標準インタフェースECHONET Liteの特徴
ECHONET Lite(エコーネットライト)は、スマートハウス(スマートグリッド)構築向けのインタフェース規格として、ECHONETコンソーシアムによって策定され一般公開された仕様であり、すでに広く普及し始めている注1。このECHONET Lite仕様は、経済産業省やメーカーの協議体であるJSCA(スマートコミュニティ・アライアンス)のスマートハウス標準化検討会において、HEMS/スマートメーター間の標準インタフェースとして推奨することが、2011年12月16日に承認された。
ECHONET Lite仕様の詳細については、表1に示す案内やその他を参照していただくとして、ECHONET Liteの特徴を大まかに整理すると次のとおりである。
表1 ECHONET Liteおよび基本解説、実装ガイドラインの案内
(1)ECHONET Liteは、従来のECHONET規格を大幅に軽装化したことによって、メモリ等の容量が少ない白物家電やセンサー類、設備系機器にも搭載可能となったこと。
(2)オープンなIP(インターネットプロトコル)対応になったこと。
(4)既存のECHONETプロトコル搭載機器とも共存できること。
(5)ECHONET Liteでは、トランスポート層(4層)以下の下位レイヤ(レイヤ1~4)の規定を外して、高位レイヤの通信処理部(5〜7層)だけの仕様としたこと。
(6)環境や機能要件によって、自由に伝送メディアを選択できること(ECHONETでは個別に伝送メディアが規定されていた)。
(7)今後、IEC TC57 WG21注2で審議され、国際標準化が予定されていること。
なお、ECHONET Liteの一般公開とともに、スマートハウス/再生可能エネルギー時代に対応して、家庭の太陽光発電や蓄電池(電気自動車)、燃料電池等の新しいECHONET機器オブジェクトが追加され、ECHONET機器オブジェクト詳細規定注3も一般公開された。
ECHONET Liteの課題解決:実装ガイドラインの策定と公開
しかし、前述の(5)で述べたように、ECHONET Liteでは、従来のECHONET規格で伝送メディア(伝送媒体)ごとに詳細に決められていたトランスポート層(4層)以下の規定を外して、上位層の通信処理部(5〜7層)だけのプロトコル仕様としたため、下位層(1~4層)における相互接続性を保証する規定がなくなってしまった(図1)。
図1 TTC「ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン(TR-1043)の対象
〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン 第2.1版」〕
図2 TTC技術レポート「TR-1043」第2.1版の表紙の一部
〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン 第2.1版」(2013年2月26日制定、第1版は2012年11月6日制定)、 http://www.ttc.or.jp/jp/document_list/pdf/j/TR/TR-1043v2.1.pdf 〕
そこで、複数の互換性のない製品が出回らないように、総務省傘下の「新世代ネットワーク推進フォーラム」(2007年10月設立)のIPネットワークWGレジデンシャルICT SWG〔リーダー:丹康雄教授(JAIST/NICT)注4〕において「ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」原案が作成された。その後、この原案は、TTCの次世代ホームネットワークシステム専門委員会〔委員長:伊藤昌幸氏(NTT)〕における審議を経て、2012年11月6日にTTC技術レポート「TR-1043」第1版として制定され、公開されたのである(現在は第2.1版、図2)注5。
この公開された、「TR-1043:ホームネットワーク通信インタフェース 実装ガイドラインを図式化し、まとめたものが、図3に示すECHONET Liteと各種伝送方式のプロトコル構成である。図3は、有線/無線問わず、大きく次のように分類できる。
(1)1~4層(UDP)の上でECHONET Liteを動作させるもの(Ethernetから、IEEE 802.15.4/4e/4gの一部に至る大半の伝送メディア)。
(2)1~2層(データリンク層)の上でECHONET Liteを動作させるもの(右端のIEEE 802.15.4/4e/4gの一部を対象とする伝送メディア)。
(3)3層に、6LowPAN(アダプテーション層)注6を使用する伝送メディア〔G.
9903(G3-PLC)、IEEE 802.15.4/4e/4gの一部〕。
図3に示した有線/無線の伝送方式で、実装ガイドラインに盛り込まれた方式を、より具体的に整理したものを、表2と表3-1に示す。表2と表3-1の中でこの「実装ガイドライン」に盛り込まれなかった方式は、標準化の作業中あるいは新しい機能(例:6LowPAN)を追加中などの場合である。なお、表3-1の補足として、表3-2に、2013年2月21日に策定された920MHz帯無線に関するTTC標準「JJ-300.10」〔ECHONET Lite向けホームネットワーク通信インタフェース(IEEE802.15.4/4g/4e 920MHz帯無線)〕の方式A、方式B、方式Cの内容を示す。
表2 各種伝送方式(有線)の標準化状況
〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」第2.1版〕
表3-1 各種伝送方式(無線)の標準化状況
〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」第2.1版〕
表3-2 新しく策定されたTTC標準「JJ-300.10」の内容
〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース実装ガイドライン」第2.1版〕
ここでは図3のうち、標準規格の大幅な改訂があり、最近急速に注目されている、
(1)ITU-TにおけるG.hn(高速)やG.nbplc(低速)
(2)IEEEにおけるIEEE 1901(高速)やIEEE P1901.2(低速)
などの高速PLCや低速PLCに焦点を当てて、その最新動向を解説しよう。
図3 ECHONET Liteと各種伝送方式のプロトコル構成
〔出所 TTC技術レポート、「TR-1043 ホームネットワーク通信インタフェース 実装ガイドライン 第2.1版」〕
▼ 注1
2011年6月30日にコンソーシアム会員内公開され、その後、2011年12月21日に一般公開された。また、2012年5月5日に最新版のバージョン1.01が一般公開されている。
▼ 注2
IEC TC 57:POWER SYSTEMS management and associated information exchange、「電力システム管理および関連する情報交換
に関する技術委員会。
WG 21:Interfaces and protocol profiles relevant to systems connected to the electrical grid、「送電網に接続されたシステムに関連するインタフェースおよびプロトコルプロファイル」の策定を担当するワーキンググループ。
▼ 注3
機器オブジェクト:ECHONET/ECHONET Liteが対象とする機器のこと。これまで、家庭で使用される機器(オブジェクト)は、電気を使う機器(エネルギーを使う機器)すなわち「省エネ機器」が主であったのに対し、スマートハウスでは、電気を発電する太陽光発電や燃料電池、あるいは電気を貯める蓄電池などの、「創エネ機器」「畜エネ機器」が導入・設置されるため、これらを含めた機器オブジェクトが追加された。
http://www.echonet.gr.jp/spec/pdf_spec_app_b/SpecAppendixB.pdf
▼ 注4
JAIST:北陸先端科学技術大学院大学
NICT:National Institute of Information and Communications Technology、独立行政法人情報通信研究機構
▼ 注5
TTC(ホームネットワーク)⇒http://www.ttc.or.jp/cgi/document-db/
▼ 注6
6LowPAN:IPv6 over Low power WPAN(Wireless Personal Area Network)、低消費電力型の近距離無線通信環境で動作するIPv6技術。
アダプテーション層:適合層。通常のインターネットでは、1500バイトやそれ以上のパケットサイズで通信している。しかし、例えばZigBeeネットワーク環境(非力な省電力環境)では、基本的に127バイトと小さなパケットサイズでしか通信できない。そのため、1500 バイトのIPv6 パケットをそのまま送受信することは不可能ある。これを解決するためIPv6技術を拡張し、IPv6パケットを127バイト単位に小さく分割するなど工夫し、パケットを効率的に送受信するプロトコルとして、IETFが策定したのが、アダプテーション層としての6LoWPANというプロトコルである。