[特集]

始動したシスコの新IoT戦略! ─「フォグ」を核にスマートグリッドからM2Mまで─

2013/03/01
(金)
SmartGridニューズレター編集部

シスコのフォグコンピューティングの具体例とスマートグリッド戦略

それでは、シスコのフォグコンピューティングとはどのようなものだろうか。その具体例を挙げながら、スマートグリッド戦略を見てみよう。

〔1〕商用系・ビジネス系のフォグコンピューティング機器

シスコでは、以上のようなIoTアーキテクチャに基づいたフォグコンピューティング向けネットワークプラットフォームとして、すでに、シスコのルータ市場に提供を開始している。

具体的な製品としては、スマートグリッドのFAN(Field Area Network、地域通信網)注7の範囲にある屋外の電柱上に設置される、堅牢なタイプの「CGR 1240」(コンセントレータ)注8である(写真1、写真2)。

写真1 シスコ CGR 1240/スマートグリッド用ルータ(CGR:Connected Grid Routers、コンセントレータとも言われる)

写真1  シスコ CGR 1240/スマートグリッド用ルータ(CGR:Connected Grid Routers、コンセントレータとも言われる)

〔出所 http://newsroom.cisco.com/press-release-content?type=webcontent&articleId=631460

写真2 電柱に設置されたシスコ CGR 1240/スマートグリッド用ルータ(CGR、コンセントレータ)設置のイメージ

写真2  電柱に設置されたシスコ CGR 1240/スマートグリッド用ルータ(CGR、コンセントレータ)設置のイメージ

〔出所 http://newsroom.cisco.com/press-release-content?type=webcontent&articleId=631460

「CGR 1240」は、各家庭のスマートメーターからの情報(例:数十〜数百軒)を集約し、電力会社のクラウド上にあるMDMS(メーターデータ管理システム)へ送信する装置であり、エッジ系のフォグコンピューティングの位置づけになる製品である。この「CGR 1240」は、電源のバックアップ用にバッテリーも内蔵しており、停電時にもしばらく機能できるようになっている。

〔2〕グリッドブロックアーキテクチャ

前述したように、シスコはフォグコンピューティングの具体例として、スマートグリッド向けコンセントレータ「シスコ CGR 1000シリーズ」などの製品を発表し、スマートグリッドに対して意欲的なビジネス展開を開始していることを紹介した。

これらの製品は、すでにシスコが発表しているスマートグリッド向けの新たなアーキテクチャ「グリッドブロックアーキテクチャ」(GridBlock Architecture)注9に基づいた製品群なのである。現在シスコは、このアーキテクチャに基づく、ルータやスイッチ関連製品(CGR 2010/CGS 2520)およびサービスを含めて、スマートグリッドのポートフォリオ(製品群)を拡大しているところである。

〔3〕数千台のコンセントレータをカナダの電力会社に納入

グローバルには、すでに世界各国の大手の電力会社に、前述したシスコのスマートグリッド製品が次々に導入され始めている。例えばシスコは、スマートメーターの先進的企業である米Itron(アイトロン)と組み、カナダのブリティッシュ・コロンビア(BC)州にある大手の電力会社「BC Hydro」に敷設されたAMI(スマートメーター通信基盤)用のコンセントレータとして、CGR 1240を数千台の規模で導入している。

このほか、オーストラリアの電力送配電網会社「オースグリッド」(AusGrid)、さらに世界最大の電力配送会社といわれる中国の「State Grid」などにも納入されている。

図6に、シスコのスマートグリッドにおけるConnected Grid Router 「CGR 2010」、Connected Grid Router Switch「CGS 2520」の位置づけを示す。

図6 スマートグリッドにおけるCGR 2010、CGS 2520の位置づけ

図6  スマートグリッドにおけるCGR 2010、CGS 2520の位置づけ

〔出所 https://www.cisco.com/web/JP/product/hs/switches/c2500cgs/prodlit/pdf/data_sheet_c78_593672.pdf

以上、シスコのIoTアーキテクチャを見てきたが、今後、シスコは、IoTインキュベーションラボを世界の新ビジネス研究開発の拠点として、スマートグリッドにおけるビジネス、スマートコミュニティ/スマートシティのビジネス、M2M(Machine to Machine)ビジネスなどで新しく台頭しているビジネスに向けて、大きな挑戦を開始している。

今後、シスコが掲げる「IoT:Internet of Things」「IoE:Internet of Everything」のコンセプトがどのように実現され、どのように展開されていくか、目を離せないものがある。

【インプレスSmartGridニューズレター 2013年3月号掲載記事】

◎取材協力

木下 剛 氏

木下 剛 氏

シスコシステムズ合同会社 専務執行役員

APJCにおけるボーダレスネットワーク事業統括、および、IoTインキュベーションラボを統括。

今井俊宏 氏

今井俊宏 氏

シスコシステムズ合同会社 IoTインキュベーションラボ シニアマネージャー

 

IoTインキュベーションラボにて、IoE/IoT領域の技術研究活動やエコパートナーとのIoE/IoTソリューション開発活動などに従事。

 


▼ 注7
FAN:Field Area Network、地域通信網。スマートグリッドでは家庭のスマートメーターからの電力使用量のデータを集約するコンセントレータ(通常、電柱上に設置される)までの範囲の通信ことをFANと呼ぶ。NAN(Neighborhood Area Network、地域通信網)と呼ばれる場合もある。

▼ 注8
http://www.cisco.com/en/US/products/ps12256/

▼ 注9
http://www.cisco.com/web/strategy/docs/energy/overview_gba.pdfおよびhttp://www.cisco.com/web/strategy/docs/energy/gridblocks_ref_model.pdf

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