[スマートグリッドの実像に迫る!]

スマートグリッドの実像に迫る!

─ 第7回(最終回)  スマートグリッドが目指す新電力システム ─
2013/08/01
(木)

海外では電力の自由化や送配電の分離はすでに完了

〔1〕ドイツにおける水平統合の体験

ここで参考のために、海外(ドイツ)の電力の自由化、送配電の分離について、筆者の体験を簡単に紹介しよう。

本連載の2013年3月号にも述べたように、私自身は若い頃にドイツにいたことがあるということもあって、現在日本で話題となっている、電力網の送配電分離の問題や電力の自由化の問題などの、水平統合〔発電と送電/配電、小売をそれぞれ分離(別会社化)すること〕に対してあまり抵抗がない。当時のドイツの電力システムは、すでにほとんど水平に近いような電力システムになっていたからである。

いわゆる「発電は発電会社」、「ネットワークはネットワーク(送電網/配電網)会社」、電力の「小売は小売会社」というように、発送電分離、電力の自由化がすでに明確になっていた。このような体験を通して、当時、電力のネットワークシステムそのものの運営という観点からすると、これらの課題はそんなに難しいことではないと感じられた。

ただし、各国における歴史的な背景としてある、そこに住んでいる人たちの文化や社会の成り立ちとしての歴史については、これは急速に変えてしまうと、いろいろな点でそご(齟齬、行き違い)を起こすというのは、間違いない事実であるため、そこをどのように調整するのかが課題である。

〔2〕水平あるいは垂直以外のシステムの模索

したがって、電力システムのネットワークの中で、「水平統合がよい」あるいは「垂直統合のほうがよい」ということに関してはコメントする立場にないが、それぞれのシステムの「良さ」があるのは事実である。これらの良さをそれなりに生かしながら、第3のシステムがあるかもしれない。したがって、単純に水平だとか垂直だとかいう議論だけではなくて、もう1つきちっとした議論が必要なのではないか。すなわち、電力の発電の仕組みも変わってきているわけであるから、そこは、1(水平統合)、0(垂直統合)という世界で検討するのではなく、0.5とは言わないが、もう1種類ぐらいのシステムがあるかもしれないのである。

先ほども述べたように、電力システムそのものは生き物であり、技術革新で改良が重ねられているわけであるから、それに合った新しい電力システムを次のステップとして考え出すということが、どうしても必要なことなのである。

通信事業者のNTTの民営化と電力事業者の民営化

通信事業者のNTTは1985年に民営化され、その後30年近く経過している。この間、通信の自由化が推進され、ユーザーは、NTTドコモからも、KDDIからも、ソフトバンク・モバイルからも自由に端末の契約を行えるようになった。

一方、電力の現状は、第2次世界大戦(1939〜1945年)後の1951年、日本発送電注3が分割・民営化されて9電力会社〔北海道、東北、東京(関東)、中部、北陸、関西、中国、四国、九州〕が誕生し、発送電一体型の地域独占体制が確立した。沖縄復帰に伴って1972年に発足した沖縄電力を加え、現在の10電力体制となっている。

1951年5月に始まった地域独占体制によって、現在、東京の在住者は、モバイル端末と違って、電力については東京電力のみとしか契約できない。しかし、電力が自由化されると、東京の在住者は必ずしも東京電力と電力の契約をしなくても、他の電力会社などから自由に電力を買えるようになる。また、太陽光発電あるいは風力発電で運営している新規電力事業者からも電力を買えるようにもなり、ユーザー側の電力事業者の選択の幅は、大きくなるのである。

スマートグリッドの目的と評価

スマートグリッドの構築には、「目的」と構築のための「投資効果を評価」する必要があると考えている。

まず大きな見方では、地球温暖化対策の1つとして取り組んでいる、地球資源の効率的かつ効果的な使用を目的とした低炭素社会の実現がある。主要各国は現在、目標値に向けて諸策に取り組んでいるが、このことは将来にわたる資源の枯渇を評価することになり、この観点からの投資評価も可能となる。

もう1つの見方としては、各国のスマートグリッドの構築の目的が異なるなか、日本は世界でも最高水準と言ってよい低炭素社会の実現のため、再生可能エネルギーを導入するための電力ネットワークを構築することが大きな目的となっている。この目的実現のための投資効果も評価する必要がある。

このための1つの案として、

① 「1日の需要曲線の負荷率」(最大需要kW/供給設備能力kW)を毎年設定し、デンマンドレスポンスなどの仕組みを構築・稼働することにより、電力ネットワークの稼働率向上を図り、その投資を抑制する。

② 「一需要家当たりの停電時間・回数」の目標値を設定し、①による電力ネットワークへの投資抑制による供給信頼度低下限度(停電時間・回数が増加しないように管理すること)を確保する。

などが考えられる。これら2点を評価するだけでも、電力システムがどのような状況にあるか、またサービスレベルについてもある程度評価することが可能となる。

電力システムをシステム評価する方法として、電力会社は、かねてからいろいろな観点からのデータを取っている。このほかにもいろいろと評価方法はあるが、国策民営的なスマートグリッドの投資が始まる前に、電気エネルギーを基盤としている社会システムとして、国民に対してわかりやすい「目的」と「評価方法」についての議論は必要になっている。


▼ 注3
日本発送電株式会社:1939年(昭和14年)から1951年(昭和26年)までの間に存在した日本の電力事業を司った特殊法人。

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