CEMSの機能③電力需給のバランス制御と計画機能のない需要家への支援
前編では、「CEMS機能①、②」として蓄電システムの制御蓄電システムの制御と、再生可能エネルギーとPVの出力調整について触れたが、もうひとつの機能として電力需給のバランスがある。
一般家庭にスマートメーターしか設置されておらず、負荷(家電機器やエアコン)を翌日どう使うかという電力需要の計画機能のない需要家(例:HEMSが設置されていない需要家)に対しては、CEMS(地域節電所)側で電力需要を予測する。すなわち、CEMSは、翌日の天気や気温などの天気予報をもとに、これまで各戸から収集した過去のスマートメーターからの値(情報)を分析し、「明日はどういう負荷パターンで需要家が電気を使うか」を予測する。
一方、計画機能をもっているBEMSやHEMSを設置している需要家に対しては、予測した計画値を翌日の予測値にプラスして送信する。それによって全地域の翌日の電力需要が予測できるようになる。
このようにCEMSでは、これらの電力需要予測に基づいて、東田コジェネから購入する電力と、地域に設置されている太陽光や風力が発電するパターンを予測する。さらに、それでも電力の需給バランスがとれない場合は、CEMSから指令を出して蓄電池を充放電させて調整することになる。
電力需要予測のもとになる情報として、気象庁から提供される気象データ、具体的には翌日の「気温や湿度」、さらに太陽光発電は雲の量で変わるので「雲量のデータ」などを使用する。また、需給の予測については、土日と平日との違いや、気温というよりもむしろ湿度と気温が相関する体感温度を予測し、電力の需要予測の計画を立てる。それでも需要予測よりも需要が多い場合は電力需要を抑えるように、デマンドレスポンス(電力需要の制御)で発信して電力の需給を調整する。
このようなことを考慮すると、デマンドレスポンスもある意味で発電機のような役割、すなわち省エネをしてくれる発電機の役割を果たしていると考えられよう。
デマンドレスポンスについては、現在はまだ実証段階であるため、マニュアルで電気料金を設定して発動(各戸に発信)している状況である。
また、CEMSからダイナミックプライシングの電力料金の価格を各戸に送る際には、気象情報も一緒につけて送られる。したがって地域では、基本的にCEMSが持っている天気予報の情報等は、その地域のHEMS(家庭)やBEMS(ビル)、FEMS(工場)、REMS(小売店)にも、すべて同等のデータが送られ、電力需要予測の計画が立てられている。また、宅内表示器にも天気予報が表示されるようになっている。
さらにCEMSには、需給のバランスが崩れると周波数に変動(60Hzが59.5Hzというように)が生じてしまう場合があるため、これに対応するために、周波数を一定に保つ機能も備えている。
デマンドレスポンス(DR)と「OpenADR/SEP 2」の検討
〔1〕デマンドレスポンス(DR)は手動か自動化か
北九州スマートコミュニティ創造事業の2012年度の中心的なテーマは、デマンドレスポンス(Demand Response:DR)の実証である(図1)。ここでは、デマンドレスポンスを手動で行うのがよいのか、自動化(OpenADR注2)するのがよいのかについて検討してみよう。
図1 北九州スマートコミュニティ創造事業の構成
〔出所 北九州スマートコミュニティ創造事業 北九州市環境局環境未来都市推進室、http://www.tokugikon.jp/gikonshi/265/265tokusyut5.pdf 〕
すでに説明したように、オート・デマンドレスポンスというのは、BEMSやHEMSに対して、例えばマンションの共用部の負荷(例:ロビーの照明)などにおいて、電力の需要が多く電力料金が高いときは「自動的に切ります」という自動的な機能をもっているところはその機能を使ってもらう。しかし、自動的な機能がないところは、オペレータあるいは個人にスマートメーターの情報を見てもらい、待機電力(待機時の消費電力)を切ったり、洗濯機を回す時間を少しずらしたりといった工夫をしてもらうことになる。
〔2〕デマンドレスポンスと自動化(OpenADR)の課題
しかし、日本でそのようなデマンドレスポンスを実際に自動化して実施してよいかどうかは、今後キーポイントになるところである。デマンドレスポンス、すなわちデマンドサイドマネジメント(需要家側でのエネルギー管理)に関して、日本では20年以上前に、すでに実証試験を経験している。このとき、いくら契約の世界であったとしても、ユーザー(需要側)から「なぜ、エアコンを切るのだ」というような意見があり、その当時は実際に普及しなかったという状況があった。
このような背景があるため、現在は、ユーザーに対していろいろなインセンティブ(特典)を考慮しながらも、「本当に自動的に実施してよいのか」「自動的に実施したときにどうなるのか」「OpenADRの登場とともにこれを導入すべきか」が、OpenADRを検討するポイントとなっている。
一方、SEP 2注3の場合は、外部からではなく家庭内で電力需要(デマンドレスポンス)に関する信号(シグナル)を各機器に与えるようなインタフェースだけが設定されているため、外部に影響を与えることがなく、需要家がどう反応するかという範囲の問題だけなのである。ただ、家の中にHEMSが設置されていて、そのシグナルを受けて「HEMSをどのように動作させるのか」というようなことを自動的に判断するプログラムが組まれている場合は、自動化されてしまう可能性もある。
ここで重要なことは、日本人あるいは日本の文化に対して、オート(自動化)にすることが生活に向いているのか(フィットしている)どうかが、一番のポイントになるのである。
▼ 注1
前編:2013年3月号。2013年2月28日発行。
▼ 注2
OpenADR:Automated Demand Response、自動化されたデマンドレスポンス。UCAIug(電力会社等の国際ユーザーグループ)のOpenADR-TF(タスクフォース)によって、「OpenADR 1.0システム要求仕様書」などが策定された後、2010年10月に、OpenADRの開発促進・普及を行う団体として、OpenADRアライアンス(本部:米国カリフォルニア州パロアルト)が設立される。OpenADRアライアンスは、OpenADR準拠のシステム/製品(「OpenADR 1.0 通信仕様書」準拠のシステム/製品も含む)の今後の普及を目指して活動を開始した。OpenADRアライアンスは、「OpenADR 2.0aプロファイル仕様書」を2012年8月に公開している。
▼ 注3
SEP 2:Smart Energy Profile 2、ZigBeeアライアンスなどが中心になって開発されたホームネットワーク(HAN)におけるオープンなIPベースの制御用の標準アプリケーションプロファイル。例えば、スマートハウスにおけるデマンドレスポンス(電力需給の制御)や負荷制御(家電やエアコン等の制御)、電力料金の課金、見える化、さらに電気自動車の充電管理などを行う機能を備えている。米国のNIST 傘下のSGIPのPAP18 が、スマートグリッドで重要なアプリケーションプロファイルとして承認している。なお、SEP 1.0/1.1はZigBeeアライアンスの独自規格。