[欧州の風力発電最前線]

欧州の風力発電最前線 ―第7回 (最終回) 将来のスーパーグリッドを支える風力発電―

2015/09/01
(火)
安田 陽 関西大学 システム理工学部 准教授

日本は何を学ぶべきか

 本稿では、欧州のスーパーグリッド構想および要素技術や先行事例を概観した。スーパーグリッド構想は、日本を含む東アジア地域においてもいくつか提案があるものの、政府や公的機関が主導する計画や構想はほとんどなく、スーパーグリッドは遠い未来の絵空事で現実味がないものと捉えられがちである。しかし、これまで見てきた通り、特に欧州において着々と布石が打たれ、開発や投資が進んでいる。

 欧州も先進国であるが故にGDPや消費電力量もこれ以上劇的な増加が望めないが、それでも送電線に対する投資は活況である。その原動力は再エネ、特に風力発電にある。日本では風力発電のようなVRE(Variable Renewable Energy:変動性再エネ)を大量導入すると変動対策や系統増強のために余計なコストが発生すると考えられがちである。しかし、欧州や米国ではまず政府系プロジェクトや公的機関の研究によってさまざまなシナリオでFSが実施され、費用便益分析の結果、送電網を建設することに十分な便益(メリット)があることが立証されている。このように送電網を新規建設することに経済的・環境的意義が確認されるからこそ、民間での投資も進み、イノベーションも活性化されるという好循環を生み出している。

 日本も将来の再エネ大量導入やスーパーグリッド建設を考えた場合、単に「電力の安定供給が損なわれる」「コストがかかる」とネガティブで後ろ向きな評価ばかりでなく、そこから得られる便益を可能な限り定量化し、プロジェクトの意義を確認することが必要であろう。国民全体の理解を得て、産業界全体でイノベーションや投資を促進させるためにはまず、国レベルあるいは産業界を挙げてのFSや費用便益分析が必要である。先行する欧州の事例から得られる教訓は、まさにこの点にある。

おわりに

 本連載では第4回から最終回となる第7回にかけ筆者が担当し、風力発電を横糸として、蓄電池やスマートグリッド、スーパーグリッドなどさまざまなキーワードを縦糸として、海外情報を紹介した。全体を貫く通奏低音は、風力をはじめとする再エネの情報に関しては国内外の情報ギャップが多く、まずギャップの存在を認識しながらニュートラルな視点で多角的に海外最新情報をウォッチしなければならないこと、である。

 また、再エネの大量導入にあたっては従来の原因者負担の原則ではなく、受益者負担の原則に立ち系統全体でマネージメントすることが必要であること、そのためには複数のシナリオによる実現可能性研究や費用便益分析を行わなければならないこと、などのコンセプトも紹介した。

 これらのコンセプトは日本ではまだまだ少数意見であるかもしれないが、今後来るべき再エネの大量導入時代に向け、些かでも読者諸氏の参考になれば幸いである。

(終わり)

◎Profile

安田 陽(やすだ よう)

安田 陽(やすだ よう)

関西大学 システム理工学部 電気電子情報工学科 准教授

1967年生まれ。
1994年3月、横浜国立大学大学院博士課程後期課程修了。博士(工学)。
同年4月、関西大学工学部(当時)助手。専任講師、助教授を経て現在、同大学システム理工学部 准教授。
現在の専門分野は風力発電の耐雷設計および系統連系問題。
日本風力エネルギー学会理事。電気学会 風力発電システムの雷リスクマネジメント技術調査専門委員会 委員長。IEA Wind Task25(風力発電大量導入)、IEC/TC88/MT24(風車耐雷)などの国際委員会メンバー。
主な著作として『日本の知らない風力発電の実力』(オーム社)、翻訳書(共訳)として『洋上風力発電』(鹿島出版会)、『風力発電導入のための電力系統工学』(オーム社)など。

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