開催テーマ“Focus On The Future”
▲DistribuTECH 2016が開催されたOrange County Convention Center(オレンジ・カウンティ・コンベンションセンター、米国フロリダ州オーランド)、2016年2月9〜11日。
DisribuTECH 2016は、78カ国から11,000人以上の参加者が集まり、出展社は504社であった(主催社が運営するメディアでの記事)注2。出展社のジャンルは、送電、配電自動化やメーター関連といった電力業界寄りのものから、IT&ソフトウェアや通信システムといったIT寄りのものまで36もの分野に分かれている。
今年のイベントのテーマは“Focus On The Future”(未来に向けて)となっており、主に米国における電力業界の今後の課題を意識した展示やカンファレンスが開催されていた。それでは、ここでいう「未来」とは何を指していたのだろうか。会場全体の様子からうかがえた「未来」は、1つはIoTなどの新しい技術の活用について、もう1つは再生可能エネルギー(以下、再エネ)などのさまざまな分散電源の活用についてであった。
新しい技術については、多くの展示ブースで「ビッグデータ」「クラウド」や「IoT」という言葉が並んでおり、IT業界のトレンドが電力業界にも影響を及ぼしていることを感じた。
一方、分散電源については、再エネなどの分散電源を活用すべきかどうかという議論から、「どのように」それらを活用すべきなのかという議論に変化してきた印象がある。つまり、ユーティリティとして、自社が管理する発電設備だけではなく、需要家側に点在する電源も含めて、統合的に活用していく方法を考えなければならない時期にきていることが見てとれた。
ユーティリティにとってのIT活用の未来
〔1〕Operational Technorogy(OT)/Infomation Technorogy(IT)
電力業界におけるITの活用は、IT業界を取り巻くビッグデータやIoTなどのトレンドの影響を大きく受けていた。これまでITとは直接つながっていなかったOT(Operational Technology、運用技術)が、ITと密接につながることによって生まれる新たな発想やサービスが、電力業界でも新しいトレンドとなっている。このような動きの背景には、既存のIT関連企業が積極的に後押ししているという要素もある。実際にDistribuTECH 2016では、AT&TやVerizonといった米国の大手通信キャリアやEricssonやIBM、Intel、Oracle、SAPなどの大手IT関連企業の出展も目立っていた(写真1)。
写真1 メイン会場に上がるエスカレータに大きく示されたOracleのブース案内。同社はサファイヤ・スポンサーだった。
写真2 位置情報との組み合わせで保守管理サービスを展示していたFOCUS ENERGYブース。
それ以外のソフトウェア系の企業も、ビッグデータやIoTといったキーワードを掲げ、位置情報技術と組み合わせて、地図上で停電が起きている場所や保守が必要な施設を特定できるようなサービスが多く出展されていた(写真2)。
〔2〕HANに対応する標準化団体やアライアンス
さらに、IT関連の技術を推進する標準化団体やアライアンスの展示も目立っていた。例えば日本発の無線通信規格として知られ、日本国内ではスマートメーターの通信にも採用されているWi-SUN(ワイサン)注3を扱うWi-SUN Alliance(写真3)や宅内のエネルギー管理機器用のインタフェース規格の策定を手掛けるUSNAP(ユースナップ)注4を扱うUSNAP Allianceなどが出展していた。
写真3 Wi-SUN Allianceブース。写真のボブ・ハイル氏(前ZigBee Alliance会長兼CEO)は、2015年6月にWi-SUN Allianceの標準担当ディレクターに就任。
写真4 デンソーはUSNAP準拠のHEMSを展示。
写真5 AutoGrid(オートグリッド)ブースに展示されていたOpenADR対応の機器類。
例えばUSNAPは、正式にはANSI/CEA-2045と呼ばれている規格で、既存のさまざまなHAN(Home Area Network)注5やデマンドレスポンス(以下、DR)規格に対応し、それらがユーティリティのシステムや需要家が利用している多様な機器やゲートウェイと通信できるようにするために定められたものである。具体的には、既存のサーモスタットや電気自動車の充電器、給湯器などの機器との通信を実現するための規格である。
そのほか、USNAP Allianceへの参加についてはIHD(In-Home Display、宅内ディスプレイ)や家電機器、太陽光発電関連機器、スマートメーターなどの開発を手がける企業の参加が推奨されている。展示ブースでは、日本からはデンソーがUSNAP準拠のHEMSの展示を行っていた(写真4)。
〔3〕実用段階に入ったOpnADR
DR規格であるOpenADRを扱うOpenADR Allianceは、OpenADRの開発状況を紹介していたが、OpenADR対応製品やサービスを提供しているGridPoint(グリッドポイント)やGridwiz(グリッドウィズ)、QualityLogic(クオリティロジック)などの企業が展示やプレゼンテーションを行っていた。OpenADRについては、OpenADR自体の技術開発は一段落し、OpenADRを採用した製品やサービスの開発が進むという実用段階に入ってきている印象があった。
例えば、OpenADR対応のサービスを提供しているAutoGrid(オートグリッド)は、ユーティリティがDRを実現し、運用するための支援システムとしてAutoGrid DROMS(Demand Response Opti-mization and Management System)を展示していた(写真5)。
AutoGrid DROMSは、クラウドベースで提供されるDRシステムのため、ユーティリティにとっては初期投資を抑えることができる。さらに、さまざまな条件のDRプログラムを一括で管理することができ、イベントが発動された後の状況をリアルタイムで監視することができるなど、ユーティリティにとって使いやすいサービスとなっている。ブース内で行われたプレゼンテーションには多くの参加者が集まり、多くの質問が出るなど、サービスへの関心の高さがうかがわれた。
▼ 注1
米国のほか、ヨーロッパやブラジル、ロシア、インド、アフリカ、アブダビなど世界各地で開催。
▼ 注3
Wi-SUN:Wireless Smart Utility Networks、電気、ガス、水道向けのスマートメーター用標準ネットワーク規格。IEEE 802.15.4g標準をベースにWi-SUN アライアンスで策定された通信プロトコル。日本では、スマートメーターと企業や家庭内にある宅内エネルギー管理システム(HEMS)との間(Bルート)などの無線通信方式として採用されている。
▼ 注4
USNAP:Universal Smart Network Access Port、USNAP Allianceによって策定された、宅内のエネルギー管理機器向けのインタフェース規格。
▼ 注5
HAN:スマートグリッド関係では、ホームネットワークをHAN(ハン)と呼ぶ。