オンサイト式かオフサイト式か
今後、燃料電池自動車(FCV)が普及していく場合に、オンサイト式、オフサイト式のいずれの水素ステーションが有利となるかについて、見てみよう。
オンサイト式かオフサイト式かについては、現在、これがベストという選択肢はなく、ケースバイケースで良し悪しがある。
〔1〕エネルギー効率
オフサイトでは、ガス体エネルギーである水素を陸上輸送するためには、容器に充填された高圧ガスあるいは液化水素として専用の車両で輸送しなければならず、配送・受入の手間だけでなく、多くのエネルギーを必要とする。
それに対して都市ガス改質のオンサイトでは、パイプラインを用いて都市ガスを輸送できるため、高効率でガス体エネルギーの輸送が可能である。また、小型のオンサイト水素製造装置の効率も高いため、オフサイトと比較するとエネルギー効率の面で有利である。
〔2〕必要スペース
オンサイトでは、水素製造装置を設置するスペースが必要となる。一方、オフサイトでは、水素を貯蔵する設備(液体水素受入設備や気化設備、あるいはカードル置場など)と水素輸送用車両の停車位置、ステーション内移動スペースなどが必要となる。これらを考慮すると、オンサイトとオフサイトでは、大きな差異はないと思われる。
〔3〕水素保有量
オンサイトでは、水素ステーション内で水素を製造するため、水素保有量は比較的少なくてもよいが、オフサイトでは、安定的に水素を供給するには、より多くの水素を保有しておかなければならない。
〔4〕水素ステーション建設費、水素原価
オンサイトでは、水素製造装置とオフサイトの水素受入設備の建設費の差の分、建設費のコストがアップする。設備仕様などによって異なるものの、差異金額は、おおむね1億円程度と想定される。
その一方で、必要水素量が増加してくると、オンサイトは、より安価な水素を安定的に供給できるというメリットをもつことになる。
〔5〕オンサイト、オフサイトいずれが有利か?
以上のことから、オンサイトの場合は、水素製造装置についての初期投資はあるが、将来FCVが普及して多量の水素を安定的に供給する場合には、オンサイトのほうが有利となる。
そこで、水素ステーションの初期ビジネスとして需要が少ない場合にはオフサイトで、FCVが普及し水素の需要が多くなってきたらオンサイトに切り替えていくケースも考えられる。これは、今後、さまざまなことが実証されていくなかで解決されていくことになる。
〔6〕現在稼働中の水素ステーションと水素の価格
現在、日本で稼働している20カ所の商用水素ステーション(2015年4月末時点)の内訳は、
- オンサイト式が3カ所
- オフサイト式が16カ所
- 移動式が1カ所
となっている(詳細は、本誌2015年5月号参照)。
写真1 北大阪水素ステーションの料金表示
また、現在、各社の水素の販売価格は1kgあたり1,000〜1,100円程度(税抜)となっているが(写真1参照)、この価格は現在走っているガソリン車の燃費よりも安く、ハイブリッド車と同程度の価格設定となっている。
この価格は、もともと、ガソリン車の燃費とほぼ同等の1,500円/kg程度でスタートし、数年後に1,000円/kg程度までコストダウンしようという計画であったものを、先取りして、1,100円/kg程度の水素供給価格でスタートしているため、今後、水素の価格が劇的に下がることは想定しにくい。