未利用あるいは現在有効利用されていないエネルギーの活用
〔1〕「水素」の有効活用
トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ自動車)が、2014年12月15日にFCV注6(燃料電池自動車)を発売する注7など、近年、水素が次世代のエネルギー媒体として注目されている。水素は、燃焼によって、水しか排出しないため、環境負荷が極めて低く、クリーンなエネルギーである点も大きなアピールポイントである。
さらに同社は、豊田市においてFCバスを活用したV2H(Vehicle to Home)の実証実験を実施している注8。同実証実験では、FCバスを平時には環境負荷の低い公共共通手段として提供するととともに、災害時には外部の建物等に電力を供給する燃料電池として活用する仕組みの在り方について検証・検討を行っており、移動型防災拠点の可能性を示している。
東京都では、都営バス(車両数:1,453注9)を運用・管理しており、当該バスが保有する車両の一部をFCバスとすることにより、実質的に街中に分散型の電池を配備することが可能となっている。これにより、災害発生時にも必要な場所に必要な電力を一時的に供給することが可能となる。
一方で、現在のところ、水素を自然に生成することはできず、それ自体を生成するためにエネルギーを必要としている。そのため、低い環境負荷で生成することが必要となるが、例えば、前述した焼却施設の排熱を有効活用し、当該熱源を活用して水素を生成することにより、環境負荷を抑えながら水素を作り出すことが可能となる。
東京都の場合、前述の焼却施設や地域防災施設を活用して水素を生成管理する拠点とし、バス等の大型車両を組み合わせて、高度な水素流通を目指した実証コンプレックスを組むことが可能である。
現在のところ水素ステーションは、1基あたりのコストが5億円とも10億円とも言われており、普及方策を、このコンプレックスの中で模索することが実証の大きなポイントとなる。
〔2〕「地下水」の有効活用
地下水は年間を通じて温度変化が相対的に小さく、夏は(相対的に)冷たく、冬は(相対的に)温かいという特徴がある。このため、近年、地下水を空調熱源として利用することが着目されている。
具体的には、夏場外気が高い時期は相対的に温度の低い地下水を冷媒として活用し、冬場外気が低い時期は逆に熱源として利用することができる。大規模施設等においては、ピークカットまたはピークシフトに対応するために、電気代の低い夜間の電力を活用した夜間蓄熱などの取り組みを行っているが、電力に頼らざるを得ないのが現状である。
地球温暖化が進む昨今においては、環境負荷が低く利用可能な熱源としての地下水は非常に大きなポテンシャルを秘めていると言える。ここで電力消費量を軽減することで、例えば、余剰電力を先に述べた「水素」製造に活用するということも可能になる。
現在のところ、東京都では「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(略称 環境確保条例)」(平成13年4月1日施行)により、地下水の揚水量に制限が設けられている。これは地盤沈下を避けるために重要な施策ではあるが、前述のとおり、冷媒注10としての効用が期待できることから、エネルギー消費量の多い施設・街区において循環を前提とした揚水を認める等の利活用策を講じることが重要である。
〔3〕「非常用発電装置」の平時活用
大規模商業施設や公共性の高い施設、あるいは病院等の重要施設では、外部からの電力供給が途絶える事態を想定して、非常用発電装置を導入するのが一般的である。また、東京都でも白髭(しらひげ)東団地の防災設備には、連続7日間防災設備を運転可能な規模の大規模非常用発電機が設置されている注11。
しかしながら、これらの設備は本質的に「非常時の利用」を想定しているため、定期的なメンテナンス時にしか利用されないのが実情である。また、設備としても、「非常用」を想定した設計となっているため、長期に渡って利用することができない。
一方で、こうした設備を平時から利用する、すなわち「非常用」を「常用」とする仕組みを構築することは、結果として地域のエネルギーセキュリティを高めることに繋がると考えられる。ただし、当然のことながら、非常用発電装置と常用発電装置では、その設計が本質的に異なるため、導入コストも異なり、また設置基準も大きく異なる。このため、実際に非常用発電装置の常用発電装置への移行について、定量的に評価することが必要である。
これらの検証の結果、有効性が明らかとなった場合には、その普及展開に向けた政策的な支援を行っていくことが必要となる。例えば、常用発電設備の設置基準をある一定の条件を満たす地域(街区)において緩和したり、あるいは常用発電設備の導入支援をしたりといったことが考えられる。
例えば、常用を前提とした場合、発電のための燃料の確保は重要な課題となる。現在の発電装置は、重油をその燃料として用いるのが一般的であり、その場合、発電設備の付近に備蓄する必要がある。重油の備蓄量が増えると、(400リットル以上2,000リットル未満の場合少量危険物取扱所、2,000リットル以上では危険物取扱所としての)規制を受けることになる。このため、常用を前提とするのであれば、ガスを燃料として用いることは1つの選択肢となる。前述のとおり、都市ガスの中高圧ガス供給網は耐災害性が高いので、このようなガスを用いることは、災害時における電力確保の多様化という観点からも効果が期待できる。
▼ 注6
FCV:Fuel Cell Vehicle
▼ 注7
http://newsroom.toyota.co.jp/jp/2014
▼ 注8
http://jscp.nepc.or.jp/article/jscp/20131203/375782/
▼ 注9
http://www.kotsu.metro.tokyo.jp/information/service/bus.html
▼ 注10
冷房・冷凍機などで温度を下げるために用いる熱媒体となる物質のこと。
▼ 注11
http://www.gikai.me-tro.tokyo.jp/record/yotoku/2012/4-08.html