英国スマートシティプロジェクトの先進的存在「ブリストル市」
さて、このようなICT/電力事情の中で、英国はすでにいくつものスマートシティプロジェクトを実施してきた。代表的なスマートシティプロジェクトとしてブリストル市、グラスゴー市、ロンドン市などを挙げることができる。今回はこの中から、今年(2016年)特に注目されているブリストル市を取り上げる。
ジョイントベンチャー「BIO」(Bristol Is Open)の立ち上げ
ブリストル市(図1)はロンドンの西169キロメートルのところにある港湾都市で、市内だけで約42万人、近隣住民も合わせると56万人が暮らしている。製造業や輸出港としての物流産業などが盛んな地域で、ブリストル大学と西イングランド大学という2つの大学がある。
図1 ブリストル市所在イメージ
ブリストル大学は国立の総合大学で、6つの学部と40以上の学科からなっており、特に、教育、英語、歴史の分野で高い評価を得ている。また、西イングランド大学は、英国で最大規模の人気校で、4つのキャンパスがあり17の学部から600以上ものコースを提供している。
同市のスマートシティプロジェクトがもっている大きな特長の1つは、ブリストル大学と共同でBIO(Bristol Is Open)というジョイントベンチャーを立ち上げ、そこが中心となってスマートシティ関連の革新的なシティサービスの開発および提供に取り組んでいることだ。
BIOが提供するスマートシティ構築向けソリューション
BIOでは、次のようなスケジュールでスマートシティ構築のためのソリューションを順次提供していくと発表している。
- 2015年11月:Data Dome
- 2016年04月:IoT Mesh
- 2016年 夏:Wireless Mile
- 2016年 秋:Full SDN/NFV
1:Data Dome(データドーム)の提供
Data Dome(図2)は、BIOが提供する最初のネットワークアプリケーションで、UHD※3(超高精細)なメディアコンテンツをネットワーク経由で映し出すことができるドームを開発・提供しており、ブリストル市のプラネタリウムに収容されている。ドームには98の座席があり、4K高解像度の半球状になっている3D画面が設置されていて、ブリストル大学のコンピュータと30Gbpsという高速通信速度でネットワーク接続されている。
図2 Data Dome(データドーム)の様子
2:IoT Mesh(IoTメッシュ)の提供
2番目のアプリケーションとして今年(2016年)登場するIoT MeshPDFは、市内全域に設置されている1500本の街灯を利用して、いろいろな種類のIoTセンサーを取り付け、市の任意領域あるいは全域をカバーするリアルネットワークを簡単に構築して、新しいアプリケーションの開発やテストを行えるようにしたソリューションである。
このソリューションを使ったアプリケーション例としては、交通渋滞の回避に役立つ情報提供サービス、スマートパーキング、大気汚染モニタリング、健康管理サービス、セキュリティ関連サービスなどが挙げられる。
なおIoT MeshではSilver Spring NetworksのStarfish(2015年末に発表されたIoT向けネットワークサービス)が使用されている。Starfishの通信速度は最大 2.4 Mbpsで、遅延は10ミリ秒、メッシュ可能範囲(ポイント・ツー・ポイントの通信距離)は、ほぼ無限に近い50マイル(約80km)となっている。
3:Wireless Mileの提供
上記2のほか、携帯電話のオペレータやアプリケーション開発者が5G(第5世代のモバイル通信技術)をテストするための理想的な動作環境として「Wireless Mile」を提供する。
4:Full SDN/NFVの提供
シティ規模でSDN※4を構築するテスト環境として、「SDN用コントローラ」(SDNC)※5やNFV technology and a network emulator※6の提供も予定されている。
※4 SDN:Software Defined Network、ソフトウェアによって柔軟にネットワークを構成・制御するための技術
※5 SDNC:Software Defined Network Controller
※6 NFV(Network Function Virtualization) technology and a network emulator:汎用サーバ上のソフトウェアによってネットワーク機能を仮想的に提供する技術
日本企業もブリストル市のプロジェクトに参加
一方、このブリストル市のスマートシティプロジェクトには日本の企業も参加している。
日本電気(NEC)は、2016年2月に BIOとパートナーシップを締結した。NECはBIOのプラットフォーム構築に、SDN製品や超小型無線通信システム「iPasolink」、LTE基地局などをBIOに提供する。また、SDN、5G、IoTなどスマートシティの実現に役立つ技術実証実験をBIOと共同で行うことにしている。