≪1≫スマートハウス向けプロトコル「ECHONET Lite」の規格策定の方針
〔1〕策定に関する3つの前提条件
村上隆史氏(エコーネットコンソーシアム 技術委員長)
スマートハウス向けおよびセンサーネットワーク向けプロトコルであるECHONET Liteの規格は、
(1)既存のECHONETと新しいECHONET Liteの間で同一の機器オブジェクト(後述)が利用できること
(2)すでに市場に提供され普及しているECHONETレディ(対応)機器に装備されているミドルウェアアダプタインタフェースを利用可能であること
(3)ECHONETプロトコルを搭載した機器とECHONET Liteを搭載した機器は、お互いに、共存できる仕様とすること
の3点を前提条件として策定された。
記者発表会において、エコーネットコンソーシアムの技術委員長 村上隆史氏は、『このような前提のもとに、現行のECHONETプロトコル規格の冗長部分を改善して軽装(Lite)化し、さらにECHONET規格のうち、使用されていない仕様が削除され、ECHONET Lite仕様を簡潔にする方針がとられたのです。』とECHONET Liteの規格策定の基本的な方針を語った。
これらの方針によって策定されたECHONET Liteは、機器の設置環境や求められる機能要件、あるいは開発環境によって、有線か無線を問わず自由に伝送媒体を選択することができるようになり、システム構築を容易に行うことができるようになった。さらに、従来のECHONETから継承しているが、テレビや電子レンジなどの白物家電や、エアコン・照明などの設備系機器をはじめ、さらにプロトコルを軽装化したことによってセンサー類など、メモリーやCPUの能力の低い小リソースの機器にも搭載可能となった。
〔2〕ECHONET Liteの規格化の範囲
具体的には、図1にECHONET Liteの規格化の範囲を示すが、図1の右に示すように、ECHONETがOSIのレイヤ1からレイヤ7を標準装備していたところを、ECHONET Liteプロトコルでは、図1の左に示すように、大幅に簡素化し、レイヤ5~レイヤ7の3層のみ、すなわち図1の通信処理部のみを規定する軽量なプロトコルとなった。
また、通信アドレスも従来のECHONET仕様で規定されていた、独自のECHONETアドレスではなく、汎用的に広く使用されているレイヤ3のIPアドレス、あるいはレイヤ2のMACアドレス(例:Ethernetアドレス)などが使用できるようになった。
≪2≫ECHONET Lite のECHONETからの変更点
〔1〕ネットワーク構成の違い
図2に、ECHONET Liteのネットワーク構成、およびECHONET LiteのECHONETからの変更点を示す。ECHONETでは、ドメインとサブネットの2つを規定したネットワークとなっている。ドメインとは、ECHONET LiteあるいはECHONETで構築された家庭内のホームネットワーク全体のことを指している。
一方、サブネットについては、従来のECHONETでは、伝送メディアが異なるネットワーク(例:有線メディアや無線メディア)をサブネットと呼んでいたが、ECHONET Liteでは、OSI参照モデルのレイヤ4(4層)以下で、通信可能な機器によって構成されている範囲(ネットワーク)をサブネットと呼んでいる。
〔2〕ECHONET Liteのメッセージ形式
また、ソフトウェアの実装を軽くするため、従来のECHONETでは12種類あった電文形式(メッセージ形式)を、ECHONET Liteでは1種類に削減し、大幅に簡素化された。
具体的には、前出の図1に示したECHONET Lite通信部処理部で処理される、ECHONET Liteのメッセージ(電文)構成(通信プロトコル)は、図3に示すようになっており、このようなメッセージがやり取りされる。
上図のECHONET Lite電文の各名称は、次のとおりである。
(1)EHD:ECHONET/ECHONET Lite Header、EHDヘッダ
(2)TID:Transaction Identifier、トランザクションID(識別子)
(3)EDATA:ECHONET Lite Data、ECHONET Liteデータ
(4)SEOJ:Source Object、送信元オブジェクト(送信元の機器種別)
(5)DEOJ:Destination Object、送信先オブジェクト(送信先の機器種別)
(6)ESV:ECHONET Lite Service、アクセスルールを指定するサービス
(7)OPC:Processesing Target Property Counter、処理対象プロパティカウンタ
(8)EPC:ECHONET Property、ECHONET(アクセス先)プロパティ(属性)
(9)PDC:Property Data Counter、プロパティデータカウンタ
(10)EDT:ECHONET Property Data、ECHONET(アクセス先)プロパティ値データ
≪3≫ECHONET Liteを搭載した機器の構成
また、ECHONET環境では、「機器オブジェクト」と「ノードプロファイルオブジェクト」の2種類のオブジェクトが規定されている。
(1)機器オブジェクトとは、家電機器やエアコン、センサー類などの機能をオブジェクト化したものであり、
(2)ノードプロファイルオブジェクトとは、それらの機器の通信機能をオブジェクト化したものである。
実際には、例えば図4下に示す、左側のコントローラ(制御装置。ECHONET Liteノード)からECHONET Liteを搭載したエアコン機器や照明機器を制御しようとする場合、具体的には図4に示すエアコン機器内の機器オブジェクトを操作することによって、機器の制御(温度設定や明るさの設定)や、状態参照(現在の温度や照度などの参照)あるいは機器からの通知(状態の通知)などが行われる。これらの一連の操作は、ECHONET Liteサービス(EVS:アクセスルールを指定するサービス)と言われている。
≪4≫ECHONET機器オブジェクトの仕様
次に、ECHONETにおける機器オブジェクトをさらに詳しく見てみることにしよう。
〔1〕オブジェクト化のメリット
