日本のスマートグリッドがガラパゴス技術にならないために
〔1〕真に「スマートなグリッド」の構築
以上、海外のスマートグリッドの動向を、(1)電力市場、(2)系統柔軟性、(3)広域送電網というキーワードを中心に紹介した。
一方、日本では「スマートグリッド」というとどうしても「マイクログリッド」や「スマートコミュニティ」が連想されがちであり、比較的小規模な地域のなかでのエネルギーマネージメントに関心が向きがちである。現在、日本で研究開発や実証実験が進んでいるスマートグリッドプロジェクトのほとんどが、系統への逆潮流を行っていなかったり、再エネの変動成分を除去した計画潮流のみしか認めていなかったりする場合が多く、蓄電池を好んで採用する傾向にある。
このような形態は、しばしば「エネルギーの地産地消」として美化される場合があるが、これもよくよく最適化を図らないと、却ってエネルギーの無駄遣いや高コストなシステムになりかねない。
例えば、電力系統の送電ロスは5%未満のため、蓄電池とインバータを用いて充放電を行うよりもむしろ送電線につないで遠方へ電力を輸送した方がエネルギー損失は少ない。また、狭い閉じた地域で無理に需給調整をコントロールしようとするのは技術的にも経済的にも合理性がなく、本来電力系統全体で受け入れれば問題ないレベルの変動成分の除去のために安易に蓄電池を使うと却って多大なコストがかかる可能性もある(連載第4回、第5回を参照のこと)。せっかく電力系統に接続していながら、オフグリッドの離島や孤立集落のような閉じたシステムを指向するのは、実は日本以外にはほとんど見られない現象なのである。
これは、現在の電力完全自由化や発送電分離が完了していない日本では、制度的な障壁が依然存在し、ある程度仕方ないことなのかもしれない。しかし、そのような制度的な障壁が存在する故に、日本版スマートグリッドは小規模な地域の配電レベルの要素技術開発ばかりに傾注し、送電レベルの真に「スマートなグリッド」の構築を怠ってきてしまった、ということにそろそろ気がつくべきではないだろうか。
〔2〕「日本の常識」からの脱却
例えば、前述の広域送電網の計画や柔軟性のある広域系統運用の要素技術は、本来、日本の産業界のお家芸であったはずで、事実、1990年代には日本はコンバータや電力ケーブルのデバイス製造技術や制御技術の分野では世界の最先端を走っていた。しかし、21世紀も10年以上経過した現在、日本では国内電力需要も頭打ちで電力設備更新や技術開発が今ひとつ盛り上がらない反面、欧州では再エネを起爆剤として電力設備への投資や技術開発が非常に活況となり、大きく水をあけられている。
本稿で取り上げた通り、我々が現在目にしている日本語で書かれたスマートグリッドに関する書籍や資料のなかで、海外で盛んに議論されている「電力市場」や「系統柔軟性」、 「広域送電網」という重要キーワードに触れているものは残念ながら非常に少ない。より深刻なのは、日本語で海外のスマートグリッドの動向を紹介するはずの文献ですらも、その多くがこれらのキーワードを見落とし、基本理念や設計思想を十分分析しないまま要素技術ばかりを紹介していることである。これは我々日本人が、世界の動向をウォッチしているつもりでも、ついつい「日本の常識」というフィルタを通してしか世界を見ようとしないからではないか、と筆者は推測している。
「日本のスマートグリッドは海外のスマートグリッドとは定義が異なる」と言い訳してしまえばそれまでだが、せっかく日本が磨き上げてきた要素技術を海外にもアピールするためにも、国際動向や将来の日本の方向性を見据えた戦略を立て直すべき時期に我々は来ているのではないだろうか。
(第7回:最終回に続く)