「デマンドレスポンス」とは
「デマンドレスポンス」(DR)とは、とくに厳密な定義があるわけではないが、簡単に言うと、「電力会社から供給される電力と、消費者側で消費(需要)する電力の最適なバランスをとるために制御すること」である。これは、米国連邦規制委員会(FERC)注1がまとめた「2011年版DRおよび先進メータリング評価報告書」注2によれば、次のように定義されている。
「卸市場価格の高騰時または系統信頼性の低下時において、電気料金価格の設定またはインセンティブの支払いに応じて、需要家側が電力の使用を抑制するよう電力消費パターンを変化させること」
具体的な例を挙げて説明すると、図1は世界の主要国の1日(24時間。2010年7月21日)の電力の需要をグラフ(日負荷曲線)で示したものである。この図から、日本の1日の電力需要の推移(日負荷曲線)を見ることができるが、14時頃に最大の負荷(ピーク電力需要)が、約1億7000万kWとなっていることがわかる。
図1 世界の主要国の1日(24時間)の電力の需要をグラフ(日負荷曲線)
〔出所 日本:経済産業省、欧州:ENTSO-E(欧州電力系統運用者ネットワーク)、米国:PJMの各統計より〕
日本の場合、もしこのピーク電力時を、デマンドレスポンスなどによって約1億6000万kWまで削減(1000万kW削減)できれば、電力会社は新たに発電所を増設しなくても済み、さらに電力の供給予備率注3も下げることができる。これによって、電力会社は設備投資を軽減することができるようになる。
このように、電力会社のサービスとして、デマンドレスポンスが提供されるようになってくると、これを実施するために、電力会社は需要家(消費者)に対して「これだけ電力消費を下げてほしい」という「お願い」をする。需要家はその要請に応じて、例えばクーラーの温度を3℃上げるなどの対応を行う。電力会社は、その「お願い」のインセンティブ(特典:ご褒美。クーポンなど)を、顧客サービスとして与えるような形態が考えられる。
デマンドレスポンスをなぜ行うのか
〔1〕暑くても節電して我慢してほしい
ここで、もう一度原点に戻って、「デマンドレスポンスをなぜ行うのか」ということを考えてみよう。
なぜ「デマンドレスポンス」を行うのか?
今デマンドレスポンスを実施すると、「多少暑くても、節電して我慢してほしい」「蓄熱式の冷房設備を導入して最高使用電力を下げてほしい」などということがデマンドレスポンスの最大のポイントになる(図2)。また、急激な電力使用による大停電などを起こさせない、すなわち電力ネットワークの信頼性を確保するためにデマンドレスポンスを行う、ということでもあるが、本来の目的は前述したように電力需要曲線をフラット化することで発電所・送変電設備の稼働率が上がり「電気料金の安定のために設備投資を抑制すること」である。
図2 アグリゲータ事業者によるデマンドレスポンスの仕組みの一例
〔出所 各種資料をもとに作成〕
軽負荷時への電力需要のシフトが可能であれば、デマンドレスポンスのサービス自体がほんとうに「必要なのかどうか」ということを考えてみなければいけない。現在、世界各国でデマンドレスポンスの必要論が議論の中心になっている。
〔2〕アグリゲータに電力供給の責任をもたせる
現在日本には、「HEMSアグリゲータ」「BEMSアグリゲータ」「MEMSアグリゲータ」などアグリゲータ注4がたくさん存在するが、これらアグリゲータが、ある一定のエリアの電力供給の責任をもつということにすれば、そこは電力の需給制御をしないで済む(すなわちデマンドレスポンスをしない)ことも可能となる。例えば、もともとピーク電力が発生しないように宅内システム(HEMS)を設計し、電気料金を安くしておくようなことも考えられる注5。
それは、具体的にいうと、室内をすべてエアコンで冷やすということではなくて、家屋の設計に工夫をこらし、風を流すことによってピーク電力を発生させないようにするなど、デマンドレスポンスなしの環境で、もう少し節電に向けた対策は考えられるのではないだろうか。
したがって、
- 本当にデマンドレスポンスを必要とする電力システムにするのか
- 自主的に電力使用量をフラット化する努力をするのか
などについては、考え方を整理する必要がある。現在は「デマンドレスポンスありき」のような議論になってしまっているが、もう少し検討してもよいテーマであろう。
〔3〕IPv6時代を迎えたスマートグリッド環境
また、インターネット環境では、これまでのIPv4注6が枯渇してしまい、IPv6時代を迎えているが、IPv6アドレスには無限大のIPアドレスがあるので、スマートグリッド関係の機器の1つ1つに、すべてIPアドレスが割り振ることのできる時代を迎えている。
そうすると、IPv4アドレスを使用していた時代は、「家庭ごとの単位」で節電をしていたが、IPv6時代を迎えて、例えば家庭の「照明器具単位」にIPv6アドレスを割り当てて、照明器具をコントロールできる(節電できる)時代になった。そうすると現状では制度面(現在、電力会社は電力メーターまでの管理に制限されており、屋内には介入できない)の制限はあるものの、今後、電力の自由化時代を迎えてデマンドレスポンスと大きな関係があるテーマとなっている。
▼ 注1
FERC:Federal Energy Regulatory Commission
▼ 注2
Assessment of Demand Response and Advanced Metering Staff Report February 2011、http://www.ferc.gov/legal/staff-reports/11-07-11-demand-response.pdf
▼ 注3
供給予備率:天気の急速な変動による電力需要の急増や発電機のトラブル停止などに対応するため、電力会社が備えている予備的な電力設備。適正予備率は8〜10%が目安とされている。
▼ 注4
アグリゲータ(Aggregator):個々の顧客の電力使用状況を管理している事業者(電力会社も含む)で、電力会社からの節電の要請に応じて、その節電の支援サービスを提供する事業者。
▼ 注5
電力会社もアグリゲータの機能を含むとすれば、そこには電力会社と多くのアグリゲータの間で市場競合が起こることになる。
▼ 注6
IPv4:Internet Protocol Version 4、これまでのインターネットで使用されてきた32ビット(232≒43億)のIPアドレス。2011年2月3日のIANAに続いて、2011年4月15日にはJPNICでもIPv4アドレスが枯渇した。このため、現在ほぼ無限の128ビットのIPv6アドレス(2128=232×232×232×232≒43億×43億×43億×43億)が使用されるIPv6時代を迎えた。
IANA:Internet Assigned Numbers Authority、ドメイン名、IPアドレス、プロトコル番号を管理する国際組織。その後ICANNに引き継がれる。
JPNIC:Japan Network Information Center、日本ネットワークインフォメーションセンター。IPアドレスの管理などを行う組織。