1kWh当たり42円のFIT(固定価格買取制度)のスタート
村上:そうですね。このような課題は、両面から考えていく必要があると思います。基本的に江崎先生のご意見に賛成で、不要な政府の補助金を使用して要らない技術を延命させても良いことは何もありません。ですから、その淘汰のメカニズムは、常に働いているべきであるというところは大原則だと思っています。
他方、2012年7月1日からスタートした固定価格買取制度(FIT:Feed in Tariff、フィードインタリフ。囲み記事参照、11ページ)では、例えば太陽光発電1kWあたりが42円となっていますが、この価格については、「やや高い」という指摘もあります。参考までに、図3に再生可能エネルギーの調達価格(買取価格)と調達期間(買取期間)を示しますが、1kWあたり、例えば太陽光は42円、風力は57.75円、地熱発電は42円、中小水力35.7円などのように、それぞれの種類ごとに、必要となる初期投資や運転維持費などの違いを反映した形で、買取価格や買取期間が各区分ごとに設定されています。
図3 再生可能エネルギーの調達価格(買取価格)・調達期間(買取期間)について
〔出所 資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの固定価格買取制度について」、2012(平成24)年10月 〕
これは、国会で法文修正を受けた、再エネ特措法の条文の規定に即して作業したということなわけですが、個人的見解としては、非常に良い選択だったと思っています。
その理由は、強力な電力会社のライバルになれる企業に、発電事業にぜひ参入して電力市場を活性化してほしいからです。
いくら電力市場を自由化しても、張り合える相手がいなければ競争にはならない。実質的な競合のない状態で自由化すれば、電力料金は上がる一方。規制なき独占となってしまいます。これは、ある意味では最悪の事態です。私は基本的に自由化に賛成ですし、短期的に痛みが伴っても(短期的に料金が上がっても)なお、長期的にはそのほうが絶対によい答えが出るはずと思っていますが、そのためにも、これをどのような形で具体的に進めていくか、そのやり方が課題であり、FITとの組み合わせは非常に相性がいいんです。
江崎:なるほど。ところで、再生可能エネルギーに関して導入目標は、どのようになっているのでしょうか。
また、再生可能エネルギーと言っても、太陽光発電や風力発電のほかバイオマスなどもありますね。
村上:再生可能エネルギーに関しては、2012(平成24)年9月14日のエネルギー・環境会議において「革新的エネルギー・環境戦略」注2が決定され、再生可能エネルギー導入目標は、2030年までに3000億kWh以上とされました。
また、図4に示すように、2002年6月に公布(2003年4月に施行)されたRPS法注3後、2008年度までに、再生可能エネルギーによる電力供給量は80億kWhへと倍増し、さらに、余剰電力買取制度の導入(2009年)後は、住宅用太陽光の導入量は大幅に拡大しています。
図4 RPS法による再生可能エネルギー電力供給量の推移
〔出所 資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの固定価格買取制度について」、2012(平成24)年10月 〕
江崎:なるほど。政府の制度によってかなり再生可能エネルギーが増大していることがわかりますね。
村上:そうなのですが、図5に示すように、ここまで伸びてもなお、2011年度の日本の発電電力量のうち、再生可能エネルギーなどが占める割合は1.4%程度。しかし、風力、地熱、太陽光発電にも、まだまだ大きな潜在力があります。
そこで政府は、2012年7月1日に開始した再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の導入をきっかけに、大幅に導入拡大の道筋をつけるべく、2012年は「再生可能エネルギー元年」と位置付けました。
図5 我が国の再生可能エネルギーの導入状況(2011年度)
〔出所 資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの固定価格買取制度について」、2012(平成24)年10月 〕
▼ 注2
エネルギー・環境会議:2011年(平成23)年10月28 日に開催された国家戦略会議で、エネルギーシステムの歪み・脆弱性を是正し、安全・安定供給・効率・環境の要請に応える短期・中期・長期からなる革新的エネルギー・環境戦略及び2013 年以降の地球温暖化対策の国内対策を政府一丸となって策定するために決定された会議。
▼ 注3
Renewables Portfolio Standard法。すなわち「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」制度の導入(2003年)。