[特集]

始動したシスコの新IoT戦略! ─「フォグ」を核にスマートグリッドからM2Mまで─

2013/03/01
(金)
SmartGridニューズレター編集部

シスコIoTアーキテクチャの4つの役割分担

次に、図5を見ながら、この「シスコのIoTアーキテクチャ」を少し詳しく見てみよう。

図5 シスコIoTアーキテクチャ

図5  シスコIoTアーキテクチャ

〔出所 http://www.cisco.com/web/JP/news/pr/2012/035.html

図5に示すように、シスコのIoTアーキテクチャは、下位から次の4つで構成されている。

  1. 「スマートオブジェクト/センサーデバイス」の層
  2. 「フォグコンピューティング」の層
  3. 「インターネット」の層
  4. 「クラウドコンピューティング」の層

〔1〕「スマートオブジェクト/センサーデバイス」の層

図5の一番下に示すスマートオブジェクトとは、インターネットにつながることができるデバイスやセンサーがイメージされている。ただし、インターネットに常時つながっている必要はない。

例えばセンサー系のデバイスに関しては、数量的にも多く使用される注4ところから、省電力型であることが重要である。そのため、例えばセンサーの場合は「30分単位に情報を発信する」、あるいは「変化があった時だけ情報を発信する」というように設定し、インターネットと常時接続しておく必要はない。

すなわち必要なときだけ必要な情報を、インターネットを介してアプリケーションに対して送信する、またはアプリケーション側からの指示をもらうという仕組みである。

例えば、センサーデバイスは、その特性として、パッシブ(受動的)な側面をもっている。パッシブというのは、スマートフォンをセンサーに近づけると、センサー自体は電源をもっていないため、センサー自身が自ら情報を発信するのではなく(ここでいうセンサーは、計測対象の変化を情報信号に変換する機能のことを指している)、あくまでもスマートフォンがセンサーに情報(例:気象情報等)を読み込みに行く形となる。

すなわち、センサーデバイスなどは、常時インターネットにつながる機能をもっている必要はなく、Wi-FiやBluetooth、RFID、NFC注5などで通信できればよいのである。

また、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスについて、NFC(近距離無線通信)などの通信機能は、iPhoneの場合はiPhone 5の次の機種から搭載される予定であり、Android系の端末はすでにNFCが搭載されている。このため、Android端末はセンサー情報を読み込んでインターネット上に流す際の介在役として大きな役割をもっている。

これまでセンサーから情報を収集する場合、センサーごとに給電をしたり、センサーに無線機能をもたせたりするなど、センサーをインターネットに接続するためのコストや手間は大きなハードルになっていた。しかし、今後は、スマートフォンやスマートデバイスを介してそうしたパッシブ系のセンサー情報を読み込むことができれば注6、スマートフォンで1次的なデータ処理ができてしまう。現在のスマートフォンはかなり高いコンピューティング機能があるので、場合によっては、スマートフォンはフォグコンピューティングの一環を構成する機器、あるいは延長としてとらえることができる可能性がある。

したがって、図5の「スマートオブジェクトやセンサーデバイス」の層は、機能的にデータそのものの集積と、そのデータをインターネットが受信できるようにするという役割が期待されている。

〔2〕「フォグコンピューティング」の層:2つの機能

図5の下から2番目のフォグコンピューティングの層は、大きくは2つの機能をもっている。1つ目は、前述した膨大な数のスマートオブジェクト/センサーデバイスが接続できる「ネットワーク」としての機能である。

2つ目は、クラウドの分散機能としてのエッジにおける分散型インテリジェンス(すなわちフォグコンピューティング)によって、データ処理・分析や制御を行う機能である。

〔3〕「フォグコンピューティング」の層:開発の経緯

次に、このフォグコンピューティングが開発された経緯を見てみよう。

現在、次々に登場する「スマートオブジェクト」をつなげていくには、従来のインターネットのアーキテクチャでは対応しきれない状態が発生することを予測し、シスコは5〜6年前からその研究開発に取り組んできた。

その研究開発において、シスコ内では大きく次の2つの内容が検討された。

(1)従来のインターネットは、IPv4と言われるアドレス空間に制約があるため、インターネットに接続される端末の数(接続可能台数:最大約43億台)に制限がある。

しかし、このとき、膨大な数のオブジェクト(対象物)をインターネットにつなげていく場合、単にIPアドレスをIPv4からIPv6(接続可能台数:ほぼ無限大)に移行するだけでは、新しいフェーズに移行するインターネットの問題解決にならない。すなわち、膨大なトラフィック(通信量)を処理するために、大きな処理時間が必要になること。

(2)そこで、これを解決する技術的なソリューションとして、【スマートオブジェクトやスマートデバイス】と【インターネット】の間に、インテリジェンスをもたせた新しい機能(後述するエッジ機能)を設ければ、問題が解決できること。

〔4〕クラウドへの一極集中

その検討の際に問題になったのは、前述したように、現在のインターネット上で動作している膨大なアプリケーションやコンテンツ、サービスについて、それらの処理がすべてクラウドに一極集中していることであった。

さまざまな処理をクラウドに一極集中処理させてしまうことによって、今後ますます多様なトラフィックが加速度的に増大していくニーズに応えられるのかどうか。これに対処するには、現在のインターネットの世界に、分散コンピューティング(すなわち分散インテリジェンス)というアーキテクチャが必要である、という結論に至ったのである。

〔5〕現在のクラウドに「エッジ」を追加

実際、現在のクラウドの世界には、①パブリッククラウドや②プライベートクラウド、③ハイブリッドクラウドというように、必ずしも一極集中ではなく、サービスの形態に応じて最適化されたクラウド(あるいはデータセンター)が存在している。しかし、これらのそれぞれのクラウドの仕組みは、かなり大規模なシステムがイメージされている。

そこでシスコは今後、より多くのスマートオブジェクトやモノがつながる時代になると、スマートオブジェクトやモノが、いきなりどこかのデータセンター(クラウド)につながって集中処理するのでなく、もっとユーザーに近いエッジ(クラウドへの入り口)で分散処理できる必要がある、という結論に達したのである。

〔6〕フォグコンピューティング

そのような時代のニーズに対応するため、シスコは「フォグコンピューティング」(Fog Computing、エッジ機能)という、新しいコンセプトを提唱した。これによって、クラウドコンピューティングの手前のエッジに近いところで分散処理(比較的小規模のデータ)してクラウドに負荷をかけない、あるいはクラウドでの手前でデータ処理を行ってユーザーデータの処理スピードを上げることが可能になったのである。

これは、大型コンピュータ(メインフレーム)による集中処理から、クライアント−サーバ型の分散処理に移行したコンピュータシステムのアーキテクチャと似ているように見えるが、両者は補完し合い併存するものなのである。

以上、シスコIoTアーキテクチャの中で特に、「スマートオブジェクト/センサーデバイスの層」と「フォグコンピューティングの層」を中心に解説してきたが、次にクラウドコンピューティングとフォグコンピューティングのシステム構成の違いを見てみよう。


▼ 注4
例えば、今後スマートハウスなどでは、100個以上の温度センサーや湿度センサー、照度センサーなどが使用されるといわれている。

▼ 注5
NFC:Near Field Communication、10cm程度の近距離無線通信。

▼ 注6
スマートフォンとの直接的な通信や、クラウド経由での情報の取り込みなど、通信経路は複数になると想定している。

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