既存エネルギーインフラの活用によるエネルギーセキュリティの向上
〔1〕22kVレベルの配電網によりカバーされる区域(街区)の系統網を活用したCEMS化
現在配電網は6kVと22kVが存在するが、今後増えていくことが予想される太陽光発電などの自然エネルギー由来の電力を収容していくためには、22kVの配電網をベースに据えることが合理的であると考えられる。なお、現在の配電網は6kV配電網を22kVにすることによって、6kVの配電網に比べて、配電ロスを7%程度軽減することも期待できる。
こうした仕組みを提供することで、平時においても売電を局所的に行うことが可能となる。
これら系統電力網は、一般電気事業者によって運営・管理されており、需要家がその運用に関与することはできない。これは系統網が安定的に運用されるという前提に立っているからであるが、供給を意識することなく電力を利用できる状況であれば、こうした仕組みでも問題は特に生じない。しかし、ひとたび大規模災害が発生し、系統からの電力供給が途絶えてしまうと、仮に近隣に利用可能な小規模な発電設備があったとしても、それを地域で融通し合いながら利用するといったことは不可能である。これは例えば輪番停電注3の場合でも同様である。
こうした問題を回避するために、需要家が相互に電力を融通しようとする場合には、自営線を敷設し、相互に接続する必要があるが、2重に配電網を構築することになるため、構築・運営に多額の費用が発生することになる。
前述のとおり、地域にはすでにエネルギー源が分散的に配置されているので、これら施設と地域の需要サイドを系統電力網により連携させることが可能になれば、災害時などに系統からの供給が途絶えた場合であっても、既存の地中化された災害に強い22kV電力網を利用して、電力を効率的に地域で融通することが可能になる。
ただし、系統からの供給が途絶えた状況、すなわち地域の分散電源のみで電力供給を行う場合、電力の需給バランスや地域に配置されている分散電源の規模などを考慮しつつ、適切な規模単位でセグメント化し、それぞれのセグメントにおいて電力の需給バランス管理、周波数調整等を行うCEMSコントローラを配置することが必要である。また、セグメント化される単位を意識しながら街づくりを行うこと、例えば、災害時にも電力供給を必要とする病院等の重要施設を分散電源の側に配置するなど、が可能となる。
〔2〕中高圧ガス供給の有効活用
日本のガス配送管、特に高圧・中圧は、高い耐災害性を備えており、阪神・淡路大震災や東日本大震災規模の災害であっても、供給が停止することはない。事実、阪神・淡路大震災、東日本大震災においても、高圧は被害なし、中圧はkm換算でそれぞれ2箇所/km(被害箇所数は106箇所)、0.2箇所/km(被害箇所数は22箇所)程度であった注4。
こうしたインフラの特性を活かし、災害時に高圧・中圧のガスインフラを有効活用できる仕組みを構築することにより、需要家にとっては、災害時にエネルギー調達の多様化を図ることが可能になる。具体的には、大型コンプレックスに設置されている、あるいは設置される常用発電設備のエネルギー源として活用すること等が考えられる。
防災兼発電拠点を分散整備した都市インフラ
〔1〕大型コンプレックスの常用発電設備
コンプレックス、大規模商業施設や廃棄物/下水処理施設等は、その施設の特性から高い耐災害性が確保できるような構造となっている。
特に大型コンプレックスは、多くの人が来場することを想定した施設であり、多くの人がいる間に大規模災害が発生しても一定期間避難生活を送ることが可能なように生活物資の備蓄をするとともに、必要最低限の避難生活を送ることが可能となるよう設計されている。とりわけ電力に関しては、平時から自施設の電力の一部を賄うことを目的として、常用発電設備等を設置・運用している。
現在のところ、こうした常用発電設備(一般的にはコージェネ)は、大型コンプレックスが、自施設のエネルギーセキュリティを確保することのみを目的として設置・運用しているのが実態であるが、災害時に同設備による発電電力を地域で融通するできる仕組み、すなわち、系統電力網を介して地域に還元できる仕組みを構築することで、地域のエネルギーセキュリティを高めることが可能となる(前述の22kv電力網)。ただし、常用発電設備を設置・運用することは、非常用発電設備を設置・運用することに比べて高コストとなるため、常用発電設備を整備することに対するインセンティブを与える方策を政策的に支援していくことが重要である。
〔2〕廃棄物処理施設の災害時の有効利活用
また廃棄物処理施設については、現在、東京都には62の焼却施設(23区内に23施設、多摩地域に20施設、島嶼(とうしょ)地域に10施設、民間施設が9施設)があり、特に23区内には300トン/日以上の処理を行える施設(20施設)が多数存在している(図2)。
図2 東京23区の清掃工場
焼却施設は、平成25(2013)年5月に閣議決定された「廃棄物処理施設整備計画」注5において、「地域の防災拠点として、特に焼却施設については、大規模災害時にも稼働を確保することにより、電力供給や熱供給等の役割も期待できる。」とされており、災害時の有効利活用が期待されているところである。実際、一部の焼却施設では、蒸気、温水に留まらず、電力を周辺施設に提供を行っている。
すなわち、大規模商業施設や廃棄物/下水処理施設といった施設は、災害時に防災拠点として活用することが可能な施設であると言える。また、平時においても多くの人が集まったり、安定的にエネルギーを供給することが可能な施設であることから、街づくりにおいては、これらの施設を人とエネルギーのハブとしてその中心に据えることが、ある意味で合理的であると言える。
一方で、これらの施設がもつポテンシャルを最大限活用し、地域のエネルギーセキュリティを高め、地域住民(あるいはその地を訪れた人々)に対して安心・安全を提供できる街づくりを進めるには、さまざまな仕組みが必要である。
図3に、提言する2030年に目指すべき都市インフラのBCP機能を示す。
図3 提唱する2030年に目指すべき都市インフラのBCP機能
▼ 注3
輪番停電:電力の需要量が、供給可能な容量を上回ることにより大規模停電が発生することを防ぐため、順番に、一定の時間、特定の地域の電力供給を停止すること。
▼ 注4
総合資源エネルギー調査会・都市熱エネルギー部会ガス安全小委員会災害対策ワーキンググループ:東日本大震災を踏まえた都市ガス供給の災害対策検討報告書