[新春特別対談 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩 vs. 経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギー対策課長 村上敬亮]

再生可能エネルギーは日本の未来を救えるか!─前編─

─鍵を握るFIT(固定価格買取制度)と国家戦略を語る─
2013/01/01
(火)

20年単位でものを考えるFITプロジェクト

村上:きちんと事業努力をしないと使いこなせないのがFIT制度なのです。そういう意味で、「事業化インセンティブ」がFITの中にはしっかりと位置付けられています。また、もう1つ、FITがユニークだと思っている点は、FITは長期のリターンに主眼を置いていることです。現在の日本のファイナンスは、全体的に見ると短期リターンへ寄り過ぎています。

逆に言うと、長期の投資先がないということでもあります。いろいろな新ビジネスのほとんどが短期サイクルで成果が出るものに集中している。

しかし結局、短期サイクルでリターンできるものというのは、テレビの画面を大きくするとか薄くするとか、そういう類の話なのです。そういうシンプルな技術革新で勝負できる世界というのは、市場をリードできてもせいぜい2、3年。しかもリターン(利益)が取れたとしても、追いついてくるほうは1年で追いつくことができるのです。その結果、何が起きているかというと、日本の産業はあちこちで、すべて自分が仕掛けた技術競争において、逆に、キャッチアップしてきた中国や韓国などとの価格競争で苦しめられてしまうという事態に陥っているのです。

江崎:太陽電池パネルも同じような道をたどりましたね。

村上:FITの場合、先ほど紹介したコンビニAさんの場合がそうですが、FITに取り組むことになった瞬間に、実質的には多少前倒し効果はあるにしても、理屈上は、20年周期のプロジェクトを考えざるを得ないわけです。

例えば、スマートメーターのビジネスひとつとっても、今すぐメーターの売り上げで回収しなければならない場合と、メーターを使ったサービスで長期に回収できるかどうかで、状況は全然変わってくる。それくらい投資回収期間の設定は重要な問題になります。

FITプロジェクトを取り入れる以上は20年単位でモノを考えざるを得ない。これは、これまで少し短期のファイナンスに寄り過ぎた日本の先端分野のファイナスを、長期にリバランスするということにもつながるのではないかと期待しています。(次号の後編につづく)

固定価格買取制度(FIT)とは

固定価格買取制度( FIT:Feed in Tariff。フィードインタリフ)とは、再生可能エネルギー買取法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法、略称「再エネ特措法」。2011年8月16日成立)に基づいて、2012(平成24)年7月1日から施行(開始)された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のこと。

この法律によって、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度(以下「全量買取制度」という)が導入され、再生可能エネルギー源を用いて発電された電気の全量を、国が定める一定の価格(固定価格)および期間で、電気事業者が買い取ることが義務付けられることとなった。

再生可能エネルギーの導入によって生じるコストは電気料金と同時に、賦課金という形で回収することで、電気を利用する者全員が、その電気の利用量に応じて負担をするルール。電力自由化に向けた施策とも連携し、新しいプレイヤーの参入や、新しいビジネスモデルの創出などを進める産業振興の側面ももつ。欧州では、2000年頃から様々な国で広く採用されており、基本的にはこれと同じ仕組みを日本でも採用している。

◎Profile

江崎 浩(えさき ひろし)

江崎 浩(えさき ひろし)

東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授

1987年 九州大学 修士課程修了後、(株)東芝入社。

1990年より2年間 米国ニュージャージ州 ベルコア社。

1994年より2年間 米国ニューヨーク市コロンビア大学 CTRにて客員研究員。高速インターネットアーキテクチャの研究に従事。

1994年 MPLS技術のもととなるセルスイッチルータ技術を提案。

1998年10月より 東京大学 大型計算機センター助教授。

2001年4月より 東京大学 情報理工学系研究科 助教授。

2005年4月より 現職(東京大学 情報理工学系研究科 教授)。WIDEプロジェクト代表。

MPLS-JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長、ISOC(Internet Society)名誉理事(Emeritus Board ofTrustee)。日本データセンター協会 理事/運営委員会委員長。工学博士
(東京大学)。

村上 敬亮(むらかみ けいすけ)

村上 敬亮(むらかみ けいすけ)

経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギー対策課長

1990年 通商産業省入省。資源エネルギー庁配属となり、湾岸危機対応、地球温暖化防止条約交渉に従事。その後、PL法立法作業などに携わる。

1995〜2004年 著作権条約交渉、政府調達制度改革、電子タグの国際標準化、e-Japan戦略の策定などのIT政策を担当。

2005年 資源エネルギー庁総合政策課。国家エネルギー戦略をとりまとめ。

2006年 大臣官房会計課。

2007年7月 情報政策課企画官。

2008年7月 メディア・コンテンツ課長でソフトパワー戦略を担当。

2009年7月 地球環境対策室長として地球温暖化国際条約交渉を担当。

2011年9月 現職。資源エネルギー庁 新エネルギー対策課長。

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