ECHONET環境では、各家電機器などはオブジェクト指向でモデル化して定義されている。図5には、集中制御装置にセンサーやエアコン、照明機器が接続されたECHONETネットワークの構成を概略的に示すが、オブジェクト化によって、
(1)家電機器へのアクセスインタフェースが統一できること。これによって、各機器を遠隔から制御する「集中制御制御装置」のソフトウェア開発が容易になること
(2)他の機器(接続する相手の機器)へ公開する情報や、公開する操作の方法が明確化できること。これによって対応機器の設計が容易になり、さらに機器の互換性が容易に実現でき利用になること
などのメリットがある。
この背景について、前出の村上隆史氏は、『実際、各メーカーで開発された家電機器などは、さまざまプログラム群やデータ群で構成されています(後掲の図6)が、これらはメーカーによっても異なるし、また同じメーカーでも機種や世代によっても異なってくることが多いのです。そこで、ECHONETでは、これらをオブジェクトという形でモデル化して解決しているのです』と述べた。
〔2〕エアコンオブジェクトの例
具体例として図6に、エアコンオブジェクトの例を示しているが、オブジェクトは、「オブジェクトの名称」、「公開データ」「公開サービス」などで構成され、それぞれ次のような内容になっている。
(1)オブジェクトの名称:機器の名称を示すオブジェクト。図6ではエアコンオブジェクト
(2)公開データ:どのようなデータにアクセスできるか。例:現在の温度、運転モード
(3)公開サービス:どのようなことが設定できるのか、また参照できるのか
〔3〕ECHONETオブジェクト(EOJ):エアコンの例
次にさらに詳しく、エアコンの例でみてみると、図7に示すように、エアコンオブジェクトが具体的にどのような機能をもっているかを、ECHONETプロパティ(EPC)という形で表している。図7に示すエアコンの場合のエアコンオブジェクトは、例えば、
(1)動作状態
(2)設定温度
(3)運転モード
(4)室内温度
などの制御対象をプロパティ(属性)として規定している。
〔4〕機器オブジェクトの種別
実際に、ECHONET環境で定義されている機器オブジェクトは、家電機器などをよく理解している開発者が、ECHONETアプリケーションを実行するために定義されている(前編参照)。
現在、図8に示すように、センサー関連、空調関連等々含めて、87種類の創エネ(太陽光発電等)・畜エネ(蓄電池等)・省エネ機器(家電機器等)、センサー類の機器オブジェクトが、ECHONET規格として定義されている。さらに、今年度(2011年度)中に、創エネ関連機器、畜エネ関連機器を中心に機器オブジェクトが追加あるいは変更されていく予定となっている。
≪5≫ECHONET Liteのユースケース
次に、ECHONET Liteの適用事例を紹介しよう。
〔1〕太陽光発電の電力制御の例
図9は、ECHONET Liteを適用したスマートハウス内に設置された太陽光発電の電力制御の例である。ここでは、太陽光発電を家庭内で最大限に利用しながら、電力会社の系統(電力システム)全体の需要と供給のバランスをどのように実現させるかの例である。
図9では、電力会社とスマートハウスの通信が、インターネット経由でゲートウェイ(GW:スマートハウス側に設置)で接続され、そのゲートウェイに接続されたコントローラ(制御装置)が、太陽光発電と接続され、電力制御が行われている様子を示した図である。
図9のスマートハウスに設置されている住宅用太陽光発電や、蓄電池などには、EOJ(ECHONETオブジェクト)として、
(1)住宅用太陽光発電クラス(EOJ:0x027901)
(2)電気温水器クラス(EOJ:0x026B01)
(3)蓄電池クラス(EOJ:0x027D01)
などが定義されている。
例えば、電力会社の系統(電力システム)全体の発電量が多い場合には、需要と供給のバランスを保つために、家庭で発電した太陽光発電の売電電力量(逆潮流:家庭から電力会社への電力の流れ)を抑制し家庭内で積極的に利用するか、あるいは電力会社が発電を抑制するようにする。
例えば、電力会社のサーバから、コントローラに逆潮流を抑えてくれというような信号がきた場合には、コントローラは、太陽光発電でつくられた電力を蓄電池に充電する、あるいは電気温水器のほうに熱として貯める、というような制御が行われることになる。
〔2〕スマートハウスにおける計測(スマートメータによる計測)
また、図10に示すように、ECHONET Liteネットワークが導入された、スマートハウスにおけるエネルギー計測についても、今回見直されて新しく定義された。
具体的には、図10に示すように、EOJ(ECHONETオブジェクト)として、
(1)スマート電力量メータクラス(EOJ:0x0278801)
(2)分電盤メータクラス(EOJ:0x028701)
(3)スマートガスメータクラス(EOJ:0x028901)
(4)水流量メータクラス(EOJ:0x028101)
などが定義された。
例えば、図10では、電力会社は、実際に、分電盤の電力データや各エネルギーのインフラメータ(電気・ガス・水道)からデータを収集することによって、スマートハウスの使用エネルギー量を計測し、家庭のエネルギーの見える化や電力の最適制御に活用できるようになる。
PCS:Power Conditioning System、太陽光発電からの直流電圧を交流に変換したりする装置
以上、前編と後編に分けてECHONET LiteがHEMSの推奨インタフェースとなったことや、ECHONET Lite規格の内容、事例などを紹介したが、今後、ECHONET Liteが一刻も早く国際標準化され、電力・エネルギー危機の解決に向けて、国際的に幅広く活用されることが期待されている。
(終わり)
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スマートハウスの構築の中核となる新通信規格「ECHONET Lite」がHEMSの標準インタフェースへ(前編)=HEMS事業への参入を促進するため一般公開!=
スマートハウスの構築の中核となる新通信規格「ECHONET Lite」がHEMSの標準インタフェースへ(後編)=HEMS事業への参入を促進するため一般公開!=