[スペシャルインタビュー]

開発スピードを10倍に向上させたM2M/IoTの新サービスモデルとビジネス展開

―「ThingWorx」のノンプログラミング開発プラットフォーム ―
2014/04/01
(火)

NSW社のM2Mクラウドサービス「Toami」(トアミ)との関係

Daisuke Takemura

─編集部:日本システムウエア(NSW、東京・渋谷区)社と2013年5月にM2Mソリューションおよびサポートに関してパートナー契約を結ばれましたが、きっかけは何ですか?

竹村:NSWは、M2M/IoTに関する開発や案件については、以前から携わっていました。NSWの事業形態はシステムインテグレータとしては珍しいのですが、

  1. ITソリューション(システム開発・構築・運用)
  2. プロダクトソリューション(組込み開発、デバイス開発)

の2本柱で行っていて、今年で49年目になります。

これまでデバイス開発とシステム開発はなかなか融合しなかったのですが、2010年の少し前からM2Mという分野において、非常に融合性が出てきたのです。

これまでは、例えば自動販売機などで個別に開発などを行ってきましたが、2012年くらいからアプリケーション開発のために毎回独自に作成するプラットフォームに莫大なコストがかかるため、M2Mプラットフォームを共通基盤化して提供することができないかと考えるようになったのです。

当社が共通基盤としてのM2Mプラットフォームに必要と考える条件は3つありました。1つ目はコストで、これには開発費用だけでなく開発の効率も含まれます。ビジネスのスピードは非常に速く、システム開発が1〜2年かかるとビジネスは待ってくれない。したがって、可能な限り短期間に導入でき、なおかつスモールスタートが可能なコスト構造のプラットフォームが必要だったのです。

2つ目は、デバイスへの組み込みが容易であること。M2Mの分野で最も大変なことはデバイスの制御なのです。ITベンダにとっては、デバイスやセンサーなどの特化されたハードウェアは未知の領域で、システムへの組み込みは容易ではないので、これらを簡単に組み込んでプラットフォームに接続できるような仕組みが必要でした。

最後は、非常に重要なことですが、データとアプリケーションの分離です。M2Mの場合、あるいはビッグデータを扱う場合には、データは永続的に収集し、処理し続けることが要求されます。ところが、それを実現するアプリケーションは、クライアントである事業主の要求に応じて変更していかなくてはならないのです。従来のITシステムでは、データベースとアプリケーションはシームレスに連携していて、アプリケーションを入れ替える場合はデータ構造やスケールのスキーマを変える必要が出てきたのです。しかし、M2Mやビッグデータの世界ではそのようなことは許されないのです。データとアプリケーションは互いに依存しないように分離させることが必須なのです。

このように、M2Mのビジネスには効率よくアプリケーションを開発するためのプラットフォームが必要だったのです。当初はプラットフォームを自社開発しようとも考えましたが、国内外のさまざまなプラットフォーマーを調査した結果、非常に優秀なプラットフォームが見つかった。それがThing Worx社のプラットフォームだったのです。先の3つの条件にも合致していました。

─編集部:御社のM2Mサービス「Toami」について教えください。

竹村:当社では、2013年5月よりThingWorxのプラットフォームを使ったM2Mサービス「Toami」(トアミ)を提供しています(図4)。

図4 Toami(トアミ)の特徴 ― M2Mアプリケーションをノンプログラミングで開発図4 Toami(トアミ)の特徴 ― M2Mアプリケーションをノンプログラミングで開発
〔出所 日本システムウエア株式会社〕

同サービスは、ThingWorxのプラットフォームを日本語化し、国内のデータセンターに配置して、日本の顧客に提供しているものです。これをクラウドで提供する場合もあれば、顧客企業のサーバ上にToamiの環境を構築する場合もあります。

NSWの役割は、プラットフォームの提供だけはなく、販売パートナーの教育やシステムの保守、センサーや各種デバイスメーカーとのアライアンス拡大などもあります。また、組込みOSの開発やデバイスの変更など、M2Mプラットフォームを主軸にトータルなサポートを行うのがToamiのサービスなのです。

Toamiを利用すれば、プログラミング作業をしなくてもさまざまな分野でM2Mを実現するアプリケーションを、自動で作っていくことができ、従来と比べて10倍の開発スピードを実現したのです。

─編集部:10倍速いとはどのような意味なのでしょう?

竹村:M2Mはアプリケーションの開発以外にも、例えばセンサーの開発であるとか、デバイスの接続などが入ってくるのです。それらをひっくるめてシステムと呼んでいますが、その開発のスピードのことを意味しています。

ここで「10倍速い」ということは、コストも1/10で済むということになり、システム全体のコストは下がってくるということになります。システムに関してのみいえば、従来通りのシステムの作り方に比べて10倍の開発スピードとなるのです。

─編集部:10倍となる要素は何でしょうか?

竹村:一番大きいのは管理画面を作るところです。センサーの情報を収集して、それらをモニタリングする画面を作るのですが、ThingWorxのプラットフォームを使うとほとんどプログラミングしないで作ることができます。M2Mで必要な部品がたくさん用意されているのです。

どのような作り方をしているかと言うと、例えばToamiで開発を行う画面上には、M2Mに関連する部品(ウィジェット)があらかじめ50数個準備されています。その画面で、接続する機器から送信されるデータを定義します。例えばGPSから送信されるロケーション情報、各種センサーからの温度、湿度、照度などの数値情報を定義しておき、これらのデータの定義さえしておけば、あとは画面上の部品とデータを組み合わせるだけでアプリケーションが開発できるのです。具体的には、地図上にすべてのデータをマッピングする、一覧表にすべてのデータを表示する、などです。

これまではコーディング注2して作っていたものが、ThingWorxのプラットフォームを使うとトラッグ&ドロップで簡単に作れるのです(図4参照)。

また、センサーから情報を集めてくるところも、専用モジュールの利用や標準APIへ接続することによって簡単にデータを収集して情報をクラウドに上げることができるようになっています。

─編集部:そうなると膨大なビッグデータになるのでは?

竹村:同製品は、M2M/IoTに向けた(を意識した)設計がなされているので、データベースはリレーショナルデータベース注3を使っていません。ビッグデータを蓄積(処理をする)するためだけに作られたプラットフォームなのです。ここが当社の独自技術であり核の部分で、他社にはない優位性なのです。

また、同製品はいろいろなところからデータをもってくるだけではなく、サードパーティのコンポーネントも活かすことができるようになっています。

つまり、非常によいアルゴリズムをもったシステムがあったときには、それを取り込んで同社のプラットフォーム上で動かすことで、分析などを行うこともできるのです。米国の場合だと、例えば「変電」に特化したアルゴリズムをもっている企業があるのですが、それを取り入れたアプリケーションを組み立てることによって、分析や予測ができたりするのです。


▼ 注2
コーディング:プラグラムを書くこと。

▼ 注3
リレーショナルデータベース:関係データベース。1件のデータを複数の項目の集合として表現し、データの集合をテーブルと呼ばれる表で表す方式。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...