[急浮上する高速/低速PLC標準規格の 最新動向]

急浮上する高速/低速PLC標準規格の最新動向 ─前編─

─ECHONET LiteとTTCの「実装ガイドライン」をベースに─
2013/04/01
(月)

スマートグリッド(スマートハウス)に関するHEMS の標準インタフェースとして上位層のECHONET Lite(5~ 7層)が決められたものの、下位層(1~ 4層)の伝送メディアの規定がないため、相互接続性が保証されず互換性のない製品が出回る可能性が出てきた。これに対処するため、TTC は「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」を策定し、公開した。ここでは、このガイドラインの概要を見ながら、急速に注目され、大幅な見直しが行われているITU-T G.nbplc 規格やIEEE P1901.2 規格をはじめG3-PLCやPRIME などを含む、高速/低速PLC(電力線通信)などの伝送メディアに注目し、その最新動向を整理して解説する。

標準インタフェースECHONET Liteの特徴

ECHONET Lite(エコーネットライト)は、スマートハウス(スマートグリッド)構築向けのインタフェース規格として、ECHONETコンソーシアムによって策定され一般公開された仕様であり、すでに広く普及し始めている注1。このECHONET Lite仕様は、経済産業省やメーカーの協議体であるJSCA(スマートコミュニティ・アライアンス)のスマートハウス標準化検討会において、HEMS/スマートメーター間の標準インタフェースとして推奨することが、2011年12月16日に承認された。

ECHONET Lite仕様の詳細については、表1に示す案内やその他を参照していただくとして、ECHONET Liteの特徴を大まかに整理すると次のとおりである。

表1 ECHONET Liteおよび基本解説、実装ガイドラインの案内

表1  ECHONET Liteおよび基本解説、実装ガイドラインの案内

(1)ECHONET Liteは、従来のECHONET規格を大幅に軽装化したことによって、メモリ等の容量が少ない白物家電やセンサー類、設備系機器にも搭載可能となったこと。

(2)オープンなIP(インターネットプロトコル)対応になったこと。

(4)既存のECHONETプロトコル搭載機器とも共存できること。

(5)ECHONET Liteでは、トランスポート層(4層)以下の下位レイヤ(レイヤ1~4)の規定を外して、高位レイヤの通信処理部(5〜7層)だけの仕様としたこと。

(6)環境や機能要件によって、自由に伝送メディアを選択できること(ECHONETでは個別に伝送メディアが規定されていた)。

(7)今後、IEC TC57 WG21注2で審議され、国際標準化が予定されていること。

なお、ECHONET Liteの一般公開とともに、スマートハウス/再生可能エネルギー時代に対応して、家庭の太陽光発電や蓄電池(電気自動車)、燃料電池等の新しいECHONET機器オブジェクトが追加され、ECHONET機器オブジェクト詳細規定注3も一般公開された。

ECHONET Liteの課題解決:実装ガイドラインの策定と公開

しかし、前述の(5)で述べたように、ECHONET Liteでは、従来のECHONET規格で伝送メディア(伝送媒体)ごとに詳細に決められていたトランスポート層(4層)以下の規定を外して、上位層の通信処理部(5〜7層)だけのプロトコル仕様としたため、下位層(1~4層)における相互接続性を保証する規定がなくなってしまった(図1)。

図1 TTC「ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン(TR-1043)の対象

図1  TTC「ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン(TR-1043)の対象

〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン 第2.1版」〕

図2 TTC技術レポート「TR-1043」第2.1版の表紙の一部

図2  TTC技術レポート「TR-1043」第2.1版の表紙の一部

〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン 第2.1版」(2013年2月26日制定、第1版は2012年11月6日制定)、 http://www.ttc.or.jp/jp/document_list/pdf/j/TR/TR-1043v2.1.pdf

そこで、複数の互換性のない製品が出回らないように、総務省傘下の「新世代ネットワーク推進フォーラム」(2007年10月設立)のIPネットワークWGレジデンシャルICT SWG〔リーダー:丹康雄教授(JAIST/NICT)注4〕において「ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」原案が作成された。その後、この原案は、TTCの次世代ホームネットワークシステム専門委員会〔委員長:伊藤昌幸氏(NTT)〕における審議を経て、2012年11月6日にTTC技術レポート「TR-1043」第1版として制定され、公開されたのである(現在は第2.1版、図2)注5

この公開された、「TR-1043:ホームネットワーク通信インタフェース 実装ガイドラインを図式化し、まとめたものが、図3に示すECHONET Liteと各種伝送方式のプロトコル構成である。図3は、有線/無線問わず、大きく次のように分類できる。

(1)1~4層(UDP)の上でECHONET Liteを動作させるもの(Ethernetから、IEEE 802.15.4/4e/4gの一部に至る大半の伝送メディア)。

(2)1~2層(データリンク層)の上でECHONET Liteを動作させるもの(右端のIEEE 802.15.4/4e/4gの一部を対象とする伝送メディア)。

(3)3層に、6LowPAN(アダプテーション層)注6を使用する伝送メディア〔G.

9903(G3-PLC)、IEEE 802.15.4/4e/4gの一部〕。

図3に示した有線/無線の伝送方式で、実装ガイドラインに盛り込まれた方式を、より具体的に整理したものを、表2と表3-1に示す。表2と表3-1の中でこの「実装ガイドライン」に盛り込まれなかった方式は、標準化の作業中あるいは新しい機能(例:6LowPAN)を追加中などの場合である。なお、表3-1の補足として、表3-2に、2013年2月21日に策定された920MHz帯無線に関するTTC標準「JJ-300.10」〔ECHONET Lite向けホームネットワーク通信インタフェース(IEEE802.15.4/4g/4e 920MHz帯無線)〕の方式A、方式B、方式Cの内容を示す。

表2 各種伝送方式(有線)の標準化状況

表2  各種伝送方式(有線)の標準化状況

〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」第2.1版〕

表3-1 各種伝送方式(無線)の標準化状況

表3-1  各種伝送方式(無線)の標準化状況

〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」第2.1版〕

表3-2 新しく策定されたTTC標準「JJ-300.10」の内容

表3-2  新しく策定されたTTC標準「JJ-300.10」の内容

〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」第2.1版〕

ここでは図3のうち、標準規格の大幅な改訂があり、最近急速に注目されている、

(1)ITU-TにおけるG.hn(高速)やG.nbplc(低速)

(2)IEEEにおけるIEEE 1901(高速)やIEEE P1901.2(低速)

などの高速PLCや低速PLCに焦点を当てて、その最新動向を解説しよう。

図3 ECHONET Liteと各種伝送方式のプロトコル構成

図3  ECHONET Liteと各種伝送方式のプロトコル構成

〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース 実装ガイドライン 第2.1版」〕


▼ 注1
2011年6月30日にコンソーシアム会員内公開され、その後、2011年12月21日に一般公開された。また、2012年5月5日に最新版のバージョン1.01が一般公開されている。

▼ 注2
IEC TC 57:POWER SYSTEMS management and associated information exchange、「電力システム管理および関連する情報交換
に関する技術委員会。
WG 21:Interfaces and protocol profiles relevant to systems connected to the electrical grid、「送電網に接続されたシステムに関連するインタフェースおよびプロトコルプロファイル」の策定を担当するワーキンググループ。

▼ 注3
機器オブジェクト:ECHONET/ECHONET Liteが対象とする機器のこと。これまで、家庭で使用される機器(オブジェクト)は、電気を使う機器(エネルギーを使う機器)すなわち「省エネ機器」が主であったのに対し、スマートハウスでは、電気を発電する太陽光発電や燃料電池、あるいは電気を貯める蓄電池などの、「創エネ機器」「畜エネ機器」が導入・設置されるため、これらを含めた機器オブジェクトが追加された。
http://www.echonet.gr.jp/spec/pdf_spec_app_b/SpecAppendixB.pdf

▼ 注4
JAIST:北陸先端科学技術大学院大学
NICT:National Institute of Information and Communications Technology、独立行政法人情報通信研究機構

▼ 注5
TTC(ホームネットワーク)⇒http://www.ttc.or.jp/cgi/document-db/

▼ 注6
6LowPAN:IPv6 over Low power WPAN(Wireless Personal Area Network)、低消費電力型の近距離無線通信環境で動作するIPv6技術。
アダプテーション層:適合層。通常のインターネットでは、1500バイトやそれ以上のパケットサイズで通信している。しかし、例えばZigBeeネットワーク環境(非力な省電力環境)では、基本的に127バイトと小さなパケットサイズでしか通信できない。そのため、1500 バイトのIPv6 パケットをそのまま送受信することは不可能ある。これを解決するためIPv6技術を拡張し、IPv6パケットを127バイト単位に小さく分割するなど工夫し、パケットを効率的に送受信するプロトコルとして、IETFが策定したのが、アダプテーション層としての6LoWPANというプロトコルである。

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