[北九州スマートコミュニティにおける デマンドレスポンスの実践的展開]

北九州スマートコミュニティにおけるデマンドレスポンスの実践的展開─前編─

─CEMSがHEMS/BEMS/FEMS/REMSを制御─
2013/03/01
(金)
SmartGridニューズレター編集部

スマートメーターシステムの通信プロトコル

〔1〕CEMSとコンセントレータ間はIPプロトコル通信

次に、スマートメーターシステムで使用されている通信プロトコルを見てみよう。まず、前出の図3に示した、CEMSとHEMS/BEMS/REMS間は、基本的にオープンなIPプロトコル(インターネットプロトコル)で接続されている。

また、前出の図5では、CEMSから電柱上のコンセントレータ(集約装置)までがIP接続となっている。この回線(IP接続)はNTT西日本のフレッツ光の回線を利用している。

〔2〕コンセントレータとスマートメーター間はIPプロトコルレス通信

しかし、次のコンセントレータからスマートメーターまでは、IP接続ではなく(IPレス)、920MHz帯を使用した特定小電力無線によるマルチホップ接続(バケツリレー接続)の通信形態となっている。この場合は、IPアドレスではなく独自のID番号(MACアドレスのようなもの)を割り当てて、通信されている。

IPアドレス使わない理由は、IPの場合はIPパケットのヘッダー部が非常に大きいために送信するデータパケットが大きくなり、通信に負荷がかかってしまうからである。

後ほど、デマンドレスポンスの解説を行うが、図5に示すCEMS(センター)から電力料金表を宅内表示器に対して送る場合、その1回のデータ送信量は、3M〜4Mバイトというように、メガ級オーダーの大きなデータ量となる。そこで、できるだけ通信データはコンパクトにしたいということもあり、現在は、IPではなくIPレスで通信している。

図5に示すように、まず、CEMSからコンセントレータに3Mバイト 程度の高速で送られたデータパケット(IPパケット)は、いったんコンセントレータ内に蓄積される。

コンセントレータは、3Mバイトのデータの中から不要なものを取り除いて圧縮処理を行い、数百kbpsオーダーの比較的データ量が少ないデータフォーマットに変換し、メッシュネットワーク経由でスマートメーターそれぞれに届けるように工夫されている。

〔3〕送受信されるデータはJIPDEC仕様

このデータには、デマンドレスポンス系のデータ、とくに電力料金関係のデータが占める割合が大きい。そのデータ形式は、JIPDEC注3で標準化された、決められたデータ形式に準拠して作られている。

東京電力の場合は、すでに公表(2012年10月)されているように、スマートメーターから電力会社までのデータ形式は、国際標準規格となっているIEC 62056注4(DLMS/COSEM)注5の仕様が採用されている。

北九州実証システムの開発が行われた時期は、東京電力がIEC 62056の採用を決定(2012年10月)する2年以上も前の開発のため、このデータ形式仕様は、とくにIECに準拠していない注6。すなわち、CEMSからコンセントレータまではJIPDECのデータフォーマットで通信し、それ以降のスマートメーターまでの圧縮データの圧縮形式は富士電機のオリジナルで行っている。

ただし、通信方式(特定小電力無線)は、920MHz帯を使用したIEEE 802.15.4g(SUN:Smart Utility Network)/4eの標準規格に準拠した無線マルチホップ方式を採用し、パケットにID(識別)番号を振って通信している。なお、IEEE 802.15.4g(SUN)規格では、最大パケットサイズは2047オクテット(バイト)、最大通信距離は1km程度の仕様となっている。

〔4〕スマートメーターとコンセントレータ間は直接通信も可能

このとき、家庭の消費電力量の30分値(30分間に使用した電力量値)を30分以内に収集する必要があるため、マルチホップ通信の場合のスマートメーターとコンセントレータとの間のホップ数(接続段数)は、ある程度制限されてくる(時間の制約がなければいくらでもホップ数を増やすことは可能である)。それでも、見通しのよい場所であれば、920MHzによる無線通信の場合、100〜200m程度の距離は容易に通信可能となっている。

したがって、見通しがよければスマートメーターからコンセントレータまでマルチホップ通信をしなくても、直接コンセントレータに特定小電力無線でデータを送ることが可能となる。

次に、北九州の実証試験の中核的な役割を果たすCEMSの主な機能を解説する。


▼ 注3
JIPDEC:Japan Institute for Promotion of Digital Economy and Community、一般財団法人日本情報経済社会推進協会

▼ 注4
IEC 62056:Data exchange for meter reading, tariff and load control。IECの検針、料金、負荷制御のためのデータ変換仕様。IEC 62056は多くのシリーズで構成されている。
http://www.iec.ch/smartgrid/standards/

▼ 注5
DLMS:Device Language Message Specification、IEC のデバイス言語メッセージ仕様。
COSEM:Companion Specification for Energy Metering、IECのエネルギー計測関連仕様。

▼ 注6
東京電力は、スマートメーターの通信プロトコルデータフォーマットに関する規格として、国際標準規格「IEC 62056-53、61、62」(DLMS/COSEM規格と呼ばれる)を採用している。
〔東京電力、「スマートメーター(計量部)の仕様開示について」、2012年(平成24年)10月、
http://www.tepco.co.jp/corporateinfo/procure/rfc/pdf/smartm_spec-j.pdf

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