世界の大規模停電と被害規模の例
このような新しい電力システム「スマートグリッド」が登場し国際的な関心が高まるなかで、2011年3月11日に東日本大震災が発生し、東京電力の電力システムを直撃した。この大震災以降、国民の電力に対する認識が大きく変わった。電気を利用している一般家庭や企業の人々、すなわち需要家は、
災害時の電力関連の設備トラブルによる瞬時の電圧低下や瞬時の停電に対して、非常用電源を確保することや、太陽光発電や風力発電などの不安定な自然エネルギーに対応した電力管理を考慮しなくてはならない
と意識するようになった。
電力システム側では、これまでも、設備トラブルや電力の需給バランスを考慮した設備の構築や運用を行ってきた。特に、自然災害に対しては、過去にさまざまな停電を経験している。
例えば記憶に新しいところでは、1995年1月17日早朝に発生した阪神・淡路大震災(被災地:兵庫・大阪府)による300万世帯の大停電があるが、これ以降を見ても、表2に示すような大規模停電が発生している。
表2 2000年以降に見る世界の大停電と被害規模の例
直近の大停電は、2012年7月31日に発生したインドにおける大停電である。停電は14時間にも及び、その被害規模は実に6億人にも達している。
現在の電力システムは、このような過去のさまざまな自然災害の教訓を生かして、その対策と研究が重ねられてきた。その成果の一部は、次に解説するように、日本で2011年3月11日に発生した東日本大震災当日に、東京で停電が発生しなかったことからも見てとれるのである。
なぜ、3.11の大震災の直後に東京で停電がなかったのか
3.11の東日本大震災は国際的に見ても、最大級の災害であった。実は3.11の東日本大震災の直後には、東京電力管内の福島第一原子力発電所(470万kW)や福島第二原子力発電所(440万kW)をはじめ、鹿島火力発電所(440万kW、茨城県)、広野火力発電所(380万kW、福島県)などが次々に発電を停止した。このため、当時、東京電力がもっていた電力供給力は、5200万kWから3100万kWまで低下してしまった。
すなわち、九州電力の最大供給力に匹敵する2100万kWもの電力供給力が落ちてしまったのである(図3)。しかし、それでもこのとき、東京は停電しなかった。
図3 東京電力の3.11震災前の電力供給量と震災直後の電力供給量の比較
通常、電力供給力の半分近い約40%に相当する2100万kWも低下してしまったら、電力システムは、周波数や電圧が大幅に低下注3し、大停電に至ってしまう可能性が高い。
それにもかかわらず停電が起きなかったということは、東京電力に限らず、日本の電力会社が研究開発してきた電力網に対する信頼性の向上に向けた対策が、有効に機能した証である。
これについては多くの分析が必要なため、現在は公表に至っていないが、数年後には「なぜ停電しなかったのか」への検証が行われ、解明できる時期が間違いなく来ると思われる。このことは、国際的にも注目されているのである。(第2回につづく)
▼ 注3
例えば、電力の発電量と需要量のバランスが崩れると、周波数に変動をきたす。発電量が増大すると周波数は上昇し、逆に需要量が増大すると周波数は低下する。周波数は発電機の回転数となるため、急激な上昇や低下は発電機の回転を不安定にし、破壊の原因につながる。一般的に、0.2Hzほどの変動で一部の需要家に影響が出て、数パーセント変動すると、保護のために発電機を停止させる必要がある。
東京電力の場合、通常、周波数は「50±0.2Hz」に維持され、100Vの電圧は「101±6V」に維持されている。