[欧州の風力発電最前線]

欧州の風力発電最前線 ― 第6回 日本のスマートグリッドがガラパゴス技術にならないために ―

2015/08/01
(土)
安田 陽 関西大学 システム理工学部 准教授

スマートグリッドと広域送電網

 さらに、3番目のキーワードである「広域送電網」とスマートグリッドの関係についても追ってみたい。

〔1〕汎欧州規模のオフショアグリッド

 欧州連合(EU)の「戦略的エネルギー技術計画」(SET-Plan)注12の枠組み内の「欧州エネルギー研究連合」(EERA)注13の1つのプロジェクトとして、「EERAスマートグリッド・ジョイントプログラム(JP)」注14がある。EERAのスマートグリッドJPには、「系統運用」「エネルギーマネージメント」「双方向制御システム」「エネルギー貯蔵技術」「送電系統」の5つのサブプログラム(SP)があり、このうち送電系統SPの経過報告書注15によると、「再エネの間欠性に対応するための系統柔軟性の向上」だけでなく「風力発電の大量導入と汎欧州規模のオフショアグリッド」などが検討課題として挙げられている。

 ここでは、特に「オフショアグリッド」というキーワードが登場することが重要である。オフショアグリッドと呼ばれる構想は、海底ケーブル網および大規模洋上風力発電所、洋上変換所から構成される次世代型広域電力網のことであり、欧州では主に北海・バルト海・アイリッシュ海を中心に計画が進んでいるものである(図4参照)注16

図4 OffshoreGridプロジェクトによるオフショアグリッド構想

図4 OffshoreGridプロジェクトによるオフショアグリッド構想

〔出所 J. De Decker and P. Kreutzkamp, “Offshore Electricity Grid Infrastructure in Europe”, EWEA, 2011, http://www.ewea.org/fileadmin/ewea_documents/documents/publications/reports/OffshoreGrid__report.pdf

 オフショアグリッドを実現可能にするための重要な要素技術としては、多端子型コンバータ(電力変換装置)によるインテリジェントな潮流制御が挙げられる。従来の直流送電は、陸対陸の海底ケーブルによる電力輸送が一般的であったが、多端子型コンバータを用いた洋上変換所を建設することにより、複数の大規模洋上風力発電所からの電力を複数の経路を通じて複数の国に送ることができ、さらに国同士の電力取引や予備力融通も可能となる。ERRAのスマートグリッドJPでは、このような要素技術もスマートグリッドの1つとして捉え、実証研究プロジェクトが進められている。

 筆者もこのEERAのJPの担当者と直接ディスカッションしたことがあるが、「このような汎欧州的な電力系統の構想をスマートグリッドと呼ぶかどうかは人によって定義がそれぞれであるが、少なくとも我々は目指すものが明確にある」と自信をもって発言していたのが印象的であった。

〔2〕中国のストロングスマートグリッド

 さらに、より壮大な「スマートグリッド」の例として、中国の「ストロングスマートグリッド」構想が挙げられる。この計画は、中国のTSOである国家電網が2009年に発表した新しい概念であり、従来のスマートグリッドに加え、超高圧 (UHV:Ultra High Voltage)系統も含めたすべての電圧階級の系統をICTベースの双方向通信でカバーし、より大量の再エネを導入するために、電力系統を改善することが目的とされている注17。ここまでくると、スマートグリッドの概念がどこまで拡張できるのか「言ったもの勝ち」のような様相を呈してくるが、いずれにせよ電力系統全体の「スマート化」を目指しているという点では、決して無視できない動向である。


▼ 注12
戦略的エネルギー技術計画(SET-Plan:Strategic Energy Technologies Plan):EUの政府ともいわれる欧州委員会が2007年に公表した、低炭素エネルギー技術有望6分野(風力・太陽光・CO2貯留・バイオマス・電力系統・持続可能な核分裂)開発のための政策提言。

▼ 注13
欧州エネルギー研究連合(EERA、European Energy Research Alliance):SET-Planの枠組みのなかで中核を成す公的研究所および大学の連合体であり、現在16のジョイントプログラムが走っている。

▼ 注14
http://www.eera-set.eu/eera-joint-programmes-jps/smart-grids/

▼ 注15
EERA Joint Programme on Smart Grids Sub-Programme 5 Transmission Networks, “D5.1 Transmission Planning State-of-the-art in Transmission planning models and methods”, 2014, https://drive.google.com/file/d/0B5xoDIbYnFewY0dsTDdQMDJta0UtWFJtVjdETzRRbjJNaVJV/edit?usp=sharing

▼ 注16
オフショアグリッドに関して日本語で読める資料としては、次の文献を参照のこと。
・安田陽 著、「欧州のオフショアグリッド構想〜電力系統は海を目指す〜」、『風力エネルギー』, Vol.37, No.3, pp.300-305, 2013, http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~yasuda/2013OffshoreGrid.pdf

▼ 注17
中国のストロングスマートグリッドに関しては、次の資料を参照のこと。
・Jinyu Wen and Haibo He, “China's Approach to the Smart Grid”, IEEE Smart Grid Newsletter, Jul. 2011, http://smartgrid.ieee.org/july-2011/99-chinas-approach-to-the-smart-grid
・Thomas Ackermann 編著、一般社団法人日本風力エネルギー学会 訳、『風力発電導入のための系統連系工学』、第30章「中国の電力系統における風力発電の大規模連系」、オーム社、2013年11月

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