[注目される「水素」技術と最新利用技術]

注目される「水素」技術と最新利用技術≪第3回≫ 〔パート1〕トヨタの市販・燃料電池自動車「MIRAI」のコア技術とロードマップ

クリーンな出力9kWの『家庭用発電所』としても利用可能へ
2015/06/01
(月)
SmartGridニューズレター編集部

トヨタ自動車(以下、トヨタ)が、「自動車の次の100年」を担う究極のエコカー「MIRAI」(ミライ。燃料電池自動車:FCV)を市販したことに続き、5,680件もの特許を無償で提供することを発表したことは、国際的にも大きな反響を呼んでいる。燃料電池自動車は、従来のガソリン自動車の心臓部であったエンジンをなくし、それに代わる「FC(Fuel Cell)スタック」(燃料電池)という発電部で発電し、その電気でモーターを回転させて走行する排出ガスのない「究極のエコカー」である。
しかし、この燃料電池自動車市場を創出するには、官民一体の体制と自動車業界の総力をあげたグローバルな協調が求められる。このようななか、国際的にも業界の提携や共同開発の発表が相次ぎ、また国内においても水素ステーションなどのインフラ整備に向けて協調の機運が高まっている。
ここでは、トヨタ自動車(株)広報部企画室 担当部長 中井久志氏への取材をもとに、「MIRAI」のコア技術やロードマップをレポートする。

国際連携・共同開発が進む燃料電池自動車(FCV)

〔1〕日米欧で進むFCVの連携・共同開発

 これまでの特集第1回(2015年4月号)、特集第2回(同5月号)でも解説してきたように、燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle注1)は、水素エネルギーを利用して走行する。このとき、水素は、

  1. 使用時にCO2ガスの排出がゼロであるため環境に優しい
  2. 多様な1次エネルギー注2から製造可能
  3. 電気に比べてエネルギー密度が高く貯蔵や輸送が容易

などの特徴を備えている。このため、国際的にも究極のエコカーとして燃料電池自動車への期待が高まっている。

 具体的には、表1に示すように、すでにトヨタとドイツのBMW(ビーエムダブリュ)、日産自動車とドイツのダイムラーAGおよび米国フォード、本田技研工業と米国GM(ゼネラルモーターズ)などの、国際的な提携や共同開発が発表されている。

表1 燃料電池自動車の開発に関係する主な国際的動向

表1 燃料電池自動車の開発に関係する主な国際的動向

〔出所 各種資料より編集部作成〕

〔2〕燃料電池自動車と水素自動車の違い

 燃料電池自動車は水素を使用するが、水素自動車とどのように違うのだろうか。誤解のないように、両者の違いを簡単に整理しておこう。

 図1は、水の電気分解と燃料電池の仕組みを示した図である。よく知られているように、水素は、図1の左図に示すように、水を電気分解すると水素と酸素が得られる。これとは逆に、図1の右図に示すように、水素と空気中の酸素を化学反応させると電気を発生させることができる。

図1 水の電気分解と燃料電池の仕組み

図1 水の電気分解と燃料電池の仕組み

〔出所 http://www.jari.or.jp/Portals/0/jhfc/beginner/about_fc/index.html

 燃料電池自動車(FCV)とは、このような「燃料電池」で発電した電気エネルギーを利用してモーターを回し走る自動車のことであり、水素自動車のようにエンジンはない(注:水素自動車との大きな違い)。

 一方、水素自動車は、従来のガソリン車がガソリンをエンジン内で燃やすのと同じように、水素をエンジン内で燃やして動力を得る自動車である。しかし両車とも、水素ステーションで燃料となる水素を補給し走行する点は共通している。

 このように、「燃料電池自動車」と「水素自動車」とは、水素を使用する点は同じであるが、基本的な原理はまったく異なることに注意が必要である。

〔3〕近年登場している新型自動車の整理

 ここで、近年登場している燃料電池自動車からプラグインハイブリッド車(PHV)までのさまざまな新型自動車を整理すると表2のようになるが、このうち、ハイブリッド車(HV)、燃料電池自動車(FCV)、電気自動車(EV)の3車種の仕組みについて比較すると、図2のようになる。

表2 燃料電池自動車からプラグインハイブリッド車までの分類

表2 燃料電池自動車からプラグインハイブリッド車までの分類

〔出所 各種資料より編集部作成〕

図2 ハイブリッド車、燃料電池自動車、電気自動車の仕組みの違い

図2 ハイブリッド車、燃料電池自動車、電気自動車の仕組みの違い

〔出所 経済産業省 資源エネルギー庁 燃料電池推進室、「燃料電池自動車について」より、 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy/suiso_nenryodenchi/suiso_nenryodenchi_wg/pdf/003_02_00.pdf

 ハイブリッド車は、「エンジンとガソリンタンク」と「モーターと二次バッテリー」の両方が装備され、エンジンでもモーターでも走行できる。一方、燃料電池自動車は、「FCスタック(発電部)と水素タンク」と「モーターと二次バッテリー」が装備され、モーターで走行する。さらに電気自動車は、燃料タンクがなく、「モーターと大容量バッテリー」が装備され、モーターで走行する。

 図2に示すように、燃料電池自動車とハイブリッド車はよく似た構造となっているが、ハイブリッド車が「エンジンとモーター」で走行するのに対して燃料電池自動車は、FCスタック(発電部)で発電した電気を使用して「モーターだけ」で走行する点が、大きく違っている注3

 燃料電池自動車はモーターで走るので、電気自動車の一種である。しかし、本来の電気自動車は、充電した蓄電池(大容量電池)の電気でモーターを回すが、燃料電池自動車は燃料電池(FCスタック:発電部)で、自分で発電して電気を起こし、モーターで走る仕組みとなっている。このため、燃料電池自動車は電気自動車に乗ったときの乗り心地と似ていて、きわめて静かである。また、アクセルを踏んだ場合のレスポンスが非常によく、立ち上がりや加速性が滑らかとなっている。


▼ 注1
燃料電池の意味:英語の「Fuel Cell」は日本語で「燃料電池」と訳されるが、通常言われている「電気を貯める電池」とは違い、実際には「電気を発電する装置」のことを意味していることに注意。MIRAIでは、「FC(Fuel Cell)スタック」(燃料電池=発電部)と呼ばれる。

▼ 注2
1次エネルギー:石炭や石油、天然ガス、水力、太陽光、風力など、自然にある状態で得られるエネルギーのこと。これに対して、ガソリンや電気などのように、使いやすく加工されたエネルギーは2次エネルギーと呼ばれる。

▼ 注3
ハイブリッド車と燃料電池自動車に搭載される二次バッテリーは、減速時のエネルギーを利用して発電した電力を二次バッテリーに蓄電しておき、加速時などに使用される。

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