[特集]

北九州スマートコミュニティにおけるデマンドレスポンスの実践的展開─後編─

─次世代都市を制御するCEMS(地域節電所)が活躍!─
2013/04/01
(月)
SmartGridニューズレター編集部

北九州コミュニティの実証試験とスマートメーター

北九州コミュニティの実証試験に富士電機が設置したスマートメーターの特長を見てみると、

(1)日本で最初に920 MHz帯のマルチホップ通信を使用したこと。

(2)そのマルチホップ通信を使いながら電気料金のテーブル(電気料金表)を、各宅内表示器に送信していること。

(3)宅内表示器とスマートメーター間(いわゆるBルート)のデータ更新を1分に1回というように頻繁に行っていること。

このように電気料金表までも家庭に送っているのは、世界でも初めての試みとなっている。

また、この実証実験で大きな特徴のひとつは、宅内表示器とスマートメーター間の通信でデータ更新を「1分に1回」行っていることである。

北九州の実証試験では、デマンドレスポンスを230世帯の各戸の協力によって省エネを実現しているが、例えば、真夏に「エアコンを切りました」といって、30分後に宅内表示器の値が減ってもその効果をリアルタイムに感じることができない。

そこで、1分値(1分に1回の更新)としたのである。当初は1分値にすると通信のトラフィックが大きくなるのではないかという懸念もあった。しかし、1分値にしたため、主婦がエアコンを切ると、1分後には電力量が減った(効果があった)ことが実感できるようになった。

現在、このスマートメーターの1分値のデータは、屋外(Aルート)に送信せず屋内に閉じている。一方、屋外の通信は基本的に、マルチホップ方式で30分値で行っている。

AMIにおけるコンセントレータの役割

次に、スマートグリッドの通信基盤(AMI:Advanced Metering Infrastructure)のひとつである、電力会社とスマートメーター間に設置されるコンセントレータの役割について説明しよう。コンセントレータとは、各戸からのデータの集約装置のことである。

〔1〕コンセントレータは必要か

まず、コンセントレータが「必要か、必要でないか」という問題から考えてみよう。結論から言うと、コンセントレータは必要である。なぜならば、コンセントレータなしにAMIを構築することは難しいからである。

その理由は、その地域の各戸からの電力使用量のデータを、スマートメーターを経由して、ある単位(例えば数十台あるいは数百台)でまとめてコンセントレータに送って集約し、その後、電力会社あるいはCEMS(センター)へ送信するような仕組みになっている。しかし、もしコンセントレータがないと、例えば1個のスマートメーターごとに光ファイバの回線を敷設する、あるいは例えば920MHzのマルチホップ通信ではなく、移動通信の携帯用モジュール(3GのWCDMAや4GのLTE)をスマートメーターに内蔵して、直接、電力会社あるいはCEMS(センター)とスマートメーターを接続する形態となる。

〔2〕920MHz帯のマルチホップ通信を選択した理由

北九州の実証実験で、今回、920MHz帯のマルチホップの通信を選択したのは、920MHz帯の特定小電力無線であれば免許が不要なことと、特定小電力無線システムがそれほど高価ではなく、ランニングコストを抑えられるからである。

一方、例えばスマートメーターに3Gや4Gの携帯通信用モジュールを入れてしまうと、その通信モジュールのコストがかなり高くなることに加え、通信料金も使ったパケット量に応じて取られるので、ランニングコストが高くなる。

一方、通信事業者(キャリア)ボリューム・ディスカウントで安く提供するようになれば、今後、広まっていく可能性はある。例えば、東京電力のように2700万個のものスマートメーターを設置するほどの大きな市場の場合であれば、通信事業者も信用モジュールや通信料金を安く提供できる可能性はある。しかし、北九州の実証試験のように230世帯ほどの小規模の場合、通信料金は普通の携帯電話料金と変わらない。

〔3〕無線マルチホップ通信と「10年問題」

また、今回、北九州の実証試験を行っている東田地区では、旧式の機械式(アナログ)電力メーターを一斉に取り外して、すべてデジタルのスマートメーターと交換できたことによって、無線マルチホップ通信が可能となった(図2)。

図2 マルチホップ通信を採用したスマートメーターシステムのイメージ

図2  マルチホップ通信を採用したスマートメーターシステムのイメージ

〔出所 北九州スマートコミュニティ創造事業 北九州市環境局環境未来都市推進室、http://www.tokugikon.jp/gikonshi/265/265tokusyut5.pdf

ところが、通常の市場の場合、各家庭には円盤が回転する機械式のメーターが設置されていたり、通信機能をもたない電子式メーターが設置されていたりする。それらの電力メーターを、新型の双方向通信機をもったスマートメーターに取り替えようとすると、電力メーターが検定満了になっていないため交換できない。

電力メーターは低圧(100V/200V)の場合、計量法の有効期間は10年と定められている。したがって、10年の満了を迎えるごとにメーターを取り替えるが、すべてのメーターが同時に満了を迎えるわけではない。もし隣の電力メーターが機械式の場合は無線が飛ばせないため、マルチホップ通信はできないことになる。このことは、一般に「10年問題」と言われている。

すなわち、現在(新築した人はまだ旧型の電力メーターが設置される)から10年経たないとすべてがスマートメーターにならないため、全戸が参加するマルチホップ通信は構築できない。そうすると、10年間も待たなければならないことになる。そのような事情があるため、その間の検針員の人件費を含めて考慮すると、マルチホップ通信ではなく、最初から3Gや4Gの携帯電話の通信方式を採用したほうが経済的という考え方もゼロではない。

また、通信の技術革新のテンポは非常に速く、あっという間に3G(WCDMA)から4G(LTE)へと進化してしまった。そのようなことを考慮すると、一度、920MHz帯のマルチホップの通信で固定してスマートメーターを設定してしまうと、通信技術に技術革新があってもそれを変更するのは結構大変なことになる。つまり、ホップ先のスマートメーターの通信が違う通信方式になってしまうとホップできなくなる。

そうすると、技術革新があってもそれをスマートメーターの通信として採用することが難しいため、通信方式は同じ方式と互換を保ちながら普及させなくてはならない、という難しい問題に直面する。このようなことを考慮すると、今後の技術の進展を考えた場合に、マルチホップ通信は果たして得策なのかどうか、ということも議論していく必要が出てくる。

〔4〕日本におけるPLC(電力線通信)の課題

一方、有線のPLC(Power Line Communication)方式の場合、有効な通信方式ではあるが、一般のPLCの場合は、例えば東京電力管内の高圧の6600Vのトランス(電柱の上に設置されたグレー色のトランス)の場合、6600Vから100Vか200Vに電圧を落として、1個のトランス当たり大体8軒ぐらいに配電線を通して配電している。

トランスには絶縁油が入っているため、配電線を経由してスマートメーターからトランスに届いたPLC信号は、通常、遮断されてトランスを越えることができない。そこで、トランスを越えられるように、信号の強度を上げる(増幅する)ために、トランスにアンプ(増幅器)を付ける必要が出てくる。しかし、トランスごとにアンプ付けるとなると、コストが上がってしまう。この問題を解決するため、トランスを容易に越えるPLC通信については、各社で研究開発が行われている。

〔5〕欧州は基本的にはPLC通信方式

PLC通信については欧州での導入が活発である。

欧州は日本と違い、基本的には電力メーターは家の中に設置されていて、柱上トランスから家の中の電力メーター間にPLC方式で通信が行われている。また、柱上トランス(11kVを低圧100V/200Vに変換)部分にコンセントレータを設置し、ここから3Gを使用して通信キャリアを経由して電力料金などのデータを送信している。

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