[スマートグリッドの実像に迫る!]

スマートグリッドの実像に迫る!

─ 第7回(最終回)  スマートグリッドが目指す新電力システム ─
2013/08/01
(木)

スマートグリッドによる新ビジネスの国際展開

〔1〕スマートグリッドは技術的な議論だけではできない

最後に、これからスマートグリッドなどを勉強しようとする方々に一言申し上げておきたい。

まず、先ほども述べたように、「電力システムの全体を見渡すこと」が重要である。つまり、スマートグリッドは、電気や通信の技術的な議論だけでは、実現できないということである。

そこに住んでいる人たちのこれからの生活のあり方、例えば再生可能エネルギー(自然エネルギー)の利用も普及する、直流と交流も含めた送電方式の多様化など、今後、現在とは違うものも家庭に入ってくる。そのため、大きな意味でシステム的な考え方をもち、個々の技術はもちろんのこと、それなりの知識をもつ必要がある。すなわち、通信の知識も電力の知識も必要であり、さらに、それぞれの技術を実現している基本となる半導体(エレクトロニクス)やソフトウェアなどの知識も求められる。

〔2〕スマートグリッドを日本としてどう取り組むか

さらにスマートグリッドにおいては、そのようなシステム的な考え方も必要であるが、「日本が国としてどのような方向で取り組もうとしているか」「海外では、今、どのような取り組みが行われているのか」にも関心をもつ必要がある。例えば今、米国でのスマートグリッドは、通信会社がイニシアチブを握りつつある。あるいは欧州では、2010年6月、欧州電力網イニシアチブ(EEIG:European Electricity Grid Initiative)が設立され、EU参加国(クロアチアを含めて28の参加国)が結束して、スマートコミュニティの開発普及に向けて積極的に取り組んでいるという事実もある。

このような事実も含め、世界ではいろいろなことが起きている。そのため、このような国際的な動向も勉強する必要がある。スマートグリッドは、エネルギーの有効活用を目指して登場したユーティリティーシステム(電気・ガス・水道システム)であり、地球の温暖化を抑制する重要な技術でもある。現在、日本で世界最大規模の東京電力のスマートグリッドシステムの構築が開始され、2014年度から一般家庭にスマートメーターの導入が開始されようとしている。これらも含めて、次世代の新しいエネルギーシステム「スマートグリッド」には大きな期待が寄せられており、新しいビジネスが国際的に展開され始めたのである。

これから求められる電力システム

〔1〕生活インフラとして130年の歴史をもつ電力システム

電力システムは生活インフラとして、130年の歴史を刻んできた。もちろん電気事業が開始された明治初期ではインフラ事業ではなく、民間企業家が欧米での最先端技術を活用した新事業を日本でも興すという、野心にあふれ夢と希望をもって取り組んだ事業に違いない。

この日本の電気事業は、エジソンが世界ではじめて米国ウィスコンシン州で1881年に起業してから、わずか2年後のことである。そして発足してわずか10年後には、全国の主要都市に拡大した。

当初の電力システムは、

  1. 火力電源
  2. 直流送電
  3. 一発電所一需要区域

という孤立システムで運営していた。

その後、電力設備の使用時間を平準化することで設備投資効果を向上するために、散在していた発電所を集中立地〔1893(明治26)年、浅草火力発電所建設に着手〕し、このとき一部交流送電を採用したのが電力交流ネットワークの始まりと聞いている。

発電システムの燃料別の発電方式をみると、火力に始まり明治20年代から水力開発が進み、1959(昭和34)年には大型火力が主体となり、昭和40年代には原子力が始まった。

さらに、2011年3月11日に発生した東日本大震災後は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度で、メガソーラーや風力発電が始まった。

〔2〕文化や生活様式を踏まえた、安全で安定した電力供給を

この発電方式の変化や需要の急増に追従するように、電力システムも大きく変化してきた。とくに電力需要が大きくなることにより、送電電圧が上昇し、これに伴う電力システムの技術開発分野は大きく広がりをみせた。もちろん電力システムは電気の使い方からも、「停電時間・回数」など品質向上で進化し続けている。

このように電力システムは、それぞれの民族の長い歴史のなかで、生活様式も含めたさまざまな文化のなかで変化し、社会システムからの要求とともに歩み続けてきた。

近年、通信インフラが充実したことにより、需要家(消費者)は電気使用量をリアルタイムで見ることができ、デマンド(需要)を制御することも可能となりつつある。まさに電力システムは需要家設備をも含めた、拡大したネットワークとなった。

今までそしてこれからも、文化を踏まえ生活のなかで電気を安全に、安定して使い続けられるよう、これから歩むべき道を見通しながら電力ネットワークを変化させ、進化させるべきだと考えている。

(終わり)

◎Profile

勝又 淳旺(かつまた あつおう)

勝又 淳旺(かつまた あつおう)

東光電気株式会社 顧問

1972年4月 東京電力入社
1977年4月 本店技術部〔基幹系統計画・UHV(1000kV)送電技術開発〕
1981年7月 本店工務部(275kV500kV・XLPEケーブル開発)
1983年9月 ドイツ電気事業連合会派遣
1991年7月 本店工務部 施設業務課長(地方系統計画・流通設備管理総括)
1993年7月 本店工務部 副部長 兼 本店首都圏部
1998年7月 本店工務部 部長代理
1999年6月 東京東支店 上野支社長
2001年9月 パワードコム出向
2003年6月 執行役員 本店光ネットワーク・カンパニー・プレジデント(東京電力の通信事業会社)
2006年6月 東光電気 常務取締役
2007年6月 同社 代表取締役 専務取締役
2012年6月 同社 顧問、現在に至る

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