注目されるダイナミックプライシングの実証
ここまで、北九州スマートコミュニティ創造事業における事業内容や、CEMSを核にしたシステム構成やスマートメーターの役割やその特徴を見てきた。次に、現在最も注目されているデマンドレスポンス(電力需要の制御)について紹介する。
現在、北九州スマートコミュニティ創造事業の実証実験の内容は、前編の図4(2013年3月号)のロードマップにも示したように、現在、デマンドレスポンス(DR)の具体的な内容として、図3に示すダイナミックプライシング(DP)の実証が注目されており、現在、メインの取り組みとなっている。
図3 ダイナミックプライシングの検討状況:基本的な考え方を踏まえた実証スケジュール
〔出所 http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/014_06_00.pdf 〕
図3および表1に示すように、2011年(平成23年)において現状の調査や制度の検討が行われている。とくにダイナミックプライシングの制度の導入に関して、具体的には
(1)ベーシックプライシング
(2)リアルタイムプライシング
(3)クリティカルピークプライシング
の実証を2012年度から開始し、2013年度まで行う計画となっている。
ダイナミックプライシングの実証試験とその成果
このダイナミックプライシングについては、2012年の夏に具体的な実証試験が行われた。
図4は、横軸に時間(0~23時の24時間)を、縦軸に1kW当たりの電力料金(円/kW)を示している。
図4 北九州市の変動型クリティカルピークプライシング(CPP):レベル1~レベル5
〔出所 「北九州市における変動型CPP社会実証 ─2012年度夏期評価結果─」、2012年11月29日、http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000128666.pdf 〕
まず実証試験では、早朝・深夜料金(8円/kWh)とベーシック(基本となる料金:10円/kWh)は次のように設定された。
(1)早朝・深夜料金〔0~7時、22~23時〕:8円/kWh
(2)ベーシック〔基本となる料金=8~9時、17~21時〕:10円/kWh
次に、図4に示すように、夏季に最も電力がひっ迫する時間帯(13〜16時)にダイナミックプライシング(変動型電気料金、TOU注5)を、【レベル1】から【レベル5】まで適用して実験が行われた。
ダイナミックプライシング(DP)では、図4では、真夏のエアコンの利用などによって、定性的に電力需給のひっ迫が予想されるピーク時間帯の「13時から16時」に、電力料金が高くなるように設定された。
具体的には、以下の【レベル1】~【レベル5】のような料金設定を行うことによって、ピーク時の電力需要の削減を促し、需要家側の省エネ効果(電力供給の効率)を測定した。
【レベル1】15円/kWh(10~16時:ここだけ時間を長く設定)
【レベル2】50円/kWh(13~16時)
【レベル3】75円/kWh(13~16時)
【レベル4】100円/kWh(13~16時)
【レベル5】150円/kWh(13~16時)
実際に、2012年の真夏の7月5日と7月6日の計量データを基に解析したところ、
①7月5日に図4に示すレベル2(50円/kWh)に上げた場合⇒省エネ効果約12%
②7月6日に図4に示すレベル3(75円/kWh)に上げた場合⇒省エネ効果約26.5%〔ただし、6月29日(最高気温29.1℃時)に料金変動させない(ダイナミックプライシングを適用しない)グループとの電力使用量の増減を比較した場合の効果〕
のような効果(TOU効果)があった。
また、北九州市が記者会見で発表した2012年夏のピーク時間帯のピークカット効果(デマンドレスポンスの効果)を図5に示す。
図5 北九州市のピークカット効果:18~22%
〔出所 「北九州市における変動型CPP社会実証 ─2012年度夏期評価結果─」、2012年11月29日、京都大学 依田高典教授、政策研究大学院大学 田中誠准教授、スタンフォード大学経済政策研究所 伊藤公一朗研究員、http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000128666.pdf 〕
図4に示すように、電力がひっ迫する時間帯(13~16時)で電気料金を変動させる今回の北九州の変動型CPP(v-CPP:変動型クリティカルピークカット。図4のレベル1~レベル5の変動)の社会実証では、v-CPP効果として図5の表の上の欄に示すように、9.0~13.1%の効果があった。
これに、2011年に東京電力管内でのスマートメーター社会実証で得られたピークカット効果(TOU)の9.1%を加えて補正すると、北九州市でのv-CPPのトータルのピークカット効果は、18.1~22.2%であったとみなすことができる。
実証試験を踏まえた今後の展開
北九州コミュニティの今後の展開については、経済産業省から、実証実験の成果をどのように普及させるのか、CEMS〔地域エネルギー管理システム(地域節電所)〕は誰が扱いどのように売っていくのか、ということに対して、きちんとマネージメントして、マーケティングプロモーションを展開するとの方針が出された。
そのため、横浜市(東芝)、豊田市(トヨタ自動車)、けいはんな学研都市(三菱重工業)、北九州市(富士電機)の4地域から、( )内に示した各社がプロジェクトマネジャーとして選任された。
具体的には、工業化や都市化が進んでいるアジア諸国(ASEAN)をはじめとする海外市場でのビジネス展開や、国内では東北地区のいわゆる町の復興に対して4地域のスマートコミュニティの実証の経験をどう展開していくかなども含め、広い視野に立った視点から積極的な活動が展開され始めている。(終わり)
▼ 注5
TOU:Time-of-Use Rate、時間帯別料金。電力料金を地域の電力需給の状況(時間帯)に応じて変更する料金方式。変動型クリティカルピークプライシング(v-CPP:variable-Critical Peak Pricing)とも言われる。