethenet)のMACアドレスなどが使用される。
≪6≫スマートハウスにおける機器オブジェクトの追加
図6は、ECHONET Liteで追加された機器オブジェクトを、スマートハウスに適用したイメージ図である。これまで、家庭において使用される機器は、電気を使う機器(エネルギーを使う機器)すなわち『省エネ機器』が主であったのに対し、スマートハウスでは、電気を発電する太陽光発電や燃料電池、あるいは電気を貯める蓄電池などの、『創エネ機器』、『畜エネ機器』が導入・設置されるため、これらを含めた機器オブジェクト(コマンド)が追加された。今後、電気自動車(EV/PHV)などをはじめ順次新しい機器オブジェクトの登場が予想されるが、その場合は、エコーネットコンソーシアムが各業界とリエゾン(連携)をとり、コマンドを追加・拡張していく。
≪7≫ECHONET Liteは2012年中に国際標準化の予定
すでに、旧ECHONET規格は、すべてIECあるいはISO/IECで国際標準化が実現されている(図7)が、今回のECHONET Liteの国際標準化については、現在準備中であり、最短で2012年9月、遅くとも2012年度中には達成されることを目指している。
具体的には、機器オブジェクトを含めたECHONET Liteは、図8に示すように、ホームネットワーク関連技術の標準化.を担当しているIEC TC100(注3)という専門委員会で審議され標準化される予定となっている。
(注3)IEC TC100:IEC第100専門委員会、AUDIO、VIDEO and MULTIMEDIA systems and equipment、オーディオ、ビデオとマルチメディアシステム/装置を担当。
具体的なECHONET Lite/機器オブジェクトの標準化のスケジュールは次に通りである。
(1)2011年6月:NP(注4)提案(TC100国内委員会)
(2)2011年8月:NP提案承認(TC100国内委員会)
(3)現在、IEC/TC100への規格提案書を作成中
(4)2012年3月:規格書提出(IEC/TC100)
(5)2012年9月:国際標準化(IS。注5)完了(最短の場合、遅くとも2012年度中)
(注4)NP:New work item Proposal、新業務項目提案
(注5)IS:International Standard、国際規格
≪8≫別の視点「IEC TC 57」からも「システムインタフェース」を策定
また、別の視点、すなわち、元々スマートグリッド関係(配電関係)のネットワーク規格の標準化を担当しているIEC TC57(注6)においても、上位の配電側からみて、どのように家庭のHEMSを接続するか、そのシステムインタフェースが検討されている。具体的には、ドイツのシーメンスから提案され、TC57内に2011年3月に設立されたWG21(注7)で審議が行われている。
図9に、IEC TC57 WG21の「システムインタフェース」(配電側と需要家側間のインタフェース)の位置づけを示すが、その標準化の検討には、ホームネットワーク技術に関連している、日本のエコーネットコンソーシアムや米国のZigBeeアライアンス、そして欧州のKNXアソシエーションなどとリエゾンを取りながら行われている。このWG21には、エコーネットコンソーシアムから2名のエキスパートが派遣され標準化活動が行われている。
(注6)IEC TC 57:POWER SYSTEMS management and associated information exchange、電力システム管理および関連する情報交換)
(注7)WG 21:Interfaces and protocol profiles relevant to systems connected to the electrical grid、「送電網に接続されたシステムに関連するインタフェースおよびプロトコルプロファイル」の策定を担当するワーキンググループ
運営委員長平原茂利夫氏は、『そのWG21における標準化のスケジュールは、図10に示すように、前述したシーメンスからの提案で、2011年3月にWP21が設立されました。これを皮切りに、2011年11月には、リエゾンレターという形で、WG21にエコーネットコンソーシアムとして参加したい旨を出しましたが、これは受理される見込みとなっています。現在、ECHONET Liteのユースケースの収集とその選択作業を行っているところです。』と現在のエコーネットコンソーシアムの状況を披露した。引き続き、現在も、国際的にECHONET Liteが認知され、2012年12月(遅くも2012年度中)に標準化が達成されるよう標準化活動が続けられている。
(つづく